第026粧 悪役令嬢の手袋は何を隠す?
「だいたいどうして手袋のことなんか聞くの?」
「……違和感があったからだ」
「違和感?」
ウォルターは考える素振りをしている。
……あれ?
折角良い感じで誤魔化せたと思ったけど、もしかして墓穴掘っちゃった?
「キュリテは、ノワールにとって完璧な兄であろうとしている。自分はそう思っている」
「唐突だね。それはまあ、兄さまはなんでも出来るし」
「なんでも出来るんじゃない。やっているんだ。君が思うより、キュリテは努力している。君の兄でいるために」
やけに何かを強調するような言い方にムッとして、私も対抗する。
「どういうこと? 私よりウォルターの方が兄さまに詳しいってこと?」
「ムキにならないでほしい。自分は、そこまでうぬぼれてない。ノワールが気付こうとしていない。ただ、それだけ。……それだけだ」
チラッと私の顔を見たウォルターが付け加える。
「そんな顔をしても、それだけと言う話だ」
「むー」
きっと今の私は、ハムスターがご飯いっぱいつめこんでるみたいな顔してるんだろうな。
「話を戻そう。手袋についての違和感の話題だ」
あんまり触れたくない話題なんだけど、仕方なく頷いた。
「ノワールは気付いただろうか? キュリテは今日、手袋をはめていない」
「そうだね」
と言うか気付いた私も凄いけど、ウォルターも鋭いな。
でも急にそれがどうしたんだろう?
「完璧を演じているキュリテが、公の場で手袋を外しているのは意外だ。ノワールはいつも手袋をしているから、変装していても同じようにするだろうと自分は考えていた」
「私の手袋、そんなに目立つ?」
「小さい頃から、気温気候に関わらずはめているだろう?」
ウォルターって案外よく見てるし、よく覚えてるなあ。
「手袋が土まみれになる遊びをしたあとも、キュリテが外すのを必ず止める。それがとても不自然だった」
そもそも幼少とは言え、令嬢が男の子に混じって土まみれになるような遊びをしていること自体も不自然な件!
……と茶化して言える雰囲気じゃない。
あと自分のことなので、ブーメラン案件になります、はい。
そしてついこの前、薔薇を折った私が言える台詞ではありません。ぐぬぬ。
「自分にはそれが、まるで見せたくないものに蓋をしているように見えた。だからずっと、ノワールは手を火傷か何かを負っていると思っていた」
あれっ、ウォルターが疑っていたのって火傷ー!?
「次に自分のこれを見て、さっきの三人目が名乗りをあげたときに思った。上手くこれを隠さないといけないな」
あー、だからそこで私の手袋について思い出したのかー。
「そのとき思ったんだ。もしノワールが手に傷を負っているなら、君が綺麗な身の上であることを印象付けるためだけに」
ウォルターはそこで言葉を一旦区切って、私の目を見つめてきた。
「キュリテは人目の多い場所で、ノワールとして、素手を晒して見せるだろう、と」
えっ。私の兄さま、計算高すぎっ??
と言うか、その行動に何か意味ってあるの?
「でも男の子と女の子の手って、よく見ると違うよね?」
「知っているんだ?」
「それはもう! いつも兄さまの手をにぎにぎしてるので!」
「キュリテの手は肉球か何かか?」
兄さまの手が肉球? それはもう最高じゃありませんか!
なんて思いつつも、ウォルターのツッコミはスルー。
「舞台の上だから遠目だったけど、分かる人には変装してるってばれちゃうんじゃない? そんな危険を追ってまでやることかな?」
「それも、そうか。自分の意見はあくまでも印象として感じたものだから」
うーん、でもそうかー。
私の手袋って、結構不自然だったのかー……。
「じゃあ兄さまがたまに手袋しているのはどう思う?」
「さて? 予測出来ることとしては、大方ノワールのためだろうと思う」
「私のため?」
「例えば、ノワールが手袋をはめるのを嫌がっていて」
どきっ。
「『自分もやるから、一緒にしよう』と、言ったのではないだろうか」
「そんなこと言われたこと、ないんだけど……」
「あくまでも、自分の推測だ」
「それにそんなんで手袋付けたら、私が子どもみたいじゃない」
いやでも、そんなこと言われたら喜んでつけるかもしれない。
兄さまとお揃いー! って感じて。
……あれっ、否定できないよ、これ。
「子どもじゃないか」
私の考えていることが分かったのか、ウォルターはぼそっと呟いた。
それは肯定と否定、どっちなんだろう……。
発音は肯定っぽいんだけど。
じと目で見ても、ウォルターは答えなかった。
今日のウォルターは随分と喋るなーなんて思ったけど、それ以降は大人しくなってしまった。




