第023粧 兄さまはドールに手を差し伸べる
神子ちゃんは、瞳に涙をためて怯えていた。
「あの、なんなのでしょうか……?」
最初に、近くにいる占い師に救いを求めるように目を向けている。
だけど、肝心の占い師は講堂内を見回して彼女の様子に気付いている気配がない。
だから、神子ちゃんはキョロキョロと周りを見回して、次に助けを求める人物を探しているようだった。
でも案内役である兄さまが彼女の前に出て来る様子はない。
どうしたんだろうと思って舞台袖を見ると、さっきまで居たはずの兄さまの姿が見当たらなかった。
え? 兄さま? ど、どうしたの?
なんでいないの??
いるはずの兄さまの姿が見えなくて、思わず私まで不安な気持ちが湧き上がってくるような気がしてしまう。
講堂内がざわめき始めると、左隣の席のハウザーが小声で話しかけて来た。
「あいつ、どうしたんだろう?」
「わ、わからないよ」
私も知りたいくらいだよ!
さっき思い詰めた顔をしていたけど、白の神子ちゃんを前にして逃げる、なんてことはないだろうし……。
兄さま、大丈夫かな……。
それに、白の神子ちゃんをこのままにしてするのは良くないと思うのに……。
慌てて神子ちゃんを見ると、目があった。気がした。
(たす……け……)
声にならない声が、聞こえた……そんな気がした。
すがるような眼差しに、きゅっと胸が締め付けられる。
……そう言えば、どうしてなんだろう。
「どうしてこんな衆人環視の中で、召喚なんてしたんだ……!」
「キュリテ?」
私がつい怒鳴ってしまったと気付いたのは、前に座っていたガイアスが不思議そうに私のことを見上げていたからだった。
(まずい! 目立ってるよ、ノワール嬢!)
今度はハウザーがこそこそと教えてくれる。
「あっ!」
気づいたら、白の神子ちゃんに集まっていた視線はこっちに集中している。
ちょ、まっ!
こっち見ないで、恥ずかしいってば!
勢いで声をあげたものの思考停止状態で立ったままカッチンコッチンになっていると、舞台の上からコツコツと足音が聞こえてくる。
「し、失礼しました……」
それは、私に変装をした兄さまの足音だった。
姿が見えないからどうしたのかと思ったけど、良かった……。
だけど、兄さまにしては珍しく慌てている。
……と言うか……あれ?
顔色がちょっと悪い?
それに、足元が少しふらついている気がする……。
大丈夫……かな?
兄さまの様子が心配だったけど、私が見ていたのが分かったのか、目があって睨まれてしまった。
……うう。もしかして、目立ったのがバレて怒られてる……?
「っ」
近づく兄さまに、神子さまが怯えているような気がした。
……まさか、悪役令嬢のこと知られていて、怖がられていたりしないよね?
大丈夫だよね?
「安心なさって。不躾な視線を遮るよう、指示しましたわ」
兄さまの言うように、講堂の幕が下りていく。
あ、だからさっきどこかに行っていたんだ。
「安心して、……とは言えませんが、怖がらなくて大丈夫ですわ。今は、ここにあなたを害する者はいませんから」
「あ、あの……」
「詳しいことは、部屋を移動して説明しましょう? さあ、いらっしゃって」
ドールのように可愛らしい白の神子ちゃんに、とても綺麗な兄さまが手を差し出す。
幕が下りているし、こうして見ていると、まるで演劇を見ているみたいだなあ……。
きっと面倒見の良い兄さまなら、白の神子ちゃんのことをちゃんと見てくれるはず。
静かに下りきった幕を見て私はほっと息を吐く。
そういえば。
兄さまが手を差し出したとき、いつも身に着けている手袋をはめていなかったのが見えた。




