第050粧 兄さまをぎゅーっとすると安心です
決闘も終わったので、早く着替えたいし兄さまのところに行きたいなあ。
なんて思っていたけど、案外人が多くて控室に戻れずにいた。
私が身動き取れなくなっていることに気づいたのか、兄さまたちがプチ団体パワーを利用して人ごみを掻き分けてこっちに近づいて来た。
わー! 兄さま、勝ったよー!
……なんて飛びつくとかなり不自然なので、冷静に冷静に……。
周りには私たちが変装しているって知らない人ばかりなんだから。
「勝ったぞ、ノワール」
「そうですわね、キュリテ」
「これで、ヒナタ嬢の案内役を続けてくれるな?」
「……仕方ありませんわね」
兄さまは溜め息を付いて扇子をパチンと閉じた。
「約束通り、怪我をせずに戻ってきたのですわ。私も、約束を守りましょう」
「良かった……!」
兄さまがそう言ってくれるなら安心だね!
ヒナタちゃんの方を見ると、私に向かって深くお辞儀してくれていた。
うんうん!
さっきの言葉通りなら、駄犬くんもしばらくは大人しくしてくれるみたいだし。
ひとまずは一件落着! かな。
「それと……」
あともう一つ、問題があったんだ。
駄犬くんがキュリテに決闘を申し込んだことから始まった、私たちの喧嘩が。
「喧嘩して、ごめん。仲直りしてくれるか?」
「……っ」
私が仲直りの提案をすると、兄さまが扇子を放り投げて私に抱き着いて来た。
兄さまの顔が近づいてきたので、私は小声でささやいた。
「に、兄さま?」
「……もういい、気にしてない」
兄さまの声が震えている。
今まではいつも一緒で、避けるなんてことがなかったから……。
きっと喧嘩して距離を置いていたことで、私が兄さまを不安にさせちゃったのかもしれない。
「でも俺は、お前のことが心配だったんだ。だから反対した」
「うん……」
「それだけは、忘れないでくれ……」
「うん。心配かけて、ごめんね……」
意地を張らないで何とか兄さまを説得出来ていれば、こんな寂しそうな顔をさせることもなかったのかな。
「それに、意地を張っちゃって……」
それにしても、懐かしいなあ……。
小さい頃はこうやって、離れるとすぐに寂しがってくれたよね。
懐かしさを感じながら、私はぎゅーっと抱きしめ返した。
「不安にさせてごめんね、キュリテ」
こうしていると安心するなあ……。
「っ!」
と思っていたのに、突然身を引かれた。
「え?」
びっくりして兄さまを見つめると、兄さまも何故か私を驚いた目で見ていた。
「……ノワール?」
え、もしかして、仲直りしたくなかった?
私は仲直りしたいんだよ!
「ど、どうしたの、兄さま?」
不安になって目で訴えかけていると、兄さまが安心したように呟いた。
「良かった……。なんでもない」
「そう……なの?」
だから私も、安心して微笑む。
「兄さまが何でもないなら、良かった!」




