表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

巨笑姫メロ=ブハハ、襲来

「――あのとき笑わなければ、世界は救えた」


どこからともなく、そんなナレーションが響く。


「ナレーションのくせに不穏すぎるやろ!!」


私は思わず空にツッコミを飛ばす。 


目的地は、かつて笑いの禁域と呼ばれた土地、《ヒヒヒの森》


「ここには、最後のボケ四天王《巨笑姫メロ=ブハハ》がいる」


ポチが真顔で言う。


「やばい名前きたな……ブハハって音で油断しかけてまうやん」


「彼女の能力は、笑いで精神を崩壊させるというもの。あらゆる者に、自分のギャグがツボるように脳を上書きしてくる」


「それチートやん! 人の脳に干渉してくるタイプの芸人、危険すぎるわ!!」


「実際、過去に彼女のギャグで笑い死にした勇者もいる」


「ギャグで死人出すなよ!? ギャグちゃうやんそれ!!」


 


====


 


ヒヒヒの森に足を踏み入れた瞬間、空気がねっとりと重くなる。


「うわっ……なんやこの空気。湿気が全部変な笑いで構成されてる感じや……」


「マナ、気をつけろ。聞こえてくる声は全部ネタの断片だ」


耳をすませば、たしかにどこかで……


「タンスの角に小指ぶつけた瞬間、七味ぶちまけた男の話〜〜♪」


「なにその家庭内ギャグコント!!?」


一瞬でツボに入りかける。


「まずい、脳にくるぞ!」


「クッ……魔法《無表情の構え》!!」


私は無理やり顔の筋肉を固定する。笑ったら負けだ、今回は。


 


──そのとき、森の中心から異様な笑い声が響いた。


「ウフフ……アハハ……ブッハハハハハハハァァア!!!」


まるで頭のネジがすべて飛んでるような、凶悪なテンション。


「来たな……アイツや!」


 


そして現れたのは、ピエロ風のドレスに身を包み、顔の両端に笑顔を無理やり固定する魔女──《巨笑姫メロ=ブハハ》


「ワタシのギャグに笑ったら最後、アナタの魂も爆笑中毒♪」


「いやホンマに怖いっちゅうねん!!」


 


「さあマナちゃん、いくわよぉぉぉん♡

一発ギャグ──風呂場で石鹸踏んだゴリラがスケート始めるっ!」


 


ブフォッ!!!


「笑いかけた!? 今、今ちょっと吹いたやろマナ!!?」


「やってくれるやん……でもまだニヤリや……」


「フフフ、それじゃ第二撃ッ! 言い間違えて自己紹介で『はじめまして、冷蔵庫です』って言う妖精!」


「くっ……あかん、ツボに入る前に心を封印せな……!」


 


──今までの戦いとは違う。ツッコむことすらできない。


笑ってしまえば即終了。

でもツッコミは本来、「笑いを通じて世界と向き合う」力や。


「どないすんねん……ツッコミ魔法が……使われへん……!!」


 


「ククク……ほら、そろそろ顔の筋肉が限界でしょ?」


メロ=ブハハが高笑いを上げる。


「あなたも、こっち側に来なさいよォ……笑いの奴隷に……!!」


 


──絶体絶命。


ツッコミすら許されないこの戦いで、マナはどう立ち向かうのか──!?

 


「ツッコミができへん……笑ったら終わり……ほんまの意味で、無力や……」


ヒヒヒの森の中心、笑気に満ちた決戦場。

私は今、人生で初めて、ツッコミを封じられる恐怖に直面していた。


 


「どうしたのぉ? お口チャックしてんのぉ?」


メロ=ブハハは、目をぐるぐると回しながら踊っている。


「次のギャグはぁ〜……マカロンを武器に戦う騎士団長! 名前はサク・ホロリーヌ!」


「ブフォッ……!?」


鼻から何か出かけた。


「笑ったら終わりよ? でも笑わなきゃ……可哀想じゃない?」


 


──それだった。


笑ってはいけない。でも──

相手のボケに、何も返せないことの残酷さ。


 


私は今まで、ツッコミを攻撃やと思ってた。

けど、それは間違いや。


ツッコミは──救いや。


 


「……私、間違うとった」


私は深く息を吸い込んだ。


「ツッコミ魔法・封印状態──解除」


「へぇ? 自爆する気?」


「ちゃう。笑いを、否定せえへんツッコミを見せたる」


 


私はゆっくりと、一歩前に出る。


「メロ=ブハハ……あんた、ずっとボケ続けてるけどな。ほんまは、誰かにツッコんでほしかったんちゃうか?」


「──っ!?」


彼女の笑顔に、微かなヒビが入る。


 


「ツッコミがない世界は、地獄やって……アンタ自身がいちばん、よう知っとるんやろ?」


「や、やめてよぉ……笑ってよぉ……!!」


「だから、私があんたをツッコむ──笑わん。けど、ちゃんと見てる。」


 


私は手を掲げて、魔力を込めた。


「《最終魔法・包み込むツッコミ──わかるけどアカン!》!!」


 


ズガァァァァァァァァァン!!!


 


──空間が反転する。


笑いの霧が、ツッコミの波動で中和されていく。


 


「マカロン騎士団? かわいいけど防御力皆無や!!」


「冷蔵庫妖精? ドア閉めて出直してこい!!」


 


「──ああっ、私の……ギャグが……ちゃんと、ツッコまれてく……!」


メロ=ブハハの目から、涙が零れる。


「ずっと……誰にもツッコんでもらえなかったの……世界中がボケて、ツッコミがいなくなって、孤独で、寂しくて……!!」


 


──ボケは、ツッコミがいないと成立しない。


その事実を、誰よりも知っていたのは、彼女だった。


 


「私、笑わせたかっただけなのに……ツッコミがなくて、壊れてた……」


「大丈夫や。これからは……私がちゃんと、ツッコんだる」


 


──パァァァァ……


メロ=ブハハの身体が光に包まれていく。


「ありがとう……マナちゃん。あなたのツッコミは……ほんとに、最強だよ……」


 


──そして彼女は、静かに消えた。

 


「……これで、ボケ四天王、全員撃破やな」


ポチがぽつりとつぶやく。


「けど、これで終わりやない。全ての元凶は……」


「……魔王サルグレア。元・ツッコミでありながら、世界をボケだけのものに変えた存在」


 


「いよいよやな……ラスボスに、ツッコミかましに行くでぇ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