転生したら唯一の『ツッコミ職』でした
「……え、なんでやねん!!」
私は叫んだ。気づけばそこは、見知らぬ草原のど真ん中。空はやたら青く、鳥は「ピヨピヨ」じゃなくて「ボケボケ」と鳴いていた。
「落ち着いてください。異世界転生、おめでとうございます」
目の前には、いかにもファンタジー風のローブを着たおじいちゃん。長いヒゲ、優しげな目、そして後光のようなエフェクト。これは……テンプレや。
「私は大賢者グルゼン。この世界『ユグルナ』に召喚されたあなたには、特別な力が与えられました」
「特別な力……チートスキルってやつですか?」
「はい。その名も──ツッコミ魔法です」
「なんでやねん!!」
今、人生で一番力強くツッコんだ。
「ご説明しましょう。この世界ではボケが魔力の源。皆、ボケることで力を引き出します。しかしボケが溢れすぎると、世界の秩序が崩壊するのです」
「つまり……ボケの暴走を止めるには、ツッコミが必要と」
「その通り! しかしこの世界には、ツッコミの文化がない。ゆえに、あなたは救世主!」
救世主の扱いにしては地味すぎへん!? 何でボケとツッコミで世界救うん!?
「これを授けましょう。鋭利なるツッコミ Lv1。ボケに対して反応することで、対象に精神的・時に物理的ダメージを与えます」
「もうツッコミって暴力やん……」
「異世界ですから」
「便利な言葉やなあ!!」
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街にたどり着いた私は、早速ボケの洗礼を受けた。
「いらっしゃいませー。こちら本日のおススメ、空気だけで作った透明シチューでーす!」
「見えへんやろ!!」
バァンッ! とカウンターにツッコミを入れると、店員が吹っ飛んだ。しかも、後ろの鍋が爆発した。
──魔法、発動してもうた。
「す、すごい! 伝説のツッコミが帰ってきた!」
街の人々がざわつき出す。
「これが……伝承にあったツッコミ職……」
「やっぱ伝承って何やねん!!」
自分でもびっくりするくらいツッコミが出る出る。何やろう、これ、本能や。
そして私は気づいた。この世界は、ボケに満ちている。いや、ボケしかおらん。
──これは、私のツッコミで、立ち向かうしかない。
そう腹を括った矢先。
「やあ君、勇者パーティーに入らないか?」
目の前に現れたのは、筋肉がTシャツを破りそうな男。剣を持ってるのに、腰に包丁も差してる。
「え、何それ怖い! なんで武器と調理器具一緒に持ってんねん!」
「自炊できる勇者、女子ウケいいって聞いた!」
「誰の情報やねん!!」
──こうして私は、筋肉脳の自称勇者・カイルと出会ってしまったのだった。
「君、名前は?」
「辻本マナ。高校二年、たぶんもう単位アウト」
「よくわからんが、オレはカイル=マッスルハート! 勇者だ!」
名乗ると同時に、彼はドヤ顔で筋肉をピクピク動かした。
「筋肉、見せんでええ!! なんの挨拶やねん!」
ピシャッとツッコミを入れると、また風が巻き起こり、背後の看板が粉砕された。
(あ、また魔法発動してもうた……ツッコミ威力、地味に強いな……)
「うわぁーっ! マナちゃんって、強いんだな! ならオレの旅に同行してくれよ!」
「何を根拠に!? ていうか、いきなりスカウトとか雑すぎん!?」
「だってさっき、空気シチューの店ぶっ壊してたじゃん。あれ、マジでカッコよかった!」
「見てたんかい!! しかもあれカッコよくないやろ普通!!」
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──そして、なぜか旅に出ていた。いや、流されすぎやろ私。
街を出たばかりの草原で、突然カイルが剣を抜く。
「モンスターだ、マナ! ここはオレに任せろ!」
バッと振り返ると、草むらからピンク色のウサギが顔を出した。手には……巨大なナタ?
「おい、ウサギやのに殺意すごいな!? なんでその武装!?」
「これはキリングバニーっていう魔物だ! 初心者殺しだぞ!」
「初心者殺すなや! めちゃくちゃやな!!」
カイルが勢いよく飛び出すが──
「くらえ! オレの必殺技、筋肉大回転斬りぃぃぃ!!」
「またすごい名前やな!? しかも回りすぎやろ!」
そのまま彼は勢い余って、自分の足に剣を引っ掛け、見事に自爆した。
「ぐはっ……これは想定内……筋肉でどうにかなる……!」
「なるかい!!」
思わずツッコミを飛ばすと、なんとその衝撃で、キリングバニーが吹き飛び、空中分解した。
……え、今ので倒したん?
「すごい……マナちゃんのツッコミ、最強なんじゃ……?」
「最強とか、そんなん言われてもなあ……」
でも、ほんの少しだけ、胸の奥があったかくなった。
「じゃあ改めて──俺と一緒に世界を救おうぜ!」
「……救う対象がボケってどうなん? 魔王とか出てくるん?」
「うん、魔王サルグレアってのがいて、世界をボケで染めてるらしい!」
「なんでやねん!!!」
叫びながら、私はうっすら笑っていた。
まさか、異世界でこんな旅が始まるなんて思ってなかった。でも──
ツッコミなら、私にできる。
世界がどれだけボケ倒してきても、私が止めたる。
「ええよ、カイル。行こか、ボケの魔王倒しに」
「うおおお! さすがマナちゃん! 勇者パーティ結成だな!」
「ちょい待ち、私ツッコミやで。役割、ボケ止める側やから!」
こうして、私とカイルのボケ&ツッコミ珍道中が始まった。
──これは、ツッコミで世界を救う、私の異世界冒険の物語。