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会議は辛い

 待機中の王城内女性専用救護室で、女医のソーシスにより、ミシェルラの《《スイッチ》》が入ったであろう時間より少し前。


 別のフロアにある会議室内で待たされていた貴族達による、我こそは事情通!的な暴露大会は、唐突に終わりを迎えていた。


 急に会議室に集められた上に、結構な時間を待たされていた貴族達だが、その不満を顔に出すことなく、一様にキリっと真面目な顔を作り、入室してきた王太子殿下に、会議室内で許されている簡易の礼をとっていた。


 王太子殿下の後ろから、クリステラ公爵や宰相、近衛騎士団と王都警備隊の団長達も姿を現した。


 王太子殿下はご機嫌な様子でニコニコと微笑んでいるが、公爵以下は引き攣った顔をしている。それを見て、暇つぶしを兼ねて呑気に情報交換という名の噂話に興じていた貴族達の顔が強張る。彼らが感じたのは、いわゆる、嫌な予感というやつである。


「いやいや、皆、待たせて悪かったね。この度の事件では、若輩者の私が色々口出ししたせいで、迷惑をかけたと思うが、安心して欲しい。今日先程の殺人未遂犯の捕縛をもって、全対象者を牢に入れ終えたよ」


 ここまで屈託の無い笑みを見せていた王太子殿下であるが、ここから、突然、打ちひしがれるいたいけな少年に変貌した。


「まさか、私の婚約者であるクリステラ公爵令嬢まで、被害に遭うなんて信じられない思いだ!これまで馬車での移動中に襲われる者が多かったから、護衛を増やし警戒もしていたが、この王城内であんな直接的で凶悪な行動に出るとは思わなかった。


 ああ!もしも近衛の者たちが間に合わなければ、私《《の》》、私《《の》》、リフィ……大事な、クリステラ公爵令嬢は冷たくて硬い床に身体を叩きつけられ、大怪我をしたか、命を失っていただろう!


 ああ!私《《の》》、私《《の》》っ、リフィがっ、無事でよかった!」


 フルフルと震え、泣き出すんじゃないかというその姿を、日頃の王太子殿下を知らぬ者が見れば、大事にしている婚約者が被害に遭いショックを受けている少年にしか見えず、同情したことだろう。うっかり涙してしまう者も出たかもしれない。


 だが、ギャラリー、いや、会議室にいる者達が出していたのは、嫌な汗というやつだった。



「あんな凶行に出るなど、あの女は最早人にあらず。あの女の仲間もそうだ!

 王国の民を守り、導くべく立場の者が、しっかりとその罪の重さをわからせないといけないだろう。


 人でない凶悪な生き物にも理解できるように、《《念入り》》にな。


 既に明らかになった罪が多いと聞くが、きっとまだ隠している罪が大量にあると思う。

 時間をかけ、凄腕の者が尋問すれば、命があるうちに白状するだろう。《《私はそう信じている》》。


 では、未成年の私はこれで失礼する。


 私も勉強のために、この部屋で傍聴した方が良いのだろうが、今日は怖い思いをした可哀想なクリステラ公爵令嬢の側に、婚約者としてついていたいと思う。


 後のことは、信頼できるここの皆に任せる。

 くれぐれも、《《よろしく》》頼む。


 頼りにしているぞ!」



 犯罪者より凶悪な笑みを見せ、颯爽と部屋から立ち去った少年……王太子殿下を見送る大人達の顔はほんの数分で疲労の色を見せていた。



 王太子殿下が部屋の入り口で演説を始めたせいで、部屋の入り口付近で立っているしかなかった、クリステラ公爵や宰相、近衛騎士団と王都警備隊の団長達が、室内にある円形テーブルに向かうと、それに続く形で部屋のあちこちに散らばり立ち話をしていた貴族達全員が席について、この場を仕切るであろう宰相の顔を見つめた。



「では、クリステラ公爵令嬢殺人未遂犯とその仲間による凶悪犯罪事件に対する審議会を始める。まずは、デンペル近衛騎士団長から、明らかになったことの報告を」


 宰相から指名を受けた、近衛騎士団長であるデンペル侯爵が話し始める。


「今回の犯罪者集団による被害は広範囲に渡ることが判明した。期間は6年だ。4つの貴族家当主夫人の殺人。全て病死や事故死だと思われていたものだ。そして、2つの貴族家当主夫人の殺人未遂。これも同じくだ。


 8名の貴族令嬢の誘拐未遂、20名の平民女性及び少女の拉致監禁と人身売買、30家に及ぶ平民の家への恐喝、貴族家への脅し。何もこれまで関連していると考えられていなかったものだ。


 平民犯罪者が貴族子息や令嬢だと偽り貴族家の催しに入り込んでいたが、この王城にも入り込んでいたし、本日はクリステラ公爵令嬢に対する殺人未遂もあった。


 この犯罪には40名の平民と4名の元貴族子息子女が関わっていた」



 想像していたよりはるかに多い、犯罪数とその凶悪さ、そして、自身らの日常にまで入り込んでいたであろうその近さに、会議室にいた貴族達は慄いた。


 死んだ方がマシと思えるような苛烈な処罰を望む、先程の王太子殿下の(ルビ)がなくても、犯罪者達の未来はもう決まったも同然だ。


 また、多くの貴族家の恨みをかっていることから、その犯罪者の家族や親族も無事ではいられないだろう。



 会議室にいるものは、ここから数時間、判明した悍ましい内容の犯罪について聞き続けることになり、休憩を挟んで、その後の対応を話し合うことになった。



 参加した貴族達の精神をゴリゴリに削ったこの会議のことは、後世まで語り継がれ、歴史と記憶に残ったのだった。


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