第071粧 白の神子はショックを受けた!
駄犬くんから上着を受け取るのとだいたい同じタイミングで霧が晴れた。
「浄化完了。ようやく戻れた」
周りの風景が段々とハッキリしていく中、ウォルターが肩をすくめて呟く。
雨もすぐに止んだのは、ウォルターが止めたからなのかな。
おかげで地味に続いていた左手の痺れも段々と落ち着いてきた。
「ふう、シャバの空気が美味しい……」
「なんだって? シャバ?」
「んー、何でもない」
冗談で呟いた独り言を駄犬くんに拾われてしまい、曖昧に返す。
完全に霧が晴れるようになると、やっと他の人の姿が見えるようになった。
どうやら他の人には霧は見えてなかったみたいで、誰もが普段通りに過ごしている。
その中に、私が霧の中でずっと探していた兄さまとヒナタちゃんの姿を見つけて……。
「兄さま!!」
「ッ!!」
私は大声を上げて兄さまに駆け寄る。兄さまをぎゅーっと抱きしめると、同じように抱きしめ返してくれた。
「兄さま、見つかって良かった……!」
オプスが一緒にいれくれたとは言っても一人ぼっちだったし、駄犬くんには襲われるし。
実は結構、寂しかったんだ。
兄さまに会うことが出来て、ほっとした。
「兄さまは大丈夫? 何ともない? 怪我してない?」
「俺は何ともない! ずっと白の神子のそばにいて……!」
もしかしたら闇の因子を浄化出来るヒナタちゃんから、何があったのか聞いているのかもしれない。
「兄さま……」
何ともないって言うけど、よく見ると顔が真っ青。それに、具合が悪いのか何となく体重を私にかけてる気がする……ちょっと重いです。
もしかして、離れている間にすごく心配かけちゃったのかな……。結果的に無事だったんだから、そんなに思いつめなくても大丈夫だよ。
「ノワール、怪我をしているんだろう? 見せてみろ」
「えっ? 怪我なんてしてないよ?」
「じゃあなんでそんなに酷い格好をしているんだ!」
確かに服はボロボロだし、鏡がないと見えないけど髪の毛はボサボサになってると思う。
相当めちゃくちゃな動きしてたし、明日は筋肉痛確定だね。
「これは、ちょっと通りすがりの闇の因子に襲われちゃったんだ」
「あの駄犬……!」
そう答えると、兄さまは駄犬くんを睨み付けた。
あれ、曖昧に答えて誤魔化したつもりだけど、誤魔化せてない?
「あ? 今、兄さまって言ったか?」
「……二人とも、変装を隠す気はもうないのか?」
「なんだって? お前ら二人して入れ替わってたのか!?」
「あっ」
ウォルターと駄犬くんの声に我に返る。
兄さまに駄犬くんに襲われたことを誤魔化すよりも、一番に誤魔化さなければいけないことがあるのを忘れていた。
駄犬くんには私が変装していたことがバレたてほやほやなので、兄さまの女装についても流れるようにバレるのはしょうがない。
だけど、乙女ゲームの破滅回避のために入れ替わっていたのだから、ヒロインであるヒナタちゃんにバレるのはアウトー!
お出かけするのが嬉しくてちょっと忘れかけてた、なんてことは……あるけどないってことにしよう!
それに一番の問題は、ヒナタちゃんは男性恐怖症なので……!
私が慌ててヒナタちゃんの方を振り返ると、ウォルターと駄犬くんの言葉を繰り返しているところだった。
「えっ、へ……変装? 入れ替わり?」
ヒナタちゃんがぺたんこ座りで放心した様子なのは、私が見えないところで闇の因子を浄化してたからか、それとも……。
「じゃあ俺が決闘で負けたのは……」
「わ、私が一緒にいたのは……」
ヒナタちゃんと駄犬くんが同時に呟く。
「本物の、ノワール!?」
「本当の、キュリテくん!?」
「てか、俺! 女に負けたのか!? マジかよ!!」
「ダーケン、君はさっき気付かなかったのか」
二人して叫んだと思うと、ヒナタちゃんの方は目を回して額に手を当てていた。
「はわ……ひ……」
――バタン!
「み、神子!?」
ヒナタちゃんが、倒れてしまった!
これどう考えても、兄さまの女装がバレたからだよね……?
「に、兄さま……」
「……相変わらず、迂闊だな」
「兄さまだって、呼ばれて否定しなかったじゃないー」
「……そんなことより、お前のことが心配だったんだ」
「ぶー」
ぷくーっと頬を膨らませると、兄さまは私の頬をツンツンしてきた。
「本当に、良かった……」




