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 やれやれ、せっかく異世界転生してスローライフな村人生活を送っていたというのに、何でこんな事になったのやら。


 あれはひと月前の事だった。

 僕たち成人一年組は薪拾いや炭焼きの手伝いを専らの仕事にしている。


 転生を自覚したときは村人ってフレーズにビビりはしたが、ここは中世ヨーロッパ程は貧しくなく、中世日本の様な殺伐とした世紀末世界でもなかった。


 何処かほのぼのとしたナーロッパ世界だった事にはホッとした。

 とは言っても、熱帯地域みたいに時間感覚すら失うほどには豊かではない。ちゃんと農耕をしなければ食べる物に困る程度には、厳しい場所だ。


 それでもはるか昔に整備されたらしい中東のカナートに似た地下水路網によって農業は比較的やりやすく、主食は収量の見込める芋と、飢饉に強いソバ風な穀物で成り立つ。


 この世界はどうやら古代文明の崩壊によって先進技術が廃れ、各地に遺るその遺産によって社会が成立している。

 こんな田舎の村にもそんな遺産が存在し、遺跡から掘り出した資源を融かしたり整形する鍛冶屋が居たりするんだ。

 その上、それらは魔法で成り立つ世界なんだぜ?


 中々に暮らしやすく、スローライフに最適な世界観には安堵したよ。

 ただ、21世紀地球の常識はほぼ通用しない。人権やらプライバシーやらの概念は根本から違う。


 当然のように乳児死亡率も高くて、衛生的でもなかった。

 そこは少し改善したよ。転生チートを活用してね。


 開拓アイドルたちの番組で知った手押しポンプを鍛冶屋のオッサンにつくって貰ったから水くみは楽になったし、畑の水やりに手回しポンプを導入できたことは革命だった。


 でも、芋は脱穀が必要ないし、ソバは脱穀機なしに簡単に脱穀出来るから、アイドルたちの番組から得た農業知識はあまり有効活用出来ていない。


 そうそう、魔法があるって言ったけど、魔法を使えるのは大抵が古代文明の道具を用いてだから、電気やガソリンの替わりに人の魔力を利用している魔導具って言うのが正しいのかな?

 水洗トイレや水道の蛇口、家庭用ボイラー、照明なんかは、残念ながら存在しない。だから、手押しポンプを各井戸に設置して手洗いを奨励したり、古代書に書かれていた事にして定期的に体を洗う事を奨励したりしている。


 古代書が読めるなんて村人には無理だろ?って普通なら思うよな?

 そこはほら、魔導具だよ。


 古代文字が読めないと魔導具を掘り出しても使えないから、国の言葉は解らなくとも、古代文字なら理解できるって言うのが、一般ピーポーの常識だったりする。


「おい、裏山に新しい穴を見つけたんだ。行ってみようぜ!」


 村で山に入って薪拾いをする僕らの特権とでもいうか、役得かな。こうした新発見や冒険が時折やってくる。


 古代遺産であるカナートを利用しているって事は、近くに古代の街なり農村なりが埋まっている訳で、そこを掘り出して魔導具を得たりするんだ。


 うん?領主が所有権を主張しないのかって?


 魔導具の価値にはかなりの落差があって、日用品なんてありふれているから貴族が絡んできたりしない。ただ、都市遺跡(ダンジョン)が見つかると、その管理をやったりはしているらしい。

 

「鉄騎士とか埋まって無いかな。ヤッパ憧れるだろ、騎士ってさ!」


 などとはしゃぐ声に促されながら、見つけたという穴へと向かう。


 鉄騎士というのはよく歌われる英雄譚みたいなモノで、行商人が連れて来る吟遊詩人や人形劇団なんかがよく演じている。

 こんな辺鄙な村の娯楽なんて数ヶ月に一度やってくる彼らの催し物くらいしかないからな。


 その物語を転生フィルターで解釈すると、どうやら古代文明は魔導ロボを実用化していたらしい。

 そのロボットが残されていたり、掘り出した物を鉄騎士と呼び、操縦者を騎士と呼ぶ。

 国や貴族に仕える者達は武士と呼ぶから、混乱も起きてはいない。武士だよ。ヒャッハー鎌倉じゃなくてホント、良かった。


 この鉄騎士が問題なんだ。


 英雄譚の大半は、鉄騎士を駆る騎士が強大な敵を倒す話なんだが、それが魔王だとか魔獣だとか云われていて、実在するらしい。

 なので、騎士はファンタジー翻訳すれば冒険者や勇者なんだと思われる。

 そりゃ、何も知らなきゃ憧れるけどさ、訳の分からん動物だか異種族との戦争なんてマッピラ御免だよ!

