第032粧 兄さまは白の神子を紹介してくれない
「お……おはようございます、ノワールさん」
「ええ、おはようございます」
兄さまと一緒に教室に入ると、オドオドしていた女の子がこっちに走ってきた。
正確には兄さまのところに、だね。
「えっと、おはよう? ノワール、彼女は……?」
遠目からとは言っても一応昨日見たから、この子が白の神子ちゃんだってことは分かるんだけどね。
でもね、名前を知らないんだよ。実は。
ちなみにゲームだと名前が入力出来るから、攻略対象に好きな名前で呼んでもらえるんだよ!
それはさておき、白の神子ちゃんの名前は!?
「白の神子さまですわ」
「……」
「…………」
兄さまの一言を最後に、会話は途絶えた。
……って!
兄さまよ!
白の神子ちゃんを私に紹介する気も、向こうにしてくれる気もないんかい!
疲れているのはわかるけど、兄さまツンツンしすぎ。
本当の悪役令嬢か! って言いたくなる。
なので今、私の顔は大変引きつっていると思います。
「うん、それは知ってる。だけど、名前くらいは紹介してほしいんだけど、なー?」
兄さまの顔を覗き込んで訴えていると、目をそらされた。
ぐう、なんでやねん。
代わりに、白の神子ちゃんが上目遣いで名乗ってくれた。
「あっ、あのっ、ヒナタと言います……」
「ヒナタ嬢?」
「ひっ」
私が近付きかけたところを、無言の兄さまに止められる。
危ない危ない、忘れてた! 彼女、男性恐怖症だったね……。
それなのに男の子に自己紹介したんだね……。
偉いね! 頑張ったね……!
でも私、女の子なんだよね……!
とは言っても、今の私の外見は完全に男の子。
ちゃんと、大人しくしてるよ。
「悪いな、離れたままで問題ない。ノワールから恐怖症のことは聞いているから」
「え?」
「俺はキュリテ。ノワールとは双子だ」
簡単に自己紹介すると、ヒナタちゃんは私と兄さまの顔を交互に見比べた。
ただし目は合わせてくれない!
で、ですよねー!
「双子……。……そういえば……似てます……ね」
えー! そういえばレベルー!?
いやもう某ファミレスの間違い探しみたいに、違うところを探すのが難しいレベルじゃなくてー!?
「キュリテ」
扇子を口元に当てた兄さまが顔を寄せてくる。
「なんだ?」
首を傾げると、ヒナタちゃんに聞こえないように小声で苦情を言ってきた。
「あまり親しくするな。問題児が二人揃うと俺の手に手に余る」
「だから変装やめよう? って言ったのに」
「問題児のお前が、問題児の面倒を見れるのか?」
「ぐぬっ……」
「迷子を捜しに行ったお前が、一緒に迷子になるようなものだ」
「ま、迷子になんてならないよ!」
方向音痴でもあるまいし!
「でも、問題児については自覚があるので反論出来ません……」
「それは結構。将来的に白の神子は使者と交流しなければならないんだ。白の神子が克服するかはわからないが、俺たちがそこまで面倒を見てやる義理もない」
「それはそうかもしれないけど……」
「悪役令嬢はどうした? 破滅を回避するんじゃなかったのか?」
「したいよ!」
「それなら、俺たちはこのままの距離感を維持する。ノワールも白の神子と距離を詰めようとするな。いいな?」
パチン、と兄さまが扇子を閉じたのが小声会終了の合図。
つまり、兄さまからは、これ以上ヒナタちゃんに関して言うことはないってこと。
「う……ん」
でもそうすると、ヒナタちゃんが頼れる人が兄さまだけなのに。
積極的にはヒナタちゃんに関わりたくなさそうだけど……。
大丈夫……かな。
頼れる人がいないのって、寂しいことなのに……。




