第008粧 兄さまを着せ替えしたい
「さて、そういうわけで」
「……」
兄さまがじと目で私を見てくるけど、スルー。
「こちらに衣装とお化粧道具をご用意いたしました」
「いえーい!」
「ぱちぱちぱち」
「待ってました!!」
さっきよりも多く声があがる。
母さまから公式に通達があったあと、兄さまの部屋に侍女たちが集まってきた。
みんなめちゃめちゃはしゃいでる通り、ここに居るのは『キュリテ姉さま計画』のメンバー!
そう!
これから兄さまの着せ替……ごほん、お着替えが、始まるのである!
「なぜこんなに人がいるんだ……」
「着替えとお化粧に必要だからだよ」
「仕上り後を見たいからに決まっているでしょう」
「母上、それなら今ここにいなくても良いのでは……」
「すぐ! すぐに見たいのよ!!」
「そうだよ!」
「……はあ」
諦めたようなまなざしの兄さまの前に、持ってきた衣装をわくわくしながらファッサーと広げて当ててみる。
「ふぁああ……」
ふおお、衣装当てただけでもすごい似合うんですが!
やはり顔か! 兄さま顔立ちが良いのか!
「尊い……」
「わかる」
「尊いの使い方が良くわからなかった私にもわかる……これは尊いわ……」
「さすが私の息子……」
「召されそう……むしろこのまま召されても悔いはない……」
「なんで着替えてもいないのにそんな感想出るんだ? あとそこの人、拝むな、不気味だ」
興奮で震える侍女たちと母さまの様子に、兄さまが引いている。
「令嬢の姿としては、実はお嬢さまより有望なのでは……」
侍女のうちの一人から、聞き捨てならん台詞が聞こえた。
日の光が射すとうっすらと紫色に錯覚してしまうような、鮮やかな黒い髪の彼女の名前は、エス。
侍女の中で一番頼りになるので色々当てにしているんだけど、名前をそのまま表したような性格。
なのでエスからは度々容赦ない一言をもらう、侍女だけど。
うぐぐ。
そりゃあね。自慢の兄さまが綺麗なのはわかるけど?
でも私だって、それなりにはボンキュッボンでありますし?
顔だって一応同じなんですけどね?
ぷーっと頬を膨らませていると、兄さまが呟いた。
「むくれたいのは俺のほうなんだが」




