今、良いところでしたのに!
ストックがなくなりました。現在時間が取れないため、更新お待たせします。(T . T)
ミシュルラは、家族に溺愛されていて、大事にされすぎていて、少しばかり不自由な思いをしているが、別にその生活が辛い訳ではない。
両親も、姉や兄達も、ミシュルラを守ろうとするのは、ミシュルラの命が、赤ん坊時代から何度も何度も消えかけた経験からくるものだ。
泣き声も上げられないぐらい、ぐったりして生まれた、小さな小さなミシュルラ。
新生児時代、乳母に任せている間に、この世から消えてしまいそうな小さすぎる天使の側から離れることなんてできないと、家族総出でベビーベッドを囲い、寝食をその場で済ます生活をしてしまったが故に、家の事業が全て止まりそうになったそうだ。
その時には、祖父母に叔父叔母を始めとする親族と、忠臣達に助けられたとか。
新生児から、乳児、幼児と続く時代も、高熱で意識が戻らぬ「失うかもしれない」という経験を重ねたバリラ侯爵家の家族達は、遠方の仕事をしなくて済むように、いつでもミシュルラの側に駆けつけられるように、仕事の調節をし、効率良く事業を維持できるよう、知恵を絞り、また、自身の手足となる優秀な側近の数を増やしていった。
少し成長し、少女となったミシュルラ。だけど、家族を安心させるだけの力強さは発揮できず、頻繁に倒れ、熱を出した。そんな時、バリラ侯爵家では、家族の誰か一人だけは必ず家にいて、可能な限り、ベッドで眠るミシュルラの側についていた。それが2週間になろうとも、1月になろうとも。
トテトテと歩く幼児時代。元気な時は屋敷内で小走りぐらいはできるようになった少女期。
その愛らしさで、全ての苦労が精算できるとデレデレする家族に、わかりやすく愛された。
栄養はあまり摂れなくて、成長は遅かったけれど、家族から常に注ぎ込まれる愛情で、彼女の精神はすくすくと育った。
10代に入るとミシュルラはあまり倒れなくなった。たまに熱は出すが、命の危険を感じるほどではなく、1週間もすれば回復し、食事も人並みに……武人である家族の食欲には大負けするが、一般的な同世代の令嬢レベルには摂取できるようになり、1つ2つと年齢を重ねるうちに、ほぼ熱を出さなくなり、過保護な家族に隠れ、身体を鍛えたりもできるようになった。
幼い頃からのミシュルラの趣味は読書と、寂しくないようにと家族から贈られた特注の人形を使った遊びだった。モデルは勿論家族達だ。全員見目麗しいので、着せ替え甲斐がある。ベッドの上で簡単に人形遊びできるように、体の前に被せるだけの簡易なお着替えセットを与えられたミシュルラは、手乗りサイズの家族達に新しい服を着せることを喜びとしていた。
家族からのお土産やプレゼントは、可愛らしいものが多かったが、そこに、ドレスのカタログや、軍服のカタログなどが加わるようになったのは自然な流れだった。
特に軍服のカタログを枕元に置いて眠るミシュルラを見て、家族は競い合うように、カタログを集め出した。ついには、遠い国の軍服カタログまで、ミシュルラのコレクションに揃うことになった。
多分、ミシュルラは、王国で一番の軍服カタログコレクターである。もしかして、世界一かもしれない。
他家からのバリラ侯爵家への贈り物として、軍服カタログが定番になったぐらい、親兄弟はミシュルラが喜ぶカタログが集まることを歓迎した。
成人してからのミシュルラも、軍服カタログが大好きなままで、家族から贈られるドレスよりも、趣味で作る自作の軍服を普段着にした。許可を得ていない軍服を、外には着ていけないから、家で着るのだと。
家族からの依頼で、バリラ侯爵家の制服を作ったこともある。ミシュリラの配下と化した、お抱え縫い子と全力で作り上げた。
出来上がった服を家族に着せてみたら、悶絶するぐらい素敵で、興奮しすぎてひさしぶりに倒れそうになったぐらい、素晴らしい出来に仕上がった。
都合の良いことに、バリラ侯爵家は武人の家だから、日常的に使う家の制服があり、それを少し弄るぐらいなら毎年でもできる。ミシュルラの身体の負担にならない程度に、趣味として。
でも、ミシュルラは、王都という都会で着る制服ではなく、軍といえば辺境よね、な、実戦をする軍人が着る軍服の方が好みだった。
こっそり磨いたもう一つの趣味で、軍服の価値を上げる自信もある。
これはもう、辺境に行くしかない!と、鼻息荒く、武官の募集要項を眺めたが、王国兵の採用は王都でするらしく、身体条件が近衛兵と同じ内容となっていた。
そこそこ育ったはずだが、足りなかった。身長が。
かといって、嫁入婿入りするならともかく、他所の家である、辺境伯の軍に、バリラ侯爵家の人間が下っ端として所属するなんてできるわけがない。
仕方がなく、家族に隠れ、試験が簡単な王都警備隊に入隊した。王都警備隊の制服を改良し、認められれば、もしかして特別推薦しおてもらえるかもしれないと考えたのだ。
練習として、兄のクローゼットに入っていた、護衛依頼を受けたときにだけ着用する、近衛騎士の制服をいじってみたが、地味な機能しか付けられず、まだまだ修行が必要ねと自信をなくした。
父の親友の近衛騎士団団長が、練習に使って良いと、たくさん制服を預けてくれたので、毎日コツコツ修行することができ、団長に感謝した。
ついでに、身長無視の特別推薦枠で軍に採用してくれたら、もっと感謝できたが、そんなお願いをすれば家族に、辺境での仕事を希望していることがバレてしまうので、おねだりは我慢したミシュルラである。
自身の行動を家族から完璧に隠せていると、信じている可愛いミシュルラちゃんである。
こっそり入隊できたと信じる王都警備隊で、想像していたよりかなり軽いレベルの新兵訓練を受けていたら、視察で訪れた王太子殿下に捕獲された。何やら美味しそうな話を振られたので、ついうっかり気軽に承諾したら、面倒くさいことになってしまい……今に至る。ミシュルラ、もしかして、脳筋か?
面倒くさい面倒くさいと考えながら、流されるまま、どんぶらこと、化ける準備が一番大変だったミッションをクリアしたら、神様の褒美なのか、趣味を語るチャンスがやってきた。勿論、それを逃すミシュルラではない。
「入隊してすぐに、たまたま視察に来た殿下に、ロックオンされたの?でも、今着ているその服。王都警備隊の制服ではないわよね?」
ソーシス先生による、フリである。フリ。
軍服を語らせたら、寝食を忘れるからと、家族はあまり振ってくれなくなったけれど、捨てる神あれば拾う神ありなのだなと、ミシュルラは神に感謝して、ソーシスの肩をぐわしっと掴み、軍服への愛を伝えた。
まずは、イチオシの他国の軍服と出会った、あの日の感動を伝えたい。
2番目、3番目、10番目ぐらいの推し軍服のことも全て語らねばならない。
今着ているその服。王都警備隊の制服ではない……についても語りたいが、それはもう少し後で。
そうして、ソーシス先生に4番目の推し軍服への愛を語り出した時、王太子殿下からの呼び出しを伝えられた。
何故、今?
今、良いところなんですよ!!
あまり高くないミシュルラの中での王太子殿下への好感度が、また下がった瞬間である。