第027粧 (.{3})キュリテ:2
俺は白の神子を連れて講堂の控室に入った。
「落ち着きました?」
「は、はい……有難うございます」
椅子に座らせ、用意された飲み物を与える。
その後に占星術師が現れるが、白の神子は怯えたまま。
召喚の経緯を説明する占星術師と白の神子の様子をよそに、俺は召喚直後に痺れを感じた左手を眺めた。
こんなところにいるよりも、早くノワールの所へ戻りたい。
特に、今は白の神子の召喚直後だ。
使者が見知りの三人ならば、今頃ノワールは一人で行動しているだろう。
一人で放って置くと何が起きるか分からず、気が気でない。
無理にでも案内役の補助として、ノワールを連れて来ればよかっただろうか。
「私は席を外しますわ」
「あ、あのっ」
予定ではもう間もなく占星術師が使者を紹介することになっている。
案内役は必要なくなるため、この機に乗じて退室しようとしたが、白の神子に引き止められた。
「なにかしら?」
「あ、あの……。ノワールさん、もし良かったら……もう少し、一緒に居て欲しいんです……」
良いわけがない。
消え入りそうな声で請われたが、白の神子なんてどうなったって良い。
俺はノワールの元に行って、何事もないことを確認したくて仕方がないんだ。
こんな時だからこそ、傍にいないと落ち着かないと言うのに……。
「私……その……」
彼女がまだ何かを言おうとしたとき、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。
「ダメだよ! 神子さまは占星術師さまと話し中なんだよ?」
「問題ないだろ! 俺たちは選ばれた使者なんだ!」
「だからと言って、話の途中で割り込むものじゃない! もう少しくらい待てないのか!」
「待てるかよ! 俺は早く神子に会いたいんだ!」
「待てって!」
ガイアスとハウザーが誰かを静止しているような会話だ。
もう一人も使者のようだが、声が明らかにウォルターとは異なる。
と言うことは、ノワールの予言が外れたのだろうか?
もう一人の使者が何者かは知らないが、会話から分かるのは、待ての出来ない駄犬だと言うことだ。
――バタンッ!!
「神子!」
「きゃあっ!?」
暴力的な音を立てて扉を開いたのは、茶髪の見知らぬ少年だった。
後ろからハウザーたちが追って来ている。
「ノワール嬢! その馬鹿を止めてくれ!」
「えっ? それは危ないよ!! ダメ、ノワール!!!」
ハウザーの発言に、俺がノワールを演じていることを知らないガイアスが慌てた。
あいつが心からノワールを心配していることが分かり、多少は嬉しくなる。
「何があったのです」
「良いから! あいつ興奮してるから何をするか分からないんだ!!」
明らかな拒絶を見せる神子に構わず、駄犬が接近した。
「ひっ」
「神子! 会いたかった!」
その上、気安く肩に触れようとする。
「はな……して、ください! 離して! いや! やだ!!」
これは……ノワールが見ていたら激怒する案件だろう。
召喚直後のときだって、ノワールは怒鳴っていた。
無意識に行動したんだろうが、注目を浴びてまで周囲の視線を引き受けた片割れの様子を思い出して、俺の内に不愉快な思いが募る。
自分が死ぬ原因を作るかもしれない相手に、何故ああも同情出来るのだろう。
「助けて、ください! ノワールさんっ!!」
それにしても、白の神子は何故俺に……ノワールに助けを求めるんだ。
まさかとは思うが、黒の神子の存在を知っていて、助けを求めているのか?
白の神子の存在が、ノワールを貶めるかもしれないと言うのに?
そう思うと気が進まず、傍観していたかった。
しかし、ハウザーから圧を感じ、仕方なしに対処することを決める。
ここで何もせずに、ハウザーに面倒を頼んだはずのノワールを蔑ろにされたらたまったものではない。
「いい加減になさい」
俺は右手に持った扇子で、白の神子の肩から駄犬の手を叩き落とした。
「きゃっ!!」
「いっ! いてえっ!? なんだこの馬鹿力女!」
「馬鹿力ですって? 失礼な男ですこと!」
俺は白々しく扇子をあおって見せる。
この扇子は多少重りがある。女子の護身用具だ。
ノワールに渡すと見ていないところで扇子で遊んで自滅しそうなのが怖くて、持たせたくない品物でもある。
多少手加減したが、それなりに重量のある扇子でそこそこ悪意恨みその他諸々を込めて叩いたんだ。
……痛いに決まっている。
「うっわ……」
俺の威圧にハウザーが引いているのが分かった。
だが悪いのは、この駄犬だ。
白の神子もだが、こいつが来なければ、今頃俺は控室を出られていたかもしれないんだ。
「俺は使者だぞ! 分かってるのか?」
「存じませんわ」
「危ないっ、ノワールっ!」
俺に食って掛かろうとする駄犬を羽交い絞めにしたガイアスが、俺が演じるノワールの様子を意外そうに見る。
実際のノワールだったら、冷静にいられずに感情的に喚いていただろう。
違和感があって当然か。
「なんだお前は! 使者じゃないんだろう!?」
「あら、ご存知ありませんの? 私、神子さまの案内役に任命されておりましてよ? 嫌がる女子に触れようとするあなたのような愚か者から、神子さまを守るのは当然のことですわ」
何故、本音と真逆の言葉を口にしなければならないのか。
「お分かり?」
これ以上ないほどの殺気を込めて、俺は駄犬を睨みつけてやった。




