第028粧 (.{3})キュリテ:3
結局、駄犬使者はハウザーが呼び出した教師に連れられ、控室を後にした。
最後まで負け犬の遠吠えのようにわめいていたが、駄犬のすることだ。
気にする必要は一切ない。
駄犬がいなくなると白の神子が近寄ってきた。
「の、ノワールさん、有難う……ございます……。私……怖く……て……」
何故そんなに俺に懐くのだろう。
最初に手を差し伸べたのが俺だったから? ひな鳥の刷り込みだろうか。
だとすると、案内役を引き受けたのは判断ミスだ。
「神子さま、彼らを紹介しましょう」
「えっ」
騒動も落ち着いたことだ。いい加減にこの場から離れたい。
そう考えながらもなんとか苛立ちを抑えていると、占星術師が使者の紹介に入った。
「彼らは神子さまとともに、世界から闇を払う役目を負っています」
正確にはついさっき負わされたばかり、だろう。
二人とも役目を好意的に捉えているのか、白の神子に笑顔を向けている。
しかし、白の神子は二人から隠れるように俺の影に隠れた。
……これはどこからどう見ても、完全に懐かれている。
ハウザーが彼女の様子に苦笑して名乗りをあげた。
「火の使者に選ばれたハウザーです」
「土の使者、ガイアスです。よろしくお願いしますね、神子さま!」
「先ほどの生徒は、……ダーケンと言う名です」
「ひっ……」
余程強烈な印象を抱いたのか、駄犬の話題になると白の神子は肩を震わせた。
俺が駄犬と評価した男の名がダーケンだと聞かされ、名は体を表すな……と感心する。
「あの、ノワールさんは……?」
だから何故、俺を気にするのだろう。
「私は案内役ですのよ。私のことは気にせず、彼らと親睦を深めなさって? ハウザー、ガイアス、あとはお任せしますわ」
良いタイミングだと判断した俺が退室しようと踵を返すと、白の神子が追いかけてきた。
「そんな、待ってください……!」
服をつかんで来ようとする白の神子を避けると、彼女はバランスを崩した。
「きゃっ!!」
「神子さま!? 危ない!」
そばにいたハウザーが慌てて駆け寄り、彼女を抱き寄せる。
「ふう……。危なかったですね」
思わず真顔になるほど、清々しい笑顔を見せたハウザー。
だが、倒れなかったことに安心すると思っていた白の神子の反応は、俺たちが考えるものとは真逆のものだった。
「ひっ……」
息を飲む音がした。
そう思った直後、白の神子は白目を剥いて気絶する。
「「「えっ!?」」」
まさかの展開に、俺たちは動揺した。何故気絶したんだ?
「神子さま!?」
「だ、大丈夫かな? どうしたんだろう?」
「え? 俺何かした? 何もしてないだろう??」
「何かしたかと仰るなら、抱きとめたじゃありませんの。恐ろしく顔面が近かったですわね」
「それはそうだけど……え? まさか、それくらいで? 倒れる??」
「……さあ? 知りませんわ」
俺はいい加減にノワールの所に行きたいので、正直どうでも良い。
むしろこの隙をついて、この場から逃れたい。
そう思っていると、若干傷付いた表情をしながらも白の神子を抱き寄せていたハウザーが、彼女をソファーに座らせて呟いた。
「まさかとは思うんだけどさ……」
「どうしたの?」
「神子さま……男嫌いなんじゃないか?」
「ええーっ、そんなまさか……」
ガイアスの言う通り、そんなまさかだ。
そうだとしたら、俺はなんだ?
女装しているとはいえ、俺は男なんだが。
それに、ノワールからはそんな話は一言も聞いていない。
帰ったらノワールに確認しなければ。
乙女ゲームとは、主役の女性が男性候補者を恋に落とす物語ではなかったのかと。
そうじゃないなら、お前がわざわざ手作りした乙女ゲーム再現ゲームブックと言うものにつき合わされた俺はなんなんだと……。
いや、それはこの際どうでもいい。
それよりも、最悪な予感が過った。
もしかすると、俺は……。
ノワールとしてこのまま、白の神子に付き添うはめになるのだろうか。
なんて面倒なことになったんだ。勘弁してくれ……。




