後
「腹減った〜」
誰が呟いたか、その一言でシミュレータに夢中だった皆があることを思い出した。
「やべぇ!どのくらい時間たった?」
キミが叫ぶ。
『搭乗から5時間が経過しているため、休息を奨励いたします』
キミの叫び声に反応したのか、そんな音声が流れた。
確か、冒険に出発したのは一度薪を集めて村へ持ち帰った後の話だから昼過ぎだった、そろそろ日も落ちあたりは暗くなっている頃だろうか。
「穴の話は知らせてあるから騒ぎにはなっていないかもしれないけど······」
日暮れを忘れて冒険してたとなると、何を言われるか分からない。
「いっそ、コレに乗って帰れば良いんじゃないか?鉄騎士の発見なら怒られないって」
ニコの提案を否定する者は居ない。
「ここから出る方法は分かるか?」
ニコがAIに問いかける。
『現在当騎が置かれている位置は隠蔽シート脇です。シートを除ければ行動可能になります』
そう言って基地があった当時の地図と現在位置が表示された。
だが、それは明らかに現代の地形とは異なるモノで、本当に信じて良いか怪しい。
「現在位置は裏山中腹じゃなくて、台地の地下?いやいや、オカシイって」
とは、操縦するキミの意見。
「あの穴からここまでの距離を考えると、その隠蔽ナントカは土の中だなぁ」
と、ニコも腕組みをする。
なので、僕は追加で地形が変わって目の前に厚さ数メートルの土があることをAIに伝えてみた。
『それでしたら主砲により脱出路の確保が可能です』
どうやらAIの計算では、主砲で穿てば脱出できると言う。ふと、ニコを見る。
「分かった。マチルダⅡ起動」
この騎体に搭載された主砲は何と、魔導レールガンであるらしく、榴弾の類は用意されていない。ドコの2ポンド砲だ!
その為、「ソフトな目標」を排除する魔導銃や機関銃が備わる訳だ。
シミュレータでは更にミサイルの搭載もあったが、失われたのかもとから搭載していないのか、それらしきランチャーは騎体に見当たらなかった。
方角はちょうど何もない渓谷なので、少々何か起きても問題ないはずだ。
「主砲弾生成」
ユハがそう宣言して機器を弄る。何と、この多脚戦車は弾を搭載しているのではなく、生成する。ただ、これは魔導銃やレールガンの話であってミサイルはその限りではない。変形ロボみたいなマイクロミサイルを多数発射するような芸当は期待できないらしいね。ランチャーがあっても次発出来ないからあんま意味ないし。
「主砲弾生成確認」
主砲弾生成が僕のディスプレイに表示され、射撃モードが起動した。
「発射」
シミュレータで行ってきた動作をこなし、射撃ボタンを押す。
目の前が一瞬減光されて暗くなった後、通常の暗視モードへと復帰する頃には、見事ポッカリ穴が開いていた。
「前進開始」
それを確認したニコの言葉に合わせて
「前進!」
キミも復唱して騎体が一気に加速する。
外は予測通りに渓谷側で、見えた穴は小さかったが、崩れた斜面はかなりの面積になったらしい。川が堰き止められている。
「この川って村の下を流れるヤツだよな?」
キミが確認するように問う。
「間違いない。すぐに湖だから決壊しても大丈夫だ」
ニコがそれに応える。
『警告。地形に著しい変異を確認しました。近隣における電波発信も確認できません』
地表に出たのに電波が一切発信されていない。僕らは理由も分かっている事だった。
『電波を受信出来ないため視程内のアシストだけに限定されます。標準時間の受信も出来ないため、各種システムのオート機能は使用出来ません』
続けて行われた警告によって、ミサイルなどの長距離誘導が効かず、索敵も搭載された光学センサー頼りとなるらしい。
「古代って凄かったんだな。マップやオートが使えないなんて、俺の負担半端ねぇじゃん」
ニコが文句を言うが仕方ない。地形が違うしデータリンクなんて無いのだから。
「そもそも、コイツはそんな状況下で第四世代と戦争する鉄騎士なんだから」
僕はニコにそう言った。
シミュレータの敵は大半が自律型ロボットや車両だった。
AIの解説によると、第四世代をいち早く実用化し、実戦配備したチャン・ハンという国で自国軍や国民すらもAIから不穏分子や反乱分子と判別されて攻撃を受ける事態が発生し、隣国だったこの騎体の開発国はすぐさま第三世代で採用していた人間優先のプログラムへとAIを変更し、装甲や武器のみを新世代型としたらしい。
その自動修復装甲や自己生成弾の制御、情報管理をAIが担い、行動判断は人間が下す。それが第五世代と定義されたんだとか。
それからしばらくはチャン・ハン国内に留まっていた混乱が、他の国が開発したAIにも波及し、気がついたら人間とロボットが戦う世界が広がっていた。
そこに一部の国が乗っかり混沌とした戦況に陥ったトコロまでは記録にあるそうだ。
何だそれ。
騎体の地図はアテにならないので、ニコとキミがマニュアルで針路を決めながら進んでいると村が見えてきた。
「案外楽勝だったな」
村が見えた事で僕らはホッとした。
まあ、本当の問題はそれからの話で、村に着いたら大騒ぎになって僕らが騎体から顔を出すと怒鳴られる事になった。
「穴を見つけた事は聞いていた。だが、勝手に探査するなと言った筈だが?」
長老達に囲まれてそう言われたが、そうなん?
