第058粧 白の神子の付けているバラは悪役令嬢がやらかしたやつ
「白の神子さまのお召し替えが終わりました」
「あっ、あの、おまたせして、すみません……」
「わあ!」
兄さまとのんびりお茶しながら待っていると、おめかしを終えたヒナタちゃんがエスに案内されてやって来た。
やってきたヒナタちゃんの黒髪は、茶髪のウィッグで隠されている。
それでも可愛らしいドールのような雰囲気は変わらない。
そこへ普段していないファンデーションを塗り、桃色のリップを引き、薄手のチークを差す。
そうすることで、どこか色白だった彼女の顔が明るく見えるようになった。
華奢な体の露出を控え目にした白のワンピースを纏い、青空のようなシースルーのストールを羽織った姿からは、夏空が似合いそうなイメージを受ける。
ヒナタちゃんにはきっと、ヒマワリの花が良く似合うと思うなあ。
……なんて思ってたけど、髪にはヒマワリではなく、ドライフラワーと思しき白い薔薇の花が添えられていた。
……うん?
なんかあの薔薇に見覚えがあるような気がするんだけど。
庭には薔薇だけでも色んな種類が植えられてるのだけど、その一つに似てるような……? うーん?
それはさておき、貴族令息お約束のほめほめタイムの実践開始!
「よく似合ってる。透き通った感じが太陽の妖精みたいで可愛いな」
折角うちに来てくれたのだから、一つくらいは宝石のアクセサリを付けてあげたいところだけど。
今回のは今回ので、シンプルな分彼女の純粋さが出ている。
下手に大振なものを身に付けなくて正解かもしれない。
「あっ、ありがとう……ございます」
ヒナタちゃんを褒めたら、顔を真っ赤にして兄さまの後ろに隠れてしまった。
うーん、早く隠れなくても話せるようになってくれると良いなあ。
あとどのくらい好感度高くなったら、隠れなくなるんだろう?
苦笑していたら兄さまがこっちに近寄ってきて、顔を私の耳に寄せて来た。
「俺の格好をして、変なフラグを立てるんじゃない」
「えっ? 破滅フラグ!? 私いつの間にか立てちゃってた??」
「違う、そうじゃない。決闘の日くらいから、白の神子からお前への好感度がガンガンあがってないか? 気づいていないのか?」
「え? ヒナタちゃんからの好感度があがってるなら、都合が良いんじゃないの?」
邪険にされると破滅フラグが立ちそうな気しかしないけど、好意的に思われてるなら……まだチャンスはあるかも?
ちなみに兄さまがフラグとか好感度とかって言葉を使っているのは、私の力作の乙女ゲームを再現したゲームブックのおかげだと思うな。
えっへん、これぞ英才教育!
「分かってないな……。変装やめたときに困るだろう」
「え? そうかな?」
変装やめたらその好感度は、私のほうにそのまま来ると思うから、悪役令嬢なポジションの私的には都合が良いと思うんだけどなあ。
なんて二人で内緒話をしているうちに、いつの間にかエスがヒナタちゃんに話しかけていた。
「こちらの薔薇の髪飾りは、ノワールさまがヒナタさまにとご用意されたものです。ぜひお持ち帰りくださいませ」
「「えっ?」」
「え? い……いいのでしょうか……」
エスの発言に、私と兄さまが同時に呟いた。
エスが言っているのは、ヒナタちゃんが今髪につけてる薔薇のことで……。
私? 用意してないよ? 私のことを見てくる兄さまに向かってめっちゃ首を振ると、兄さまは今度は訝し気な目線をエスに投げていた。
あれ? 兄さまも心当たりがない?
なんて思っていたところ、エスが爆弾発言を放った。
「ノワールさまが、当家の庭園からお選びになられた薔薇で作られた、アクセサリーでございます」
「うん? 家の庭……庭の薔薇……? あっ、アーッ!!!」
し、知ってる! 身に覚えがございますうう!!
前に兄さまが案内の準備で相手してくれなくて、ストレス発散に素振りしてたときに折っちゃったやつだ!
エスよ! なんてものをヒナタちゃんにあげるんだ!!
「え、エスそれは……」
エスを静止しようとしたけど、完全に無視されて話を進められてしまった。
「当家には斬って折るほど薔薇が沢山ございます。ですので、遠慮される必要はございません」
エスよ! その例えは傷口をえぐるからやめい!
「ノワールさん、あ、ありがとうございます……」
でもヒナタちゃんが嬉しそうにしている様子を見ると、それ以上は止められなかった。
「え? ええ……」
状況が良く分かっていない兄さまは、曖昧に応えることしか出来ないでいた。
すまぬ、兄さま……。




