第7話 少しずつ家族へ
アラン様から敬称なしで呼ぶことが許されてから、数日後。
私の公爵夫人としての教育はだいたい終わり、結構自由な時間が増えた。
なので今、私がやるべきことは……レベッカ嬢ともっと仲良くなることね!
彼女の破滅の未来を変えるためには、しっかり愛情を注がないと。
最初は未来を知ってしまったから、使命感のような感情でレベッカ嬢と仲良くしようとしたけど、今は違う。
あの子が可愛くて好きで、心の底から愛したい。
今日はレベッカ嬢が本邸に来るので、その準備をしておこう。
まだレベッカ嬢は別邸で暮らしているが、今日から本邸の方で暮らす予定だ。
『家族のレベッカ嬢が一人、別邸で暮らしているのは寂しいと思います。だから彼女が本邸で暮らすか、私が別邸で暮らす許可をください』
こんな感じでアラン様に直談判をしたのだ。
正直、私が別邸で暮らすことになると思っていたのだが……。
『ではレベッカを本邸で暮らせるように部屋を手配しよう』
『えっ……いいのですか?』
『ああ、構わない』
まさかそんな簡単に許されるとは思わなかった。
『ただ俺は仕事で忙しいから、部屋の手配などはソフィーアに任せてもいいか?』
『はい、もちろんです。ありがとうございます』
ということで、すぐに私はレベッカ嬢の部屋を準備した。
前に別邸のレベッカ嬢の部屋に入って、とても綺麗で豪華だったが、女の子らしい物が一つもなかった。
おそらくアラン様や執事が手配したのだろう。
別に悪くないけど、レベッカ嬢の趣味や好みも聞くのがいいと思ったので、私はいろいろとレベッカ嬢と相談した。
そして今日、レベッカ嬢の本邸での部屋が完成した。
「レベッカ嬢、ご機嫌よう」
「ご、ご機嫌よう、ソフィーア様」
レベッカ嬢はまだ少し私と会うのは緊張するようだが、最初よりは心を開いてくれている気がする。
軽く挨拶をしてから、一緒に彼女の本邸の部屋の前まで行く。
「レベッカ嬢、今日からここがあなたの部屋よ」
「は、はい!」
レベッカ嬢が恐る恐る開けて中を見ると、とても嬉しそうに表情が明るくなる。
別邸の時の部屋よりも少し狭い。私は広い方がいいと思ったんだけど、レベッカ嬢は狭い方がいいらしい。
広すぎると寂しく感じるから、ということで……もう寂しさなんて感じさせないようにさせたいわ。
カーテンやカーペット、ソファなど部屋を彩るものは、だいたいがピンクや青色。
レベッカ嬢がそのような色が好きとのことだ。
そしてベッドには大きなウサギのぬいぐるみが二つ。
動物でもウサギが一番好きなようで、ピンク色と青色のウサギのぬいぐるみを用意した。
「わぁ……!」
内装は軽く見せていたが、驚かせたかったのでぬいぐるみについては全く話していなかった。
レベッカ嬢は嬉しそうに顔を輝かせて、ベッドに近づいてぬいぐるみを見つめた。
「ソフィーア様、これ……!」
「レベッカ嬢がウサギが好きって言っていたから、用意したの。気に入ったかしら?」
「はい! すごく、すごく可愛いです……!」
ぴょんぴょんと跳ねながら興奮を伝えようとしてくれる。
くっ、ウサギなんかよりもレベッカ嬢の方が可愛い……!
このくらいでこれだけ喜んでもらえるなら、ベッドを埋め尽くすほどの大小様々なぬいぐるみを用意しておくべきだったかしら。
いや、それは今後もっと増やしていくことにしよう。
私は公爵夫人として品格維持費、ドレスや宝石を買うための自由に使えるお金がある。
社交界などに行く時にその費用を使ってドレスや宝石を準備するのだが、使いきれないほどの維持費がある。
毎日高いドレスを買っても使いきれないほどだ。
だからそれを全部、レベッカ嬢へのプレゼントに使ってもいいわね。
「気に入ってくれたのならよかったわ。ここなら楽しく過ごせそうかしら?」
「はい! でも、その……やはり私には余りあるほどの広さだと思いますが……」
レベッカ嬢は部屋を見渡しながらそう言った。
確かに本邸の中では狭い方の部屋だが、一人の部屋としては十分に大きい。
まだ身長が低いレベッカ嬢だったら、さらに広く感じることだろう。
「ごめんなさい、これ以上小さな部屋は用意できなかったの」
「い、いえ! こちらこそすみません、ワガママを言ってしまいました……!」
「大丈夫よ、そのくらいのワガママ。むしろもっと言ってほしいくらいね」
「あ、ありがとうございます」
気軽にワガママを言えるくらいに気を許してほしいわね。
だけど狭い方が寂しくないという願いを叶えられなかったので、それは申し訳ない。
「あとでソファに一緒に座って、お菓子でも食べましょうか。少しでも長く私がこの部屋にいて、寂しさを感じないようにするわ」
「そ、そんなご迷惑をかけるわけには……!」
「私がレベッカ嬢と一緒にいたいから、一緒にいるだけよ。それともレベッカ嬢は、私がこの部屋に来るのは嫌かしら?」
「っ……いえ、その、とても嬉しいです」
「ふふっ、ありがとう」
私が頭を撫でると、レベッカ嬢は恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、笑みを浮かべる。
はぁ、本当に可愛いわ……!
