第030粧 兄さま、大丈夫? 変装やめる?
ぐったりしている兄さまから何とか情報を聞き出したけど、それは予想外の内容だった。
「白の神子ちゃんが、男性嫌い!?」
「正確には恐怖症らしい。あまりにも様子が不自然だから、なんとか本人に事情を吐かせたんだ」
え? スタート時点から、まさかの超展開!?
「触られるのはもちろんだが、極端に近寄られたり声をかけられたり、目を向けられたりするのも怖いらしい……」
だから舞台上であんなに怯えていたんだ……。
きっと、すごく怖かっただろうね……。
「令嬢のノワールがこんなにお転婆なのに、どういう環境で育ったんだ……」
「箱入り娘かな?」
「俺たちと混ざって遊んでいた時点で、ノワールが特殊すぎるのか……」
「神子ちゃんはなんというか……神聖感あるね。文字通り、神子! って感じだね」
「じゃあ黒の神子のお前は何なんだ」
「一応、黒の神子です?」
「答えになってないし、何故疑問形になる」
首を傾げて答えたところ、兄さまが溜め息をついてしまった。
「とにかく、白の神子は男性恐怖症だ。すると、どうなると思う?」
「どうなるって……、男の人に近寄りたくないんでしょう?」
「分からないのか? 白の神子の使者は全員男だろう?」
「あーっ!!!」
ダメじゃないの!!
「あれっ、乙女ゲームのストーリーは!? 破滅フラグは!? 世界を闇から救うのは!?」
「俺が聞きたい」
ヒロインがまさかの自主ハードモード!
ハードを通り越してナイトメアモード!!
これって白の神子ちゃん、ストーリークリアできなくない?
あれ?
と言うことは、この場合の悪役令嬢は何もしなくても勝ち組ってこと?
破滅回避できてる?
やったー! ……え? 本当にやったの?
やったか? やってない! みたいな、変なフラグ立ててない?
「とにかく、そんな様子で唯一近くにいる俺が女の格好をしているから、懐いてきて厄介なんだ!」
将来のハッピーエンドの予感に内心で微妙に喜んでいた私の前で、兄さまが嘆いているので喜びを態度に出しづらい。
「男性恐怖症なんだろう? 何故俺に触れて平気なんだ? 格好の問題なのか? であれば、学園の生徒全員女装してしまえ!」
この兄さまの呪詛がすごい!
やだよそれ。
私はそんな地獄絵図、絶対に見たくないよ。
兄さまは女装似合うから良いけど、似合わない人の女装はちょっとご遠慮頂きたく!
男性恐怖症の白の神子ちゃんが平気ってことは、兄さまの女装のレベルがものすごく高いんだと思うんだけどね。
きっと兄さまは余計にぐったりしそうなので、今は褒めないほうが良さそう。
「ねえ兄さま。……変装やめる?」
「え?」
ふと、ウォルターに言われたことを思い出した。
兄さまは私が思っているよりも努力している、と。
「だって、大変でしょう?」
現に今、兄さまの苦労が目に見えている。
私が悪役令嬢を押し付けたことによる、思わぬ苦労が……。
こうして考えてみると私、今まで破滅フラグのこと……乙女ゲームでの未来のことばっかり考えていて、日々の兄さまに迷惑がかかることを全く考えてなかったんだね。
そう自覚すると、ちくりと心が痛んだ。
「い、いま……なんて言った?」
そんな私の様子が意外だったのか、兄さまが目を見開いていた。
「え? 変装やめる? って言ったんだけど……」
「どうして? 何故急にそんなことを言い出すんだ?」
「え、だって大変そうだし……」
「今まで散々お前のことをフォローしてきたんだ。それくらいどうってことない」
え? なんか兄さま、ムキになってない? なんで?
「迷惑なんかじゃない」
「そう……なの?」
「こんなこと、たいしたことじゃない。ノワールが気にする必要はないんだ!」
「う、うん」
「だから俺を、頼ってくれ……!」
何となく兄さまが興奮しているような気がして、私は気を落ち着かせるためにそっと兄さまを抱きしめた。
「……うん。わかった、気にしないよ」
でも、どうしてこんな風に荒れかけているのか、気にはなるんだけど。
「兄さまのこと、頼るね」
「……」
「でもね、辛くなったら言ってね?」
「……ああ」
声を落として返事をする兄さまが、私の髪をすく。
素手で優しく触れられた感触が、くすぐったかった。
頼って欲しいと言われているのに、何だか兄さまが甘えてくれてるような気がして。
私はそれが嬉しくて、そっと呟いた。
「……絶対だよ? キュリテ」
兄さまはそう言うと、私のことを痛いくらいに抱きしめ返した。




