第022粧 占星術師は白の神子を召喚する
講堂内で召喚の儀式が始まるのをそわそわしながら待っていると、ようやく動きがあった。
『これより、召喚の儀式を行います』
アナウンスとともに、講堂内の照明が一斉に落ちる。
講堂なだけに会場の雰囲気が偉い人の講演会みたいで、私はとても悲しい。
偉い人の挨拶がなかっただけ幸いだけどね!
それにしても神秘感が皆無!
これなら学園内に何故かある訓練施設とかでやるほうが、良かったんじゃないかな。
ギューギューになると思うけど。
そんな私の思いをよそに、講堂内が一斉に静まり返る中、舞台の中央に向かって誰かがコツコツと歩く音が響く。
その人物をじっと観察してみると、暗闇に溶け込むような夜色のローブがはためき、金色の刺繍がキラキラと軌跡を描きながら光っているのが見えた。
あれは、この前兄さまに案内役を依頼してきた占い師……かな?
兄さまも近くにいるのかな……と思って視線を動かすと、舞台の袖で待機しているのがチラッと見える。
ちょっと手を振ってみるけど、兄さまは気付いていないのか反応しない。
扇子を口元に当てて、占い師のことをじっと見ているみたいだった。
なんだろう……雰囲気がいつも以上に、真剣?
まるで兄さまが本当の黒の神子で、白の神子の召喚を前にして緊張しているような……そんな気迫を感じる。
私と入れ替わってるからって、気を張り過ぎじゃないかな?
兄さまの様子を眺めていると、いつの間にか呪文のようなものを唱える占い師の声が微かに聞こえ始めて来たので、私は慌てて姿勢を正す。
ただその声はあまりにも静かで心地よくて、短時間だけどきっと寝始めた子もいるかもしれない。
呪文が終わると占い師の目の前の床に円状の……魔法陣のようなものが光を放ちながら描かれた。
おー、これが魔法! 召喚魔法だね!?
初めて目の当たりにする魔法陣に、生徒たちのざわめきが復活する。
私も当然、テンションが高まって参りましたよ!
円が完成すると、最初は淡かった光が目が眩むほどのまぶしさに達した。
そうすると、観賞しているだけの私たちは目を閉じるしかない。
「……っ」
目を手で覆っていると、一瞬だけ私の左手の甲が、ピリッと痺れたような痛みを感じる。
そうして、光が溢れる中、占い師の声が聞こえた。
「白の神子さま……」
召喚は成功したのかな?
光の中から、白の神子ちゃんが現れたのかな?
すぐにでも目を開きたかったけど、まだ光は収まっていない。
あの占い師の目、大丈夫なのかな。
失明しないのかな?
なんてどうでもいい心配をしているうちに光が収まったので、ゆっくりと目を開ける。
「……っ!」
きっと講堂内にいる他のみんなも、目を開いてから息を飲んだと思う。
何故かと言うと、光輝いていた魔法陣は消えて、その中央に女の子がぺたんと座り込んでいたから。
講堂の観客の視線が彼女へ一気に集中し、ざわざわと一気に騒がしくなった。
「え、あの……」
腰まで伸ばした漆黒の髪に……ここからだと良く見えないけど、あの子の瞳はきっと髪と同じ色をしていると思う。
「ここは……あの、これはっ……」
お人形のように可愛らしい雰囲気の女の子が、怯えたようにか細い声を上げている。
転生者の私が人形って言うと、雛人形とかの日本人形が先にイメージに出てくるけど、私が初めて目にした白の神子ちゃんから感じた印象は、触れたら壊れてしまいそうなドールだった。




