第056粧 兄さまとコアラ令嬢
家に帰ってくつろいでいるときに良いことを思いついたので、早速兄さまに提案することにした。
「少しは学園に慣れてきたし、ヒナタちゃんに街を案内するのはどうかな?」
「また唐突に……。何故だ?」
「日常生活で必要なものはある程度揃えてあるみたいだけど、他にも必要なものとかあるかもしれないし?」
「買い物か」
「もちろん私も行くよ。女物のことは兄さまは分からないと思うし、私がいた方が良いでしょう?」
「頼りに出来るほどの女子力がお前にあったか?」
「ぐさっ」
ひどい言い草だけど本当のことなので反論できない!
まあ確かに、普段のコーディネートは「今日はこういうのが良い!」と要望を出すくらいで、ほとんどエスにお任せしちゃってますけど、何か?
開き直るよ!
「まったく、お節介だな。そこまでする必要があるか?」
「だって、ヒナタちゃん大丈夫かな、心細い思いしてないかな? って思うと、放っておけないし」
「それと、案内役はお前じゃない。俺だ」
「案内役は兄さまじゃないもん、ノワールだよ。だから私がお節介しても、おかしくないからね!」
「まさかそこに気付くとはな」
「それくらい気付くよ!」
兄さまは私のことを馬鹿にしすぎでは? しすぎなのでは??
「ヒナタちゃんのこと、ちょっとくらい気にしたって良いじゃない。少しは仲良くなったんだから、もうちょっと仲良くしたいもん」
「俺はお前が白の神子を気にかけていることが、気に食わない」
「うん? なんで?」
前、兄さまがヒナタちゃんの案内の準備で忙しい時に、あまり私の相手をしてくれなかったのが少し寂しかった。
そんな時みたいに、兄さまも寂しいなって思ってくれてるのかな?
「……」
兄さまはムスッとしてるだけで何も言わないけど、そうだとすると嬉しくて腕に抱きついた。
「まったく、無暗に引っ付くんじゃない」
「やーだ!」
剥がしにかかろうとする兄さまだけど、そうはさせるか! と余計に力を込める。
「お前はコラアか、それともサルなのか?」
「はい、私はコアラです。コアラで良いです! サルではありません。決して、サル令嬢などと呼んではいけません、可愛くないので!」
「サル令嬢はともかく、コアラ令嬢って可愛いものか?」
ぴったりくっついたまま真顔で回答すると、兄さまは諦めたように剥がそうとしていた手を緩めた。
「とにかく、少しくらい息抜きしたって良いでしょ?」
「それはノワールの息抜きか? それとも白の神子の息抜きか?」
「え? もちろん両方だよ」
私も遊びに行きたいし!
ペロッと舌を出すと、兄さまが溜め息をついた。
「それよりも大丈夫なのか? 白の神子を人の多いところに出して」
「え? 顔割れてないから、大丈夫だよね? 人集まってきたりとかしないでしょう?」
「そう言うことじゃない。人通りの多いところで人にぶつかるかもしれないが、それが女とも限らないだろう」
「あーーっ!」
ちょっと状況が改善されかけていたから、男性恐怖症のことを忘れていたー!
頭を抱えていると、兄さまが諦めたように溜め息を付いた。
「決闘に勝ってから、かなり気が緩んでいるんじゃないのか?」
「そ、そんなことないので!」
「……」
どもって答えたせいか、すごく疑わしそうな目で見られてるう。
「……まあ、仕方ないな。ノワールは決闘で頑張っていたから、少し考えるか」
「本当?」
「行きたいところがあれば、あとで教えてくれ。……癪だが白の神子にも聞いておく」
「わーい、兄さま大好きー!!」
やった! 兄さまは押してみるものだね!
さっきよりもっとぴたー、っとくっつくと、兄さまが呟いた。
「俺はコアラの木なのか?」
「なんかぎゅーってしてると安心するんだよね」
「……そうか」
この前の喧嘩の影響か、まだ兄さま成分が足りないのかも。
これはきっと、リバウンドと言うやつだね!




