第031粧 (.{3})キュリテ:4
登録ジャンルがあってないのでは…と悩んだ結果、ジャンルを変えました。
話の展開、方向性などに変更はありません。
すべてこれまで通りです。
ノワールが俺の部屋から退室してしばらくのこと。
「にゃー」
閉じたままの窓から、黒猫がたやすくすり抜けてきた。
迷いなく俺の足元に寄ってくる猫に、告げる。
「戻れ」
声を合図に黒猫の体は液体のように溶ける。
そして、猫だったものは俺の影に身を沈めていくと、影も形もなくなった。
左手の甲を見ると、それまでなかった逆三日月型のアザがくっきりと表れている。
左半分の有明月。
ノワールの三日月と対となる、ノワールの知らない、証。
「ノワールの予言通り、ウォルターは使者か。じゃあ駄犬は……何者なんだ?」
アザに意識を集中すると、俺の脳裏に黒猫が見聞きしてきた事が浮かび上がってくる。
それにしても思った以上に、予想通りに事が運ばない。
「くそっ」
甘やかして、俺を頼るように、誘導していたノワールでさえ。
「ウォルターか、ノワールに余計なことを言ったのは。これなら離れるべきじゃなかった……! 白の神子なんてどうなったって構わない、こんなことをしている場合じゃないんだ!」
ウォルターの発言に影響されて、ノワールの意識が多少なりとも変わったことは間違いない。
俺は、ふと過去の記憶を思い起こした。
『未来はね、設定を元に決められた未来に収束していくの』
才女と呼ばれていた頃の幼い彼女はそう言って、彼女自身が記したゲームの内容……ゲームブックを俺に差し出した。
『だから私は、この運命からは、きっと逃げられないよ』
幼い頃から呪縛のようにノワールによって心に吹き込まれてきた一言に、胸が苦しくなる。
『でももし、確定している設定が変えられるなら、新しい未来も拓かれたりするのかな?』
きっと今となっては、俺に何をどこまで言ったか、彼女はぼんやりとしか覚えてないだろう。
『そしたら、ずっとみんなで一緒にいることが出来たかもしれないのに。そうだったら……良かったな』
彼女の言うように、確定している設定を変えることが出来ないと言うのなら。
未来は確定した設定を元にして決まってしまうと言うのならば……。
確定している設定の隙をついて、行先を望むレールの方へと誘導すればいい。
俺が彼女からゲームブックを受け取って、数年経過した今。
俺たちの進む未来は、そこに記されたどの道筋からも、大幅に逸れている。
それでも、放って置くと、いつかまた本来の道筋へ戻ってしまうだろう。
ノワールを確実に絶望から救うためには、もっと大きな設定の隙を突かなければいけなかった。
そのためには……。
「思い出させるわけにはいかない。今の関係が変わるようなことだけは……絶対に」
それがノワールを救うことの出来る、最後の切り札だから。
――キュリテ。
ふと、包み込むように優しく俺を呼ぶノワールの声が脳裏に蘇ると、胸が苦しくなるような気がした。
「俺は決めたんだ……だから、そんな声で呼ばないでくれ……」




