幼馴染がキープ扱いしてきたので断固拒否します
なんらかの物語前夜だけど難を逃れた主人公(運のいいモブ)幼馴染の方は多分中盤とかでしぬ。
「いざとなったらお前がいるもんな。
オレ、先輩に告白してみるよ!」
晴れやかな顔で笑う幼馴染に唖然とした。
お前がいるって何。いざとなったらって。
幼馴染のロージーは少しやぼったいところがあるけれど、悪い奴じゃない。むしろイケメンの部類だし、女の子に贈り物や呼び出しを仲介してくれと頼まれたことだってある。
だけれど今の今まで私をキープだと思っていたなんて知らなかった。
そりゃ初恋は彼だった。親同士が仲良くて一番身近な存在だったし、一緒に騎士学校に行くために猛勉強するくらいは好きだった。
だけど彼が周囲の女の子にモテはじめ、調子に乗り出したころにはすっかり醒めてしまったのだ。
おまえおしゃべりの割に内容なんもないな、あの店にかわいい子猫がいるとかあそこに生えてる木は食べられる実がなってるとかどうでもいいよ。
せっかく王都に来たんだからおしゃれしなよ、オレまでダサく思われんじゃん。
そう言われたのが決定的だった。そりゃおしゃれに興味がないわけじゃないけど、実家が太いわけじゃないからなるべく切り詰めてはいた。髪飾りひとつでも2~3日の食事代と思えば優先順位は低かったし、新入生で髪飾りなんかつけていると上級生に目を付けられる。
村で買った一張羅でも王都のおしゃれな女の子たちと比べたら、そりゃ田舎臭いダサい女だろう。
腹が立ったし落ち込んで、ひと月くらい口をきかなかったけど、それでも嫌いになれなかったのはいつまでも兄妹みたいな関係だと思ったからだ。
機嫌直せよ、と行ってみたかったカフェに連れて行ってくれたのもある。なんだかんだ喧嘩をすると折れてくれた。
同郷の幼馴染。それ以上でもそれ以下でもない。
そして先輩というのは、二つ年上の最高学年、クララ・ランディ先輩だ。
ウェーブした輝く金髪に男性に劣らない高身長、何よりスタイル抜群で社交の場ではタイトなドレスを着こなしている、らしい。
まだまだ数が少ない女性騎士として優秀な成績を修め、卒業後は高貴な女性専門の護衛騎士として働くのだとか。女性騎士というのは男性が入っていけないところでこそ重宝される。ほぼほぼ戦場に出されることはない。
ランディ先輩は見た目の妖艶さに反しカラッとした性格が男女ともに人気がある。身分も男爵令嬢で、庶民の私たちなんかとは一線を画していた。
それでも私が彼女を苦手としているのは、たくさんいる求婚者の中から幼馴染は絶対に選ばれないだろうとわかっているからだ。
彼女は甘え上手でもあった。普段凛とした彼女に甘えられれば誰でもメロメロになる。
彼女の取り巻きの中、思いっきり態度に出るのが幼馴染でその反応を楽しんでいる節があった。
「ほら、幼馴染ちゃんが妬いてるわよ」
と私までからかいに巻き込まれる。これが好きな頃に言われていたらどんなにみじめだっただろう、と思えば彼女に苦手意識が向いた。
告白結構、結ばれようがどうしようか知ったこっちゃねェ。
だけど故郷で傷心のあいつと式を挙げるなんざまっぴらだ!!
どんなに拒否しても親は私があいつ好きだったの知ってるし、田舎のおせっかいおばちゃんの圧で無理やりくっつけられかねない!!
お断りだバーカバーカ!!
私は以前声をかけられた実地訓練に志願することにした。善は急げとばかりに荷物をまとめ、三日後には王都を発った。
なので知る由もない。
隣国からの難民によってアンデッドが発生。瞬く間に広がっていくことを。あっという間に王都が壊滅、ゾンビだらけの中ロージーたちが物語の主人公のようにサバイバルすることも。
実地訓練先に引退した伝説の騎士がおり、彼が私たちを率いてアンデッドたちを倒していくことも、この時はまだわからなかった。
え、私のラブロマンス? 知らない子ですね。
最近見たゾンビ映画でもやっとしたので。美人の幼馴染←冴えない主人公←おしゃべりな女の子っていう片思い?な感じだったのに、おしゃべりな女の子が中盤ゾンビになって現れたら「このおしゃべりクソ女め!」て意気揚々と頭を叩き潰す主人公にドン引きして…別にオタクく~んみたいに嫌な絡み方されたわけじゃないのに(むしろ陰キャに話しかけてくれるいい子な気がした)というもやもやをこちらにぶつけました。