「ニコ、お前には話がある。こっちへ来い」
僕らの行動からニコが話していなかった事を察したのだろう。長老達はニコを連れていき、僕たちは解散となった。
翌日、騎体を大人達が取り囲みんでいたが、誰もハッチを開けることが出来ないらしかった。
昨日はハッチを開いたまま降りたハズだが、自動で閉まったんだろうか?
「こんな鉄騎士は見たことない。もし、物語の通りならガキどもが選ばれたってことか?」
そんな声も聞こえてきた。
「おい、ミカ。お前らは普通に乗れたんだよな?」
僕を見つけたひとりがそう聞いてくる。
それで思ったのは、認証登録と言った通り、僕らのデータがこの騎体に登録された事でそれ以外の人間を受け付けなくなったんだろうという事。どう説明したもんかなぁ〜
少し考えてみたが、良い考えは浮かばないので物語のひとつをそのまま騙ることにした。
「多分、僕らは受け入れてくれたんだと思う。ほら、英雄譚にもあるでしょ?鉄騎士が適正者を待っていた話」
実際には基地の緊急事態で誰でも乗れる状態だったか、物資集積地だから、そんなモードになっていたというのが正解だと思うけど、それを言っても理解されそうに無いしね。
それから数日は乗せてもらえなかったが、僕らだけが普通に動かせると分かって、マチルダⅡによる村周辺の警備という仕事が追加された。
『当該地域のマッピングを行うため、周辺での行動を奨励します』
というAIの言によって、僕らは村周辺をけっこう広く移動してみることにした。
「鉄騎士って魔獣や魔王を察知して戦うんじゃないのか?」
というキミの疑問には誰も応えることが出来ない。AIもそれに対する答えは持っていないらしい。それもそうだろう。騎体に装備された光学センサーによって分かる範囲なんて肉眼プラスアルファだろうからね。
それに、英雄譚なんてこうして発見されて運用されているであろう鉄騎士の一部の活躍を描いただけじゃないんだろうか。騎士が冒険者であるならば、歌や劇になるような大活躍ばかりが仕事ではない。もっと地道な活動を生業にしているだろうし、勇者だとしたら、それは何らかの危機に際して立ち上がった存在の事だろうからね。
そんな、いつもの日常にロボットが加わった何の事はない日常がしばらく続いたのだが、ある日AIが警告を発した。
『上空を自律飛行型が飛行中です』
ヘルメット型ディスプレイのままふと上を見上げるとソレが映し出された。
「あれって時々見るドラゴンじゃないかな?」
と言ったのはユハだった。よく見てるな。僕なんて全く気が付かなかった。
『飛行型より発信を確認。照会を受けています』
という報告である。さて、二コはどうするのかな。
「無視じゃダメなのか?」
それが良さそうな気がする。下手に通信すると攻撃を受けそうだし。
『照会の無視を奨励します』
AIは二コの問いを肯定するらしい。それを聞いた二コは照会の通信を無視する。そもそも、相手の通信はチャン・ハン語なのだろう。僕らの聞いた事がない言語だった。その後、文字通信でメッセージが送られてきたが、僕らの知る古代文字では理解できない文字もかなり含まれるので、一応、内容の概要は分かったが、それ以上の事は不明だった。が、重要な事は判明した内容だった。
「アイツ、仲間を呼ぶ気だ!撃ち落とせないのか?」
そう、メッセージによると、応答が無ければ仲間を呼ぶ的な内容が含まれていた。
『主砲ならば撃墜可能です』
との事だったので
「撃墜する。射撃用意」
二コの号令と共にユハが主砲弾の生成を始める。
「ユハ、3発頼む。連続射撃を行う」
僕はユハにそう宣言して照準作業に入る。照準作業中の姿勢制御はキミから僕に移るので、僕がジョイステックを操作すると騎体は主砲を空へと向ける。その間に3発の弾が生成を終わり弾倉に装填されたとのシグナルが点灯した。
照準はまるで戦闘機の機銃のように予測弾道が飛行型へと伸びている。
「発射!」
連続して発射すると衝撃と共に一気に体までだるくなった。かなり魔力を持っていかれたらしい。
「よし!2発命中。撃墜を確認した」
ズームで捉えていた飛行型に二発が命中し、三発目はその破片を更に砕いたのを確認した。
騎内は大歓声だが、ふとアイツのメッセージが頭をよぎる。
「仲間って、どこから来るんだろう?」
先にその疑問を口にしたのはユハだった。
まずは騎体にある広域マップで当時の状況を確認してみることにした。
