第070粧 駄犬くんはツンデレですか?はい、噛ませ犬です
駄犬くんの様子を見に行くと、丁度意識を取り戻したところだった。
頭を押さえているけど、他は痛そうにしていない。ひとまず安心して良さそう。
「……ぐっ……」
「君は、自分が何をしたか分かっているか?」
おっと、ウォルター選手、ぼうっとした顔をしているわりに直球投げました!
「おま……えは……」
「自分はウォルター」
「……」
いや、きっと名前を聞いたんじゃないよ……。
しかめっ面でウォルターを見返す駄犬くんは、やっとのことで声を絞り出したように喋った。
「お前が……本当の水の使者か?」
これは……闇の因子の浄化が成功した反応?
やっと自分が水の使者じゃないって、理解したんだね……。
強く自分が使者だと思い込んでいたみたいだから、受け入れるのには覚悟が必要だと思ったけど……。もしかしたら内心は、早い段階で気づいていたのかな。
「その可能性は否定出来ない」
駄犬くんの覚悟を伴う問いかけに対して、ウォルターから帰ってきた答えは拍子抜けするものだった。
思わず私と駄犬くんは揃って脱力しそうになる。
「否定しないのかよ! てか曖昧な返事だな、どっちだよ! あっ、なんだよその手袋! 隠してるのか!? 今すぐ外せ!」
「仕方ない……」
うーん、駄犬くんの態度が横柄なのは変わらないなあ。
闇の因子はちゃんと浄化出来てるのかな?
「さて、この通り」
ウォルターが左手の甲を駄犬くんに向ける。
私もウォルターが手袋を外すところを覗き込んだ。
ウォルターの左手にはアザがあるのは変わらない。形状も、ヒナタちゃん召喚日と同じだった。
「あーッ!! ドチクショウ!」
アザを見せつけられた駄犬くんは頭を抱えてうなり始めた。
「俺が使者だ! なんて舞い上がってたのに、完全に踊らされてたんじゃねーかよ!」
「君に踊る願望があったから、こうなったのではないかと思う」
「くっそ……! だいたい、なんであのときに名乗らなかったんだよ!」
「先に手を挙げたのは君だ。自分はタイミングを逸しただけ」
「くっそっ! そうだよ! 俺が使者だと思ったら嬉しくて、すぐに手を挙げたんだよ!!」
駄犬くんよ、言い負かされるときの気持ち、すごく分かるよ……。凄く悔しそうで、ちょっと同情しちゃう。
「悪いか! 悪いんだよな!! クソッ、何で今まで、こんなことに気付かなかったんだ!!」
元々感情に素直で、気性の荒い性格の子なのかもしれないね。
クソくそ言い過ぎだけど、普通に乙女ゲームの攻略対象にいそうなキャラだなあ。……熱血直情キャラ的な? こんな熱血キャラ、いないか?
そうやって二人のことを眺めていると、駄犬くんの視線がこっちに向いた。
「お前には……本当は全然関係かったのに迷惑をかけて、悪かったな」
素直に頭を下げて謝罪してくれている。
おっ。思ったより素直だね! 感心感心!
「決闘のことは片が付いてるんだから、気にしなくて良いよ。さっき殺されかけたのは……怖かったけど。それこそ根本的には駄犬くんのせいじゃないんだから、気にしなくて良いし」
「あ」
私がそう応えると、ウォルターが声をあげた。
「えっ?」
「……んっ!?」
ウォルターの反応に首を傾げる私。そんな私を駄犬くんが驚いたような表情で見ていた。
「おまっ、なんかいつもより声が高いと思ったら……」
「うん?」
「お前女だったのか!?」
「あっ、しまった!!」
言われるまで、男装していたことを忘れて普段通りに話してた!
しかも攻撃されたときに服が破れていて、微妙に下着見えてるし! 昔の格ゲーの必殺技受けたときみたいだよ!? バレるよそりゃ!
「アーッ! こっちみないでー!!」
「ニャッ!!」
思い出したように下着を隠そうして、上着とオプスを落としてしまった。
「あーっ! オプスごめんね!!」
アワアワしていると、駄犬くんが上着を脱いで私に手渡してきた。
「バカ野郎! そんなに動くと余計見えるだろ! これでも着てろ!」
うーん、やってることは紳士。でも顔背けてるけど、チラチラこっちを見てるよね?
駄犬くん。きさま、見ているなっ!?
「あ、ありがとう!」
まだ雨が降ってるから、オプスから私の上着を取り上げることも出来ない。
厚意は嬉しかったので、素直に受け取ろうと思って手を伸ばす。
差し出された駄犬くんの左手の甲には、まだ微かにもやが残っているように見えた。
何だろう、浄化しきれなかった闇の因子の残骸かな……?
そう思いながら上着を受け取ろうとすると、私の手が駄犬くんの手に触れてしまった。
「!?」
直後、駄犬くんのもやが動いた。
それはそのまま私の手に移って行って……。
「ひゃっ」
「な、なんだよ、手が触れたくらいで変な声出しやがって!」
「そ、そういうわけじゃないんだけど」
駄犬くんは今のもや、見えてなかったのかな?
「なら、早く受け取ってとっとと着ろよな!!」
ひぇぇ……。この偽物のアザって、私のアザに移ったんじゃないよね……?
あ、あとでちゃんと見ておかないと!
変なフラグが立っていると大変!!
「にー……」
いそいそと駄犬くんの上着を羽織っていると、地面にほったらかしのオプスの不満そうな声が聞こえるう……。




