第047粧 駄犬くん?フッ、口ほどにもないやつだ
「はじめ!」
先に動いたのは駄犬くんだった。
「死ねえっ!!」
ルール違反はなはだしい台詞を叫んだ彼は、訓練用の武器……西洋型の模造剣を手に突っ込んで来た。
気合とともに振りかぶって、こちらに斬りかかる。
威勢は良いものの無駄に大きな動きを、私は見切って避けた。
直後に突進してくるのも、横にかわす。
動きが、考えが。
直線的な態度が、とても見切りやすい。
そうして彼の太刀筋を時折受け流しつつ、何筋か様子を見ていた。
……のだけど。
私は他の令嬢よりも運動神経が良い方だと思う程度で、体術チート持ちじゃない。
だから私が今上手く動けているのは、駄犬くんが見切りやすい動きをしていると言うことで……。
……あ、あるぇ? 思ったより大したことない?
「クソッ!!」
「ダメだな」
「何がだ!?」
私の最小限の回避に対して、駄犬くんは変わらず大ぶりな動きをしている。
私の言葉に反応する余裕はあるみたいだけど、それでもイライラしている様子が見て取れた。
対して私は余裕を見せるように、口を開いた。
「お前は本当に使者なのか?」
そう言えばこの子は、乙女ゲームのシナリオにいない四人目の使者……。
「使者は加護を与えられているんだろう?」
予期しない使者である彼には、何らかの秘密があるのかな。
「だと言うのに、加護も魔法も持たない一般生徒相手に、何故そうも苦戦しているんだ?」
実際には私は黒の神子なんだけど、今の時点で何の力も持ってないのは間違っていない。
私は模造剣を振る代わりに、嫌みを言い放つ。
駄犬くんが決闘するって言いだしたせいで、兄さまと喧嘩したんだもん!
私だってこのくらいの悪態は、吐いたって良いよね。
「お、俺は使者だ! 苦戦なんかしていねえ!!」
私の馬鹿にしたような態度が気に障ったのかもしれない。
彼は訓練部屋中に響くような怒鳴り声をあげたと思うと、こちらに直進してきた。
「証がある俺は、間違いなく使者なんだ!!!」
きっと決着を付けようとしているんだろう。
飛び掛かってくる駄犬くんは、馬鹿の一つ覚えのように剣を振り上げ右肩から斬りかかろうとする。
その一太刀を、タイミングを合わせて受け止める。
それを見た駄犬くんが、笑ったのを見逃さなかった。
「はっ!」
油断した駄犬くんが力を込めようとした瞬間、それを私から見て左に一気に受け流す。
威力を上乗せしようとしていた彼は、勢いあまって床に剣を叩きつける。
「ッ!」
少しくらいは手に反動が生じてもおかしくない。
そこへ追い打ちをかけるように、私からの初めての一撃を放つ。
自滅するような行動に加え、追い打ちの攻撃を受けたことで手への衝撃が耐えきれなかったのかもしれない。
ついに私は、駄犬くんの手から模造剣を叩き落とすことが出来た!
「勝負あり! 武器喪失をみとめる! 勝者、キュリテ!!!」
――ワアッ!!
その瞬間、会場内が歓声で沸き立った。
あ、あれ? 自分で言うのもなんだけど、歓声で良いの?
白の神子の使者が、負けちゃったんだよ?




