第036粧 駄犬くんのしつけがなっていない
ちらちらと兄さまたちの様子を見つつ、ご飯を食べる私たち。
そうしていると、二人のいるテーブルに茶髪の男子生徒が近づいて行くのが見えた。
「おい、くそアマ」
「なにかしら? 駄犬」
インパクトのある挨拶を交わした男の子と兄さまが、ものすごく睨み合い始めた!
と言うか兄さま、なんでノワールがくそアマとか言われているの!?
一体何したの? 悪役令嬢っぽいことでもしたの!?
私と入れ替わってとは言ったけど、そこまでしなくて良いんだよ!!
殺伐とした雰囲気に、すぐそばにいるヒナタちゃんが怯えた目で兄さまと男の子を見比べている。
……あのポジション、可哀そうすぎでは。
もしかして、兄さまに駄犬と呼ばれている男の子が、トラブルを起こした子なのかな。
「その席を譲れよ」
「仕方ありませんわね……。神子さま、他の席へ参りましょう」
「は、は……」
「ちげーよ! 頭悪いのかくそアマ! お前だけがどけって言ってんだよ!」
「ひっ」
怒鳴る駄犬くんに、食堂の視線が一斉に集中する。
はいって言いかけたヒナタちゃんがビクッと怯えたのが見えた。
うーん、ダメだよ駄犬くん。
神子ちゃんと一緒にいたいのかもしれないけど、それじゃあ怯えさせちゃうだけじゃない。
と言うか、まさか駄犬くん、ヒナタちゃんが男性恐怖症なの、知らないのかな?
「ここ最近のノワールって、すごく格好いいと思うんだよね……」
兄さまがヒナタちゃんを引き連れて席を立とうとした様子を見て、ガイアスがぼそっと呟く。
ぎくっ。
変装していること、ガイアスにバレてないよね?
「はぁ……。またあいつか。使者としての自覚あるのか?」
「ノワールに駄犬って呼ばれているのが、もう一人の使者?」
「うん、そうだよ」
「ノワールの方が使者みたいだ。使者と言うより、騎士と表現するのが妥当か」
そう言うウォルターは、ちゃんとした使者のはずじゃない。
と言う目線をウォルターに向けると、素知らぬふりをしていた。
目を離している隙に、駄犬くんは兄さまに上手い感じにあしらわれた様子。
イライラした感じで歩き始めたと思ったら、その途中で何故かこっちに視線が飛んできた。
「おい、お前ら!」
「うわ。こっちに来た」
そこで止まらないで、そのまま通り過ぎていいのよ……。
「お前らだって使者だろう! あのくそアマに、神子のまわりをウロウロするなと言ってやれよ!」
いや、無駄にウロウロしてるのは駄犬くんの方じゃないかな?
「ノワールは神子さまの案内役なんだよ。ウロウロしてるんじゃなくて、神子さまがこの世界に早く慣れるように、頑張っているんだよ?」
「だとしたら、なんであいつがそばにいるのに、俺たち使者が神子に近寄れないんだよ!」
「神子さまは男性恐怖症だって言われたの、忘れたの?」
「近くにいるぐらい、良いだろ!」
「ッ!」
おっと、危ない。
思わずよくねーよ、って真顔で言いそうになったよ。
セーフセーフ。
男性恐怖症のことを覚えていて、分かっていて。それでもヒナタちゃんに手を出そうとしているなんて……。
タチが悪いね、この子は。
「ノワールが神子さまのそばにいるのは、神子さまのためなんだよ?」
「ガイアスの言い方は、自分に言い聞かせてるみたいだ」
ガイアスの呟きに、隣にいるウォルターが私にだけ聞こえるような小声で呟いた。
ガイアスってば、そんなにノワールと話したいの?
さっきの話だと、今のノワールを独り占めしているヒナタちゃんに多少は思うことはあるのかなあ。
いやいや、そんなまさか。
いずれヒナタちゃんの方に惹かれて、ノワールは婚約破棄されるから、そんな訳ないじゃない。
「ノワール嬢のことを悪く言わないでくれないか? 彼女は俺たちとは古くから親交があってね。友人のことを罵られると、俺たちも良い気はしないんだよ」
「くそっ、お前らまであの女の味方をするのかよ!」
そう言ってテーブルを強く叩く駄犬くん。
あの、熱がこもってるのは分かるんだけどさ。
食べ物とか飲み物が零れるので、食堂の机を叩くのはやめてくれたまえ?
「敵も味方もない、俺たちは神子さまを支えることが役目なんだ。君はそうじゃないのかい?」
「だったら、いつまでこうしていれば良いって言うんだ! 俺たちは神子のそばにいるべきなんだろう!?」
「そばにいられないからと、その当てつけをノワール嬢にしているのか?」
ハウザーは無難に生きていそうに思ってたけど、思ったより言うときは言う人なのか。
ちょっと意外な感じで眺めてみると、心強い感じがした。
「君は初日の訓練で魔法を使えなかっただろう? 神子さまを守る以前に、まずはそれをどうにかしたらどうだい?」
「クソッ! お前らみんな、バカにしやがって!!」
叫んだ駄犬くんは、ここが食堂内だと言うことを気にしてないのかな。
それにしても駄犬くんは魔法が使えないのかー……。
そこだけは、何だか親近感沸くなあ。
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