第051粧 (.{3})キュリテ:6
左手を上にかざし、逆三日月型のアザを眺める。
そうしていると、コトン、と何かがテーブルに置かれた音がした。
気配はさせない癖に、音だけ鳴らしたのはわざとだろう。
音の方向へと顔を向けると、以前俺が用意したものと全く同じ種類のチョコレートがけのドーナツが半分、皿の上に置かれていた。
もう半分は、今頃ノワールが食べているのだろうか。
いつも食事中にノワールが見せる幸せそうな表情を思い浮かべ、一口かじる。
それは、喧嘩した日に一人で食べたドーナツより美味しかった。
「嬉しそうに微笑まれて。現金ですね、キュリテさま」
からかうような声が部屋の隅から聞こえてきて、思わずため息をついた。
「……まだ居たのか」
「ドーナツの半分は私が頂きました」
エスの何気ない一言に、俺の動きが止まりかける。
「……」
「と申し上げると、とても面白い表情が拝見出来そうでしたので。つい、心地が良く居座らせて頂きました」
「俺で遊ぶな。で、実際は?」
「聞いてしまわれるのですか?」
楽しそうな声色から、俺のことをからかっていることが分かる。
思わず睨みつけようと考えたが、俺は表情を悟られることを恐れて欠けたドーナツへと視線を落とした。
「……だから、俺で遊ぶな」
「少し動揺しましたね。もう半分は、この後ノワールさまで遊ばせて頂く際の玩具にいたします。きっと良いお声でにゃーにゃー鳴いてくださいましょう」
「食べ物で遊ぶと怒られるぞ」
「ノワールさまのお怒りは可愛らしいものです。最終的にはお召し上がり頂く予定ございますので、ご安心を」
エスは悪戯っぽく微笑んだ後に一礼し、部屋から姿を消した。
室内から完全に居なくなったことをみとめると、溜め息を付く。
彼女は言葉通りノワールをからかうために、ドーナツを玩具にするだろう。
そうした時にコロコロと変わるノワールの表情を眺めてみたいと感じたが、その気持ちを抑えることにした。
今は、他の問題の解決案を考えなければならなかった。
「駄犬が抱えるあれは……、そう遠くない将来に昇華しそうだな」
食べかけのドーナツを置き、椅子に座りなおして今日の決闘の最後を思い出す。
駄犬自身が証だと思い込んでいる左手のアザは、間違いなく本来の使者のものではないだろう。
「厄介なことになる前に、どうにか回収をしなければ……」




