第069粧 水の使者は何を知っているのか
ウォルターと話しているうちに安心しちゃったせいか、今まで駄犬くんの存在を忘れかけてた。
「ウォルターはさっき何をしたの?」
「浄化」
「闇の因子を払ったってことだよね?」
「そう」
「あれっ? もしかして、さっきから降っている小雨もウォルターがやったの?」
「ああ。ダーケンが抱える闇の因子を弱体化させようと思った」
ウォルターが降らせる雨は、黒の因子を浄化する効果があるのか。
オプスなんか、溶けかけてたし。
オプスの中身はだいたい黒の因子で出来ているのかな。
……ってことは、私の左手がピリピリしてたのも、ウォルターの雨が原因かな。
使者の力……なんて恐ろしい力。
ウォルターの水を浴びないように、私も気を付けないと……。
「……だけど、思ったより消耗していたから、すぐに済んだ。そうでなかったら、自分だけでは手に負えなかった可能性が高い」
「黒い霧を剣にしてガンガン攻撃してたから、そのせいかな?」
「……よく無事だな、ノワール」
ドキッとすることを言うね!
「な、なんか避けられたので?」
オプスが壁を出してくれたのが一番の理由だけど、正体がバレると危険なので秘密。避けてたのは本当なので、嘘は付いてないもんね。
「それにしても、駄犬くん……すごく苦しんでいたけど、大丈夫かな?」
「影響があったのはダーケンが抱えていた闇の因子で、ダーケンの肉体には影響はないと考える」
「うん?」
本当? 私結構ピリッと来たよ? なんて言えないので、ウォルターの次の言葉を待つ。
「ただ、闇の因子に囚われていた精神には、多少影響を及ぼしている可能性が考えられる」
「浄化出来ていれば、ちゃんと元に戻るのかな?」
私の疑問に、ウォルターは不思議そうに首を傾げた。
「ダーケンに酷い目に合わされたのに、ノワールは気にしないのか?」
「うーん。決闘騒ぎで色々あったことについては、気にしてるけど。でも良く考えると、駄犬くんがこうなったのは、闇の因子のせいだもんね」
「だけど、ダーケンが闇の因子を抱えることになったのは、闇に魅入られる要素があったからだ」
「駄犬くんの場合は、何がきっかけだったのかな」
「それは彼自身でないと分からない。自分たちに出来ることは、推測だけだ」
ウォルターの顔をよく見ると、どこか真剣な表情をしていた。
厳しいことを言っているけど、駄犬くんを責めたい……と言うわけでは、ないんだろうね。
「ねえ、ウォルター。きっとね、誰もが闇の因子に囚われる可能性はあるんだよ。だから闇に囚われたからって、責められないと思うんだ」
なんてね。
いずれは黒の神子になるかもしれない自分を庇護するような言葉を口にしてみる。
「だってみんな、心に何かを抱えているでしょう?」
そう問いかけると、ウォルターは珍しく目を見開いて私のことを見つめた。
「そうだな、ノワール」
そして何故か、悲しそうに目を伏せて頷く。
「君が言うと、それはすごく意味のある言葉に感じる」
「え?」
どう言うこと? と問いかけようとしたのを思いとどまった。
もしかしたら勘の良いウォルターは、私が闇の因子に関わる人物だってことをある程度勘づいているのかもしれない。
それでいて、黙ってくれているのかも……。
もしそうだとするなら、ずっとそのままで居てくれますように。
乙女ゲームのストーリーのように、私の正体をウォルターが暴くことがありませんように。




