第066粧 黒猫 = オプス;
こんな時に聞こえるなんて、走馬灯のような幻聴……かな。
悟るようにそう思った直後、猫の唸り声が聞こえてきた。
「フニャアァァッァア!!」
ま、まさか私の代わりに黒猫が巻き込まれたんじゃ!?
慌てて目を開けようと思った直後……。
――ズガアアア!!
轟音と、何かがぶつかり合ったことによる余波のようなものを体に感じた。
「クソッ!! 仕留め損ねたか!!」
遅れて駄犬くんの悪態が聞こえてくる。
なんだろう?
死を覚悟して目をつぶったにも関わらず、襲い掛かってくるのは多くの音と衝撃の情報量。
予期していた痛みもなければ……痒くもない。
一体何が起きたんだろう、と思ってゆっくりと目を開けると……。
「あれ……? なにこれ?」
目の前には、直前まではなかった漆黒の壁が立ちふさがっていた。
あれ? これって魔法? 全く自覚ないんだけど、もしかして私がやったやつ?
ついに黒の神子として目覚めちゃった?
破滅への一歩を踏み出しちゃった?
「にゃあ……」
声のする足元を見ると、黒猫がホッとしたような表情をしていた。
唸り声が聞こえたときは攻撃に巻き込まれたのかと思って心配したけど、無事だったんだ。
「怖かったね……」
黒猫に声をかけて撫でようとしたとき、黒猫の影が壁と繋がっていることに気付いた。
もしかして、黒猫が影で壁を作り出している?
なんだ、私がやったんじゃないんだ。
力に目覚めるのは中二心がワクワクするけど、破滅への一歩を踏み出していないことに安心する。
それにしても……。
「これってどういうこと?」
呆然と黒猫と壁を見比べていると、壁の向こうから衝撃音と共に駄犬くんの叫び声が聞こえてくる。
「クソがアアア!! 一体何をしたッ!?」
向こう側で駄犬くんが壁を壊そうとしているのかもしれない。
「これ、黒猫ちゃんのおかげだよね? 私を守ってくれたの?」
「にゃあ」
「なんだか本当に騎士さまみたいだね。そう言えば、乙女ゲームでも悪役令嬢のそばには黒猫が居たんだっけ」
「にゃ?」
ふと、魔法を使ってもおかしくのない黒猫の存在を思い出した。
黒の神子の使い魔のようにノワールの近くにいる姿をよく見る。
確か名前は……。
「もしかして黒猫ちゃんって、オプス?」
「……」
問いかけてみるけど、返事がない。
あれ? あってるよね? 違うならこんな魔法みたいなこと出来ないと思うし。
オプスと思われる黒猫は、ふいっと視線を逸らすと階段の方に歩いて行った。
まるで「着いてこい」って言っているみたい。
「あ、そうだ! 今のうちに逃げないと!」
駄犬くんが壁に乱暴している状況で、壁がいつまで持つか分からない。
闇の使者として目覚めてしまった駄犬くんを放って置けはおけないけど、私には何もできない。
早くヒナタちゃんと合流して、駄犬くんを浄化してもらわないと。でもどうやったら合流出来るんだろう……。
背後から罵声が聞こえる中、私は慌ててオプスの後を追いかけて行った。




