第009粧 兄さまが美少女すぎて急上昇する語彙力
侍女たちが兄さまお着替え計画を実行に移している間、私と母さまは部屋を追い出され……もとい、廊下でうろうろそわそわ待機していた。
どのくらい時間が経ったか、正確なところは分からない。
気づいたら侍女たちが部屋の外にぞろぞろと出てきた。
これは、ようやく着替えが終わったってことかな?
「お待たせいたしました。キュリテさまの女装仕立てでございます」
なんかその言い方、料理が出て来るときみたいじゃない?
侍女エスの発言とともに、兄さまの部屋の扉が大きく開かれる。
「ほわあ……」
中に入った直後、部屋の窓に寄り添う人物に私の目は釘付けになった。
日光にあたって天使の輪が見える銀髪。
頭の後ろまで三つ編みにしたサイドの髪には、自然界に実在しない金色の花を添えている。
憂いを帯びた表情が、白粉によって儚く透明感のある彩色に。
リップの色は控えめながらも、潤いを感じるほど艶やか。
ドレスは肌の露出を極力まで押さえ、白を基調としている。
大量に使われているレースの合間から見える薄水色のインナーと相まって、青空に浮かぶ雲を連想させる衣装。
手袋の縁にもレースのあしらいがあり、その手で髪飾りと同じ色の胸元のコサージュを俯き抱いている様子は、とても華奢な印象を受ける。
翳りがあるせいか息を飲むほどに蠱惑的な琥珀色の瞳が、こちらを見つめていた。
何と言うことでしょう……!
私には存在しないと思っていた語彙力が向上してしまうほど、幻想的で儚げな美少女が、そこにいた……!
その反面、口からまともに言葉が出てこなくなる!
「ほわあああ、ほ、ほーっ、ほわっ、ほわあああ!!!」
これが……!
これが私の兄さま……!!
思った以上の破壊力っぷり……!
かっ、かわいい……!
それに美しい……!!
さわりたい……。
おさわりしたい……!
さわさわしたい……!
三段活用……!!
「ふっ、ぐっ……!?」
「お嬢さま、落ち着いて深呼吸してください。息吸えていません。このままでは呼吸困難を起こして、双子片割れ女装による興奮からの窒息が死因になってしまいます。さすがにみっともありません。若干ナルシスト入っていますし」
「はっ! すーすーはーはー」
どさくさに紛れた辛辣なエスの言葉で我に返った私の隣で、母さまが口元に手を覆って変なことを口走った。
「なんてこと……! これが私のっ、私の……長女……っ!」
「母さま、違う違う、長女わたし。わたしがちょうじょです」
「えっ? 町長? うちにそんなの居ないわよ」
「ちがいますうー! 長女ですうー!」
冗談を言っているうちに母さまも正気に戻ったみたい。
私だけでなく、母の判断力をも狂わせるとは……。
兄さまの女装……なんておそろしい魔力……!
それと兄さまが無言なので、ツッコミ要員が不足中!
それにしても……。
「思ったんだけど」
「はい」
エスに向けて言うと、彼女は涼し気な視線を私に向けてきた。
「もしかして兄さまのメイク、私のときより気合入れすぎてない?」
「……」
疑問を呟くと、エスを含めた侍女たちが一斉に顔をそらした。
ちょっと! 心当たりあるんかいー!
「なあ……」
珍しく控え目な様子の兄さまの声が聞こえる。
全員で兄さまへと振り返ると、恥ずかしそうに目を伏せていた。
か・わ・い・い!
「俺はいつまでこの体勢を維持していれば良いんだ……?」
どうやら今のポーズは侍女たちの指定だった様子。
美しいから、そのままにして良いのよ。
むしろしばらく体勢キープをお願いします!




