第067粧 闇の因子 address E9A784E78AAC : 0000 0001 return;
階段を駆け上って入り口に戻ると、黒い霧はさっきよりも薄くなっていた。
それでも雨は未だに降り続けている。
先に地上に着いていたオプスが、待ってくれたように見上げてくる。来た時と同じように上着で包めて抱き上げた。
「オプス? ごめんね。雨がちょっと痛いかもしれないけど、急いで家に帰ろう」
「にゃ」
駄犬くんに攻撃される前よりも、オプスの感情が分かりやすくなったような気がした。
何だろう、今は……「もっと早くそうすればよかったんだ」みたいな?
……呆れられてる? 猫に?
猫にも呆れられる悪役令嬢とは私のことです……。
でも今は、そんなことで落ち込んでいる場合じゃない。
「よし、行くよ!」
家に帰ればきっと、キュリテとヒナタちゃんが居るかも……!
白の神子であるヒナタちゃんが居れば、駄犬くんを何とか出来るかもしれない!
私は希望を胸に、建物に入る前よりも視界の良くなった街中を必死に走り続けた。
時折腕をむにむに押して方向を示すオプスに従って進むけど、未だに誰にも会わない。
もしもこの黒い霧が闇の因子のせいなら、霧が晴れれば誰かに助けを呼べるかな?
そう思っていると、不意に胸元でオプスが威嚇を始めた。
「フーッ!」
「クソ野郎オオオーーー!!!」
後方から駄犬くんの叫び声が聞こえてくる。もう追ってきたの!?
「お前が居なければ! お前たちさえ居なければあああああ!!」
「……っ!」
憎しみのこもった声色と共に、駄犬くんが私の方へと踏み込んでくる。
一瞬、自分に向けられた言葉にうろたえて、足が止まりかける。
「ニャ!」
駄犬くんの剣が届く前に、再びオプスが影から壁を生じさせた。
思わず耳をふさぎたくなってしまいそうな程、至近距離で凄まじい衝撃音が響いたことで、上手く駄犬くんの攻撃を防げたことが分かった。
「ありがとう! ねえ、オプス。その壁みたいに、武器出せない? 駄犬くんみたいにさ」
「にゃあ?」
応戦出来るの? 意味あるの? みたいな返し、しないで……。
なんかこの子の反応が、兄さま染みてるっ……!
確かに、あのごり押し攻撃を受け止めたら、間違いなく怪我するんだろうけど!
「このまま逃げ回っていると、しんどくなりそうなんだよね……」
「にゃあ……」
家に着くまで、体力が持てば良いんだけど。
そう言えば、オプスの壁生成って、あとどのくらい出来るんだろう……。
逃げてる途中でオプスが力尽きたら……死亡が確定しちゃうんじゃ。
「ハァッ!!」
――ガリガリッ、バキーーーーン!!
硬いものを抉り、割れるような異音が鳴る。
振り返った瞬間、壁が砕け散ったのを目の当たりにしてしまった。
「もう逃がさねえぞ!」
「フーッ」
頼りにしようと思っていたオプスを見ると、深刻な表情で駄犬くんを睨みつけているように見えた。
……え? もしかして、もうストック切れ? 嘘だよね?
シューティングゲームのボム並に残弾少なくない?
あれって切り札だったの?
近寄ってくる駄犬くんから、じりじりと離れようとする。
やばい! まずい! 非常にピンチ!
頼りの黒騎士さまは、もう残弾切れ。
もう一回同じような奇跡があるなんて思えない!
いや、起ぬが奇跡と言うならば、起こしてみようホトトギス。
……なんて考えて、現実逃避をしている場合ではなかった!
とにかく! とにかく何でも良いから対抗策を考えないと。今度こそ本当に死んじゃう!!
必死になって何も解決策のない頭を働かせようとする中、聞き慣れた声が辺りに響いた。
「降り注げ!」
「……!?」
「一なる心を零に……浄化しろ!」
突如、駄犬くんの周りにだけ猛烈な雨が降り注ぐ。
「ギャアアアアア!!!!」
まるで酸の雨に当たったように、駄犬くんは叫び全身を抱えて崩れ落ちる。
それはどこか、オプスが雨に当たったときの絶叫に似ていて、それよりも酷く辛そうな反応だった。
叫び狂う駄犬くんの様子を呆然と見ていると、誰かが私の方へと近づいて来る足音がした。
「良く持ちこたえた、ノワール」
声の掛けられた方向へと振り返る。
「ウォルター……?」
私の本日二回目のピンチに現れたのは、ぼうっとした表情で感情が良く読めない水の使者ウォルターだった。




