第061粧 悪役令嬢は迷子にならないと言ったな。あれはフラグだ
他にもいくつかお店を見た後、私たちは本屋に向かった。
店内に入ってからは、別れて好きなように本を見ていたんだけど……。
「あれっ?」
そろそろ二人と合流しようかな、と思った頃に、二人の姿が全く見当たらないことに気く。
夢中になっているうちに、見失っちゃった?
うーん、どこに行ったかな?
さすがに本屋さんで二人の名前を叫ぶわけにもいかないので、一通りぐるっと店内を周回する。
べ、別に寂しいとか思って……ないことはないけど!
もしかしたらお店にいるかもしれないし。ちゃんと見ないとね!
「ん? うーん?」
それでも二人とも居なかったので、もしかしたらと思ってお店の外に出る。
「うーん、居ない」
兄さまが私を置いてどこかに行くなんてことはないと思うから、しばらくお店の前で待つことにした。
迷子になったような心境になって心細いんだけど。
……お、置いてかれてないよねっ?
ま、まあ、家は近いからすぐ戻れるし、置いてかれても問題ないけど!
「……でも、ちょっと、寂しいな」
手元が寂しい。
何かをなくしたような気持ちで、胸が少しだけ苦しい。
少し前に、兄さまと喧嘩していたときのような気持ちになる。
……それにしても。今気付いたのだけど、周りに誰もいないような気がするのですが……。
人通りが多くないと言う理由でこのあたりのお店を選んだみたいだけど、それにしては本当に人っ子一人居ない……んだけど……。
「や……ま、まさか?」
嫌な予感がして、私は慌てて店内に入る。
そして売り場を、耳を澄ませながら本棚の間の道をすべて歩いた。
その間、店内に私の足音だけが響くのが怖かった。
「い、居ない! 誰も居ないの!?」
そんなはずはない。
だって本屋に来たときは、お店の人がちゃんといたし。
戸締りだってしてないから、店番の人くらいはいるはずなのに!
兄さまたちが先にどこかに行ってたとしても、店員さんまで一緒に居なくなる理由なんてない。
だからあまりにも不自然で、すごく不気味で、ものすごく心細い。
「誰か! いませんか! だーれーかー!!」
いくら本屋の中心で人を呼んでも、誰も姿を見せない。
スタッフオンリーと書かれた部屋を叩いても誰も反応しない。
本屋内では、私以外の誰の声も、物音も、気配もなにも感じない。
「なっ!?」
訳が分からないままお店を飛び出すと、いつの間にか街中が煙で充満していた。
「……く、くるし……くはないね? 普通に呼吸できる、うん」
煙だと思ったそれに匂いはない。
煙よりも黒い霧のようで、濃度が濃いせいかすぐ近くでも先が見通せない状態になっていた。
何これー! 怖いんですけど! どういう状況!?
こういうときって室内にいた方が良いのかな。
でも誰も居ない本屋さんにいるのは怖い……。
だからと言って、変なものが充満している上にゴーストタウン化した室外にいるのも怖いんだけど……。
でも外に居れば、通りがかった誰かに遭遇するかもしれないし……。
誰か……?
そうだ! キュリテ!
「キュリテを、探さないと……」
なんだかキュリテが見当たらないとすごく不安になる。
もしかしたら私が見つからなくて、先に家に帰っちゃったのかもしれない。
そう思い立って動こうとすると……。
「にゃあぁ……」
足元から脱力したような猫の声が聞こえてきた。




