筋肉とポエムとしゃべる犬
「──闇が、私を呼んでいる……」
「いや、誰が呼んでんねん!!」
思わずツッコまずにはいられなかった。カイルと共に訪れた小さな村の広場で、いきなり詠唱っぽいポエムを、大声で語り出した少女がいたのだ。
ぱっと見、十四歳くらいの小柄な女の子。黒いマントに黒いリボン、そして、やたらキラキラした魔導書。
「我が名はミレイ=シェードフォール。契約されし漆黒の少女。お前たちも……闇に飲まれたいのか?」
「お断りやっちゅうねん!」
その瞬間、私のツッコミが発動し、突風が吹き抜けた。ミレイのマントがふわりと舞い上がる。
「きゃっ……! くっ、さすが、伝説の常識の刃!」
「なんやその異名!? なんで知ってんの!? てかお前、何者やねん!」
「私は、かつて魔王軍にスカウトされたほどの魔導士……しかし中二病が重症すぎて、出禁になった存在……!」
「クビやないか!!」
村の人に聞いたところ、ミレイはこの辺では有名な詠唱系ポエマー──もとい、強力な魔法少女らしい。
「でもね、彼女の魔法、実はあんまり効かないんです。演出だけは一級なんですけど……」
なるほど、ボケ枠その3ってわけやな。
「わかった。彼女、パーティーに入れよ!」
「またかいカイル! なんでもかんでも入れるな! ノリが軽すぎる!」
「でも、詠唱が超かっこよかったし! あれは正直、憧れる!」
「どこに憧れる要素あるねん!」
そんな騒ぎの中、ぴょこっと現れた一匹の柴犬。
「──その者たちに、試練を与えるべきかと」
「……犬がしゃべった!? しゃべる犬ってアリなん!? しかも低音ボイスやし!!」
「私はポチ。神獣の末裔にして、この村の監視者。あなたが、ツッコミの担い手であると聞き、興味を持ちました」
落ち着いた口調、まるでナビゲーターか執事のよう。ツッコミどころがなさすぎて逆に困る。
「マナ、オレこの犬、好きかも!」
「名前ポチって、ちょっとシンプルすぎん!? 由緒ある神獣ちゃうんかい!」
「ポチという名には、力も権威もいらぬという意味が……」
「そんなん後付けやろ!!」
その夜、ポチに案内され、村の裏山に向かった私たち。
「この奥にある魔力の泉には、魔王軍の影が現れ始めている。君たちが本当に旅をする覚悟があるか、見せてもらおう」
「了解や。こちとら命がけでツッコむ覚悟、できてるで」
「オレも筋肉、万全だ!」
「我が闇の契約書が……血に飢えている……!」
「夜にテンション上がるのやめぇ!!」