少しずつ仲良くなっているから、未来が少しでも変わっていればいいけど……。
予知夢は自ら見ようと思って見られるものではない。
そんなことができたら、私は毎日レベッカ嬢の未来を予知して変わっているか調べているわ。
またいつか、レベッカ嬢の未来を予知夢できればいいけど……。
「レベッカ嬢、お勉強の方はどう? 疲れていないかしら?」
「はい、今は復習だけなので。ですが、それしかしなくてもいいのですか?」
「大丈夫よ」
前の教育係、ナーブル伯爵夫人はやはり厳しく、とても十歳の女の子が習うとは思えないほど難しいものだった。
だけどレベッカ嬢は座学においてはとても優秀で、ナーブル伯爵夫人もほとんど嫌味を付けられないほど、毎回の試験でいい点を取っていたようだ。
本当にすごいわね、レベッカ嬢は。
だから今は復習だけでも十分なのだ。
そしてこれからの教育係は……。
「これからは私がレベッカ嬢を教えるから、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
そう、私が務めることになった。
全ての勉強やダンスの稽古などをやるわけではなく、計画を立てるのが主な私の仕事だ。
今まではずっと無理をして勉強をしてきただろうから、これからは無理をさせずにやっていきたい。
「別邸の書庫で勉強をしましょうか」
「はい」
ということで私達は部屋を出て、別邸の方へと向かう。
本邸の玄関に着くと、アラン様が外着に着替えて出かけようとしていた。
「アラン様、ご機嫌よう」
「こ、公爵様、ご機嫌よう」
私達が挨拶をすると、アラン様もこちらを見て「ああ」と答える。
「ご機嫌よう、二人とも。今日はどうした?」
「これから別邸でレベッカ嬢の勉強を見ようかと思いまして」
「そうか、教育係はソフィーアが務めるんだったな。あなたなら大丈夫だろうが、頼んだ」
「はい、かしこまりました」
私なら大丈夫って、アラン様にそんなに信用されているのかしら?
それは嬉しいけど、なぜなのだろう。
「レベッカ。ソフィーアは優しく教えてくれるだろうが、しっかり学ぶんだぞ」
「は、はい、公爵様」
うーん、まだレベッカ嬢とアラン様の二人の空気は堅苦しい気がする。
この二人にも家族になってもらえればいいんだけど……。
まずはそうね、呼び方よね。
「アラン様、一つお願い事が」
「なんだ?」
「レベッカ嬢のアラン様への呼び方ですが、いつまでも公爵様だと堅い気がします。なので、レベッカ嬢が『アラン様』と呼ぶ許可をいただけませんか?」
「ふむ……」
私の言葉を聞いて、アラン様がレベッカ嬢をチラッと見る。
レベッカ嬢はビクッとしたが、視線を逸らさないでいる。
「私は構わない。もともと、俺はレベッカに公爵と呼べ、なんて言ってないからな」
「あ、あの、いいのでしょうか?」
「構わない、と言ったぞ」
少し冷たい言い方だけど、アラン様らしいわね。
レベッカ嬢が私の方を一瞬見てきたので、私は頷く。
「で、では……アラン様」
「ああ、それでいい」
レベッカ嬢も少し嬉しそうな顔を浮かべている。
アラン様は……変わらないわね。
うん、まだ家族とは言えない雰囲気だけど、さっきよりはマシかしら。
これから少しずつ仲良くなっていけばいいわ。
「ソフィーア、あなたも私の名を敬称なしで呼ぶようにと言ったはずだが」
「えっ、ですがあれは二人きりの時では?」
「いや、公の場じゃなければいい」
「そ、そうなのですか」
まさか家の中だったら、ずっとアランと呼ぶことになるとは……。
恐れ多いけど、アラン様が敬称なしで呼んでほしいみたいだし、そうしよう。
「公爵様、そろそろ」
「ん、ああ、わかっている。では私は仕事に向かう」
執事がアラン様を急かした、長く止めすぎてしまったようだ。
「はい、いってらっしゃいませ、アラン」
「い、いってらっしゃいませ、アラン様」
私とレベッカ嬢がそう言うと、アラン様は少しだけ目を見開いた。
あら、いつもの無表情が少し崩れたわね。
「……ああ、いってくる」
アラン様は少しだけ微笑みを浮かべて、本邸の扉から出て行った。
まさかまた笑うとは思わず、その優しい笑みに少し見惚れてしまった。
やっぱりあの時に見た夢の笑みと、時々被ってしまうわ……!
あれはおそらく予知夢じゃなくて明晰夢なんだから忘れないと……無理だけど。
だけど今のは家族っぽい感じはしたわね、父親を見送る母親と娘って感じで。
これからもそうやって仲を深めていければいいわね。
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