第037粧 駄犬くんがご飯を粗末にするので、激おこです
叫び終わった駄犬くんが顔を真っ赤にして立ち去ろうとした途中で、私の存在に気付いて話しかけて来た。
「お前っ……? あのくそアマと顔が似てるな」
ふっ……私の存在に気付いてしまったか。
あんまり関わりたくないんだけどなあ。
「双子だからな」
「へーえ」
駄犬くんが私をじろじろと観察し始めた。
あんまり見ないでほしいなー。変装バレしたらいやだし。
そう思っていたら、駄犬くんは一人頷いた。
「よし」
何が良いの?!
勝手に納得されると気味が悪いので、こっちから思い切って何の用か聞いてみることにした。
「俺に何か用が?」
どうせロクな用じゃないんだろうけどね!
「ちょっと待ってろ」
駄犬くんがポケットを漁り始めた。
なんだろう?
駄犬って呼ばれてるし、ドックフードでも探してるのかな?
なんて、それはさすがにないかー。
「あった!」
鼻息の荒い声色と共に、駄犬くんが何かを勢いよく私の前に投げてくる。
「えっ、ちょっとまっ……」
慌てて投げられたものを受け取ろうとしたけど、もう手遅れ。
ぺちゃ……。
と妙な音を立てて、それは私の前に降り立った。
そう! 食事中の! 私の! テーブルの! 上に!! だっ!!
説明しよう!
まだ食べてる途中のご飯の上に、駄犬くんが放った布のような何かが落ちてきて、台無しになったよ!
こんにゃろー!!
「……」
「決闘だ! くそアマの血縁者!」
はっ!?
し、知ってる! 知ってるこれ!
一昔前のハーレムラノベでよく見る展開!!
強気系ヒロインとか、かませ犬男子とかが、男主人公によくやるやつ!
つまり私が主人公……!?
って、いやいや、今はそんなことはどうでも良くて!
突然のラノベ的展開に、危うく注意をそがれるところだった……危ない。
やるね、この駄犬くん。
だがそうは問屋が卸さないよ!
私は込み上げる怒りとともに、椅子からスッと立ち上が……ろうとしたら、ウォルターが私の服の裾を引っ張った。
「少し、落ち着こう」
「止めるな、ウォルター」
「あとで同じもの頼んであげるよ。だから思いとどまってくれないかい?」
テーブルの向かいにいるハウザーもコソコソと会話に交じってきた。
ちなみにガイアスはオロオロしている。
「ダメだ。今、俺の怒りが有頂天。あとおかわりは別のものでよろしく」
「ちゃんとおかわりを要求するあたり、実は冷静?」
「どこが!? 有頂天とか言ってるし、どう見ても冷静じゃないだろう! 目が据わってるって!」
「二人とも、止めてくれてありがとう」
「ありがとう、じゃないって!」
「しかし、犠牲になったご飯のことを、俺は……忘れることは出来ない……!」
そして私は、憎き敵の前に立ち上がった。
「ふっ。誰がくそアマだって?」
そして、お皿の上に乗ってご飯まみれになった布……よく見ると手袋だったそれを、ばっちいものを触るような感じでつまみあげる。
「まず先に、自分の胸に手を当てて考えろ。誰が真のクソなのか、と言うことをな!」
そのまま食べ物でベショベショになった手袋を、駄犬くんの顔にバチーン!!
「……!」
あ、これちょっと少年漫画っぽくない? ぽくない?
よし! そこまま、決めの台詞!
「食べ物を粗末にするな! この野郎!!」
ビシッとポーズを決めると、食堂内のあちこちから「そっちか!!」と言う空気感が漂ってきた。
あー、だってご飯ー!
ご飯まだ食べてる途中だったのに!!
好きなやつ最後に残してたのに!!!
ハウザーが額に手を当てていたけど、気にしない気にしない。
視界の端に見える兄さまがすごく慌てているような気がするけど、それも気にしない!
「き……」
静止している駄犬くんの顔から、ぺろーんと手袋が剥がれたころ、彼がようやく動き始める。
「キサマァーーー!!!」
胸倉をつかまれる! と思った直後。
何かが私と駄犬くんの間を、ビュッとすごい勢いですり抜けていく。
「へっ?」
何事かと思ってそっちの方を見ると、何故か壁に扇子がめり込んでいるよ?
なんで?




