恋をするのに ランドセルは邪魔者です!
ランドセル は、小学生にとっての装備。
邪魔な装備を外した時、やっと好きな人との時間が始まる。
小学5年生の頃、私には日課があった。下校途中に、友達との分かれ道で宿題をするというものだ。
その分かれ道には、小さなお地蔵さんが居て、広場みたいな所があった。ど田舎の丘の上にあり、車もほとんど通らない。たとえ通るとしても、下から登ってくる様子が先に見えたので、アスファルトに並べた宿題も、すぐさま片付ける事ができた。
いつものメンバーは、6年生のお兄ちゃんとお姉ちゃん、同級生の誠と、私の4人だった。6年生のお兄ちゃんは、誠と兄弟だったから、最初は気まずかったけれど、すぐに打ち解けた。
私達は分かれ道に着くとすぐ、重いランドセルを地べたにドサっと下ろす。ランドセルを下ろす事で、何か装備が外れたみたいな、自由になった気がした。
「 タータッタ タタタタ…… 」
5時のチャイムが鳴り始めた。
誠は乱暴にノートにプリントを挟むと、そのままランドセルに詰め込んだ。
最近の誠は、なんだかぎこちなくて、わたしを避けているように感じていた。
無理もない。6年生が卒業してからは、2人きりの時間がなんだかむず痒く、私も誠との距離を計りかねていた。それでも、私が変わらずこの場所で誠を待っているのは、誠の事が好きだったからだ。
「 おい! なんか、最近きまずいな! 」
帰りがけ、ランドセルを背負うと誠が唐突に言った。
「 そうやね…… 」
私は、ボソッと答えた。
「 じゃあ、ここで宿題するの、もうやめるか?! 」
心臓がドクッと驚いた。
「え……? 私は、誠とこうやって勉強するの楽しいけど…… 」
先に立ち上がった誠を見上げながら、私は言った。誠の顔は急に真っ赤になって、そっぽを向いた。
「 俺もじゃけぇ。それなら、ええけど…… 」
そう言いながら、誠は私のランドセルを持ち上げると、立ち上がった私の肩にせおわせた。
お互い「 付き合おう 」とか、そんな言葉は交わさなかったけれど、毎日友達と別れると、決まってあの分かれ道で一緒の時間を過ごした。
「 もう寒くなってきたね 」
秋の冷たい風が吹く頃には、もう日が暮れるのが早くなっていた。
寒そうに両手を擦り合わせていた私の手を、誠が両手でギュッとおおった。同じくらいの大きさの誠の手は、私の手を全然おおいきれていなかった。それでも、すごく暖かくてドキドキした。
それからも帰り道、たとえいつもより早く出会ったとしても、誠は手を繋ごうとはしなかった。
それは決まって、ランドセルを降ろしてから。
私達の装備を外してからだった。
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