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第30話 名前の呼び方?


 ピクニックを終えて、帰り道の馬車の中。


 さっきまでとても楽しそうにはしゃいでいたレベッカが眠ってしまった。

 結構動き回っていたし、お腹も膨れて眠くなったのだろう。


「よく眠っているな、レベッカは」

「そうですね」


 レベッカを寝転がせるために、私はレベッカの前の席に着いた。


 だから今、私はアランの隣に座っている。

 公爵家の馬車は豪華だけど、そこまで広いわけではない。


 私はアランの肩がぶつかりそうなくらいの距離に座っている。


 今までもこのくらいの距離は何度も経験してきたし、社交界では私の方から腕を組んだりしていたのに……いまさら胸が高鳴ってしまっている。

 原因としてはさっきの、私の瞳の色についてね。


「ソフィーアも疲れていないか? ピクニックの準備は大変だっただろう。まさか弁当の料理が全部、ソフィーアの手作りだとは思わなかった」

「驚かせたかったので、言っていませんでした。美味しかったですか?」

「ああ、もちろん。ソフィーアが作るスイーツも好きだったが、普通の料理も好きになった」

「ありがとうございます」


 ピクニックが楽しみだったのはレベッカだけじゃない。

 私も張り切ってしまったが、アランが喜んでくれたのならよかったわ。


 彼が秘密にしていた場所を教えてくれたから、少しでもお返しになったのなら嬉しい。


「ソフィーアも疲れたのなら寝るか?」

「いえ、私は……」

「レベッカのように横になっては眠れないだろうが、私の肩くらいは貸すぞ?」

「えっ? い、いえ、大丈夫です!」


 まさかそんなことを言われるとは思わず、すぐに断ってしまった。

 私の顔のすぐ横に彼の肩があるから、言われると意識してしまう。


「そうか、ならいいが」

「はい、お気遣いありがとうございます」


 そう言ってから、しばらくの沈黙が訪れる。


 気まずい雰囲気ではない、むしろ心地の良い沈黙。

 ピクニックの楽しい思い出を心にしまい込んで、それを反芻して覚えるような時間。


 それがなんとも心地よくて、この空間をアランと二人でいるのが夢のようね。

 彼も、そう思ってくれているかしら?


 そんなことを考えた瞬間、アランの手と私の手が当たった。


 いや、違う……アランが私の方に手を動かして、そっと手を重ねてきたのだ。


「っ……」


 私は膝の上に両手を重ねていたが、そっと動かしてアランと手を繋いだ。

 ただいつもと違うのは手を重ねるだけじゃなくて、指を絡めて繋いでいる。


 それだけで社交界で腕を組んだ時よりも、胸が高鳴ってしまう。


「今日はありがとう、ソフィーア。とても楽しくて、仕事の疲れが癒やされた」

「は、はい、こちらこそ……ありがとうございました」


 そう言ってアランの顔を見上げると、予想以上に顔が近くにあった。

 一瞬だけ見つめ合ってしまったが、私は恥ずかしくなってすぐに顔を逸らした。


 顔を逸らしたからアランの顔は見えないが、「ふっ」と笑った声がした。


 そしてなぜかアランが握った手を軽く力を入れたり、指を動かしたりしてくる。


 なんかよくわからないけど恥ずかしい……!


「ソフィーア」

「は、はい」

「ソフィーア……ふむ、ソフィーア」

「な、なんでしょう?」


 アランは何度か私の名前を呼んで、顎に手を当てて考えている。


「レベッカが、私達を呼ぶ名を変えただろう?」

「はい、そうですね」


 お父様、お母様と呼んでくれているレベッカ。

 それはとても嬉しいけど、いきなり何の話かしら?


「レベッカが家族になるために変わったのだ。私達も何か変えるべきだと思ってな」

「な、なるほど?」


 それだと呼び方を、ということかしら?

 だけどレベッカを他の名前で呼ぶのは難しい気がするけど……愛娘、とでも呼ぶのかしら?


「だから……」


 一度言葉を止めたアラン。私は気になって彼の顔を見上げる。


 まっすぐと私の目を見つめながら、アランは続けた。


「ソフィ、と呼んで構わないか?」

「えっ……!」


 ま、まさか、変えるってアランから私への呼び方ってこと?

 レベッカは関係ないと思うけど?


「ソフィと呼ばれるのは、嫌ではないか?」

「あ、嫌では、ないです……むしろその、嬉しいです」

「そうか。ではソフィと今後は呼ばせてもらう」


 アランは私の名前を優しく呼んで微笑んだ。

 その柔らかい笑みが、あの予知夢か明晰夢かわからない夢の中のアランと重なる。


「ソフィ、私はもう一つ。あなたにも少し変えてもらいたいことがある」

「な、なんでしょう?」


 いろいろと衝撃を受けて戸惑っているが、アランは話を続ける。


「私と話す時はずっと敬語だが、レベッカと話す時は敬語を外すだろう? だから私は疎外感を感じていてな」

「え、えっと……つまり?」

「つまり、私と話す時も敬語を外してほしい」


 やっぱり、そういうことね。

 まさかそんなことをお願いされるとは思わなかった。


 公爵であるアランに敬語を外して喋るのは、まだ少し緊張するけど……。


「家族なのだから、いいだろう?」

「うっ……」


 そう言われると、断る理由が見つからない。

 それに私も緊張するだけで、嫌なわけではない。


 アランに敬語を外してほしいと言われるくらい仲良くなれたと思うと、むしろ嬉しい。


「わかりまし……わかったわ、アラン」

「ああ、それがいい」


 私の言葉を聞いて、アランはまた優しく微笑んだ。

 くっ、最近はアランの表情が豊かになってきて、ドキッとする頻度が高くなってきた。


 今も彼と手を握っているし、恥ずかしさと嬉しさが混じっている。


 彼の柔らかい笑みを見ていると、やはりあの時の夢を思い出してしまう。


 ……ん?

 あれ、今気づいたけど、あの夢の関係に近づいていない?


 夢の中では、アランから「ソフィ」と呼ばれていて、私も「アラン」と呼んで、敬語もなしだった。


 ということは、やっぱりあれは予知夢だったの……?

 い、いや、だけどアランはあの夢でとても甘々な対応だった、思い出すのも恥ずかしくなるほどに。


 だから本当に予知夢だったのか、ただの夢だったのか、まだわからない。


 でもやはりアランがあんな甘々な態度を取るとは思えないので、ただの夢な気がする。


 だけど今、愛称で「ソフィ」と呼ばれたり、敬語をなしで喋ることを許されたりするのも、最初に会った時では考えられなかった。


 ……ど、どっちか全くわからないわね。


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