そのマップによると、この村があるのは大きな島の半島付け根部分であるらしい。まるで樺太と北海道がつながったような地形で、その稚内あたりだ。チャン・ハンの自律型軍団が樺太最狭部まで迫った状況であることが分かる。
「この後どうなったんだろうな?」
『当時得られたデータはこれが最後です。以後の戦況は分かりません』
と言うAI。そりゃあそうか。知ってたけど。
僕らが鉄騎士で何かを砲撃した事は村でも当然話題になり、例の事実を告げた。
「空を飛んでいる魔獣が居たっていうのか。ソイツに発見されたとあっちゃぁ、一大事だ」
という事で防衛態勢が敷かれることになった。
事態が動いたのは5日ほど経ってからだった。小型の装軌車両っぽい奴らが現れた。
「コイツがアレか?ムカデ型魔獣か?」
という二コ。
『自律型戦闘車両です。機関銃で撃破可能です』
というAIの補足説明に従って機関銃で攻撃を行う。
10両は居ただろうそいつらを何とかバラバラに破壊できた。
『レーダー波を感知しました』
との警告と共に現れたのはプレデターの様なドローンだった。
「コイツも機関銃か?」
そう問うと
『魔導銃が有効です』
というので、魔導銃を照射すると10秒くらいで爆発した。
「シミュレータより楽かもな!」
というのは二コ。確かに、敵の連携もシミュレータほどではないし、数も思ったほど多くは無かった。
「でも、そう思ってるときほど危ないよ」
というユハの忠告はしっかり受け止める。
「そりゃあ、そうだろ。まだ魔王が現れてねぇからな!」
ヘルメット型ディスプレイを被って周囲を見回しながら二コが応じる。
そして、何かを発見したらしい。
「いたぞ、デカブツだ!」
それは確かにデカかった。10メートルはありそうな人型ロボット。アレも自律型なんだろうか?
『チャン・ハン製J25型です』
シミュレータでの記憶を手繰ると、治安維持用の自律型ロボであっただろうか。何だか仕様が異なる気がするが。
「主砲発射用意!」
すでに5発ほど弾倉に弾が用意されているので、すぐさま主砲発射を実行した。
「発射」
意外な事に自律型ロボは何の抵抗も見せずに大穴を開けて停止している。何だかあっけなかった気がするが?
「アイツは雑魚だ。本命はこいつ等だろ」
というキミの言葉通り、何やら低姿勢なマチルダⅡとよく似た騎体がいくつも見えている。
「機動戦を挑むとはいい度胸だ。受けて立ってやんよ」
キミの言葉通り、相手の放つレールガンをすべて避けていく。
「ミカ、街道方向に指揮車両。あれから狙え」
という二コから映像が転送されてきた。なるほど、特徴的なアンテナを付けた車両だ。
キミが操縦する間を縫うようにそいつを狙う。キミもそちらへと騎体を向けたのでちょうど狙える。
「指揮車両と周辺の2両を狙う」
そう宣言して照準の行い、続けざまに放ったうちの2発が命中した。残念ながら指揮車はアンテナ破損だけらしいが、それで十分だったらしい。自律型多脚戦車は個別に動き始めたので狙いがつけやすくなった。
「コイツはすげぇや。相手の弾を弾いてる」
キミが回避し損ねて命中したが、装甲が弾いたらしい。
その隙に次々と多脚戦車を撃破し、何とか周辺の敵は一掃できたらしい。
ふと村が心配になったが、どうやら村まで侵入した敵はいない様で、ただ警戒を続ける人たちが見えるばかりだった。
『視程内に敵影無し。警戒すべき電波発信も消失しました』
というAIの報告に僕たちもようやく緊張が解けた。
「鉄騎士スゲェな!」
という二コ。しかし、顔にはうれしさだけでは無かった。
「これが第五世代って奴なんだろうな。しかし、コイツがあると・・・・・・」
そう、こうした鉄騎士を探し出して襲撃してくる自律型が居ると知れた。英雄譚の幾つかも、実は襲撃を受ける側の話だったのかもしれない。
「今はその事は伏せておいた方が良いと思う。本当に危ないのか、もっとちゃんと見極めた方が良いと思うから」
そう言うユハの意見に皆が賛同した。そうだよな。
もし、この機体が原因だからと言ってどうにかできるわけじゃない。この村がマークされた可能性もあるんだから、おいそれと元の場所に返す事が正解って決まった訳じゃないしな。
やれやれ、せっかくの転生スローライフが何だかラノベ主人公みたいな騒動に上書きされたかもしれない。これからどうなるんだろうな。
僕はハッチを開けて空を仰いだ。
さて、僕らの戦いはこれからだ!
というところで完結。
ちなみにPanssarivaunuはフィンランド語で戦車。
タイトルを日本語にすれば機甲戦記かな?