 それに、まとまった数が見つからないからなのか、それとも別の理由なのか、大抵の騎士は流浪の冒険者であるらしく、行きがかりに村を助けたとか、魔王の襲撃に悩む国へと颯爽と現れただとかいう話が多い。国が組織だって鉄騎士を運用していないのも何だか不思議な話だ。


「何だ?ミカは騎士に憧れないのか?」


 一年組のリーダー格であるニコがそう尋ねて来た。


「デッカイ熊とか、魔王なんてバカ強いオッサンなんか相手にしたくないよ」


 と、正直に返す。


「ミカは臆病だな。そんな強敵と戦う為に鉄騎士があるんじゃないか!」


 一年組のひとり、キミまでそんな事を言い出した。


「僕も、そんな動物や武士には会いたくないなぁ」


 と、ユハは僕に賛同してくれた。


 そんな事を言っていると、最近崩れたらしい地形が目の前に現れ、ぽっかり口を開く穴が見えた。


「あの穴だ」


 そう指さす二コ。そして、僕とユハは明かりの準備をする。照明の魔道具なんてないから、ライターの様な着火の魔道具に魔力を流して松明に火を着けるんだ。

 魔道具は誰にでも使える様でいて、魔力の多い者の方が使いやすく出来ている。僕とユハは村でもかなり魔力が多い方であるらしい。


「ホント、お前らスゲェよな」


 キミが感心したようにそう言って、ユハが着けた松明を受け取る。


「ほら、二コ」


 僕も二コに松明を渡して、いざ冒険開始だ。


 中へ入るとすぐに土や岩からコンクリートらしき人工的な空間へと変貌した。


「スゲェ。これって人形劇のダンジョンみたいじゃん!」


 二コが大はしゃぎでそんな事を言うが、さすがリーダーだけの事はある。言葉とは裏腹に一人駆け出していくような馬鹿な事はしない。


「横穴とか階段が全然見えないね」


 ユハがあたりを見回してそう言った。物語に聞いたダンジョンの場合、だいたいは何かの建物が埋まった姿なので、部屋や通路が複数存在するのだが、ここはただまっすぐな通路が伸びているだけ。


「変な所だな。まあ、でも進んでみようぜ」


 二コも冷静になって辺りを観察して前進を提案する。もちろん、みんなそのつもりだった。


 そして、進む事しばし、まだ入口の明かりが見える程度の距離で行き止まりとなった。


「あっけなかったな。これだけじゃ、何も見つからない」


 突き当りを見ながらキミがそう呟くが、僕はそれが行き止まりではなく、ドアではないかと思うんだ。


「これ、行き止まりじゃないかもしれない。ホラ」


 そう、理由は簡単。壁にナニカ、まるでカードを差し込むとか、キーやスマホをかざすだとか、そんな事をやるであろうボックス状の物体が見えたからだ。


「ただの石じゃん」


 キミと二コにとって、それは何の変哲もないただの突起物であるらしい。


「宝箱には見えないけど?」


 ユハもやはり現地人だから、そういう反応なんだろうな。


 だが、僕にはわかる。その突起物をスライドさせてみると、やっぱり動くじゃないか。


「ウソだろ。すげぇ!」


 キミが驚いた声を上げるが、何も凄くない。そもそも、キーとなるものを持ち合わせていない僕たちが、このドアロックをどう解除すれば良いんだろう?


 と思ったが、そうでもなかった。そこにあったのは何ともアナログなレバーが一つ。古代文字で解除とレバーの下側に書かれており、その通りにレバーを押し下げてみた。


「何も起きない?」


 そう、何も起きなかった。所詮は何百年も、下手したら何千年も前の施設だけの事はある。まったく機能していない。


「いや、壁を押せば開くんじゃね?」


 そう言ったのはニコだった。


 そして、実際に押したり左右へと引いたりしてみたら、右へとスライドを始めるではないか。


「本当に解除レバーだったんだね!」


 と、素直にユハが喜んでいるが、僕は何だか釈然としない。アレだったら、何もしなくてもこの扉が開いたんじゃないかと思ったからだ。

 扉の先はほとんど土砂で埋まっている。唯一、人がひとり通れそうな隙間があったので、そこへとキミが身を滑り込ませてみると、


「うっおいぃいいい」


 見事に滑り落ちていくキミ。そして、


「お、大丈夫だぞ」


 という声を聞いて、次々と降りて行き、滑る勢いで消えてしまった松明に再び火を灯した時だった。


「何だ、コレ!」


「やべぇよ!やべぇよ!」 


 二コとキミが大騒ぎしているのを聞きながら、ユハと二人で自分たちの松明を灯してそちらを見た。


「虫?」


 ユハの第一印象はそれであるらしい。僕にとってそれは、見間違えるはずもなく、アニメで見た多脚戦車に見えた。だって、どう見ても金属製にしか見えない脚回り、装甲にしか見えない角ばった外殻、そして、カブトムシの角にも見える大砲らしきものが一つに、機関銃らしき触覚や顎っぽいモノ。眼らしきものが見えるが、複眼の昆虫にしては小さすぎるレンズが数個。


「辛うじてこの一体だけが無事だったっぽいな。運が良いのか悪いのか・・・・・・」


 そう、周りを見ると、脚や機関銃だったらしき残骸が幾つか土砂から顔をのぞかせている。どうにも無事なようには見えない角度を向いている。


「冷静だな、ミカ!もっと驚けよ!!」


 などとキミが言うが、驚けっても、さぁ······


「だってこれ、鉄騎士だよ?」


 僕は冷静にそう返した。


「鉄騎士って奴は虫なんかじゃないだろ!もっとこう、人が跨る馬だとか、何があっても守ってくれる鎧とか、そう言う話じゃなかったか?」


 と、二コからも抗議を受けるが、だって、どう見ても多脚戦車だし?色だって、松明ではちゃんとした色は分からないが、何色かに塗り分けられてる迷彩塗装っぽいし?


「ほら、古代文字でイって書いてる」


 側面装甲に当たるであろう部分にそれが見える。きっと部隊のエンブレムだとか識別マークなんだと思う。


「マジかよ!これが鉄騎士かよ!!」


 そうと分かればすぐさま近寄って脚を触りまくる現金なキミと、少し慎重に周りを観察する二コとユハ。


「登れそうだな、あそこ」


 周りを観察していた二コがタラップらしきものを見つけて指さした。


「っしゃ!俺の鉄騎士だぁ!!」


 はしゃぎまくるキミがそのタラップを上る。


「登ったけど、何も無いぞ」


 勢い込んで上ったキミが上でそんな事を言っているので、僕も多脚戦車の周りをまわってみるが、きっと車体上にしかハッチは無いんだろう。特に開閉するような構造物は見当たらなかった。見れば見るほど多脚化したSタンクに見えて来るんだけど?


「ミカ!登って来いよ」


 どうやらみんな登ったらしい。僕も上へと登る。


 そこは確かに平らだったが、ホラ発見。


「入り口はこれと、そっちだよ」


 完全に真っ平らな埋め込み式になっているハッチが二つ。それらしきくぼみに手を入れ引っ張ると軽く持ち上がる。どうやらシリンダー付きのハッチらしい。それも二重装甲になっているらしく、ものすごく厚みがあるが、上と下の二つの板の間は隙間があるっぽかった。


「スゲェ!」


 中へと入ったキミがまたはしゃいでいる。中は白を基調としていて、座席は3つ・・いや、4つある。


『クルーの搭乗を確認しました』


 皆が乗り込むとそんな音声が鳴る。


「何だ?誰か居るのか?」


 二コが周りを見ながらそういう。


『部隊識別ナンバーに合致しておりません。スクランブルで搭乗したクルーですか?』


 二コの言には答えずにそう続ける音声。ちょっとまずいかなと思い、僕がその音声に応えることにした。


「基地はどうやら破壊されている。僕たちは臨時クルーだ」


 皆が「何だ?」といった顔で僕を見るので、口に人差し指を当てて静かにするように促した。


『基地機能停止を確認しました。スクランブル待機中の臨時クルーの搭乗を確認。クルーの認証を登録しますか?』


「登録してくれ」


『了解しました。クルーの認証を登録します』


 特に何が起きるでもなく、皆ジッと辺りを見回すが、何も起きる事は無かった。


『クルーの認証を登録しました。現在有線システムによる情報が遮断されています。データリンクの送信を開始しますか?』


 データリンクか。かなり進んだ文明だったんだろうな。しかし、もしデータリンクがどうのと言われても、そもそも接続など不可能だと思うし、下手にセキュリティが作動してスリープや万が一にも自爆されては困る。


「現在、周辺の味方は全滅している可能性がある。データリンクはオフ。マニュアルモードでの起動は可能か?」


『データリンクオフ。了解しました。マニュアルモードでの起動は可能です。起動しますか?』


 さて、どうしたものか。動かすと言っても、どうやれば良いのかもわからん。


 そこで、ちょっと賭けに出ることにした。


「マニュアル起動の前にやることがある。僕たちは招集されたばかりの新兵だ。シミュレータモードでの訓練や操縦指導から始めたりは出来るか?」


『新兵教育モードで起動してよろしいですか?まずは操作法の解説とシミュレートモードのみ起動します』


 どうやらうまく騙せたらしい。


 そして、操作法の解説がディスプレイを使って流れたので、僕たちでも操作方法が分かる。


 幾度かシミュレートモードで動かしてみて、キミが操縦、二コが車長、僕が砲手、ユハが装填手となった。

 決めたのはAIである。


 AIの解説によると、この戦車は第五世代に当たるそうで、AIによる自律操作が可能だった第四世代と違い、あくまで意思決定は人間がするのだという。

 そして、魔獣や魔王の正体もおぼろげながら判明した。きっと自律型AIが何らかの原因で再起動してしまった第四世代の車両やロボットの可能性が高い。英雄譚も大概ウソばっかだな。 

 

  

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