第019粧 兄さまと占星術師の推薦:2
占い師は説明を続けてくれた。
「神子さまがお越しになってから後手後手になり、不安にさせてしまうなどもってのほかです」
「そうですか」
兄さまそっけないな……。
とんでもなく興味ないのが伝わってくるけど、占い師は兄さまの態度を特に気に留めずに話を進める。
「そのようなことのないよう、事前に可能な限り様々な手配をしております。今回のノワール嬢への依頼は、その一環です」
「それでしたら私ではなく、使者と言う者に案内を指示すればよろしいのではなくて?」
乙女ゲームだと案内役は使者だったもんね。
「神子さまは、この学園に通う生徒と同年代の女性と言うことは分かっています。しかし、使者にアザが現れるのは、召喚と同時です」
「現段階では誰が使者に選ばれるか、分かっていないのですわね?」
あれ?
占い師は使者が誰になるか知らないの?
じゃあゲームでの案内役選びはどういう基準だったんだろう?
ゲームの設定だし、特に意味はないやつ?
占い師は兄さまの問いかけに答えることなく、説明を続ける。
「……様々な理由を考慮した結果により、神子さまと同性でかつ学園が信頼を置いている生徒……つまり、ノワール嬢に白羽の矢が立ちました」
「信頼? 成績優秀の間違いでなくて?」
そんなこと言われたら照れるじゃないの。
……一問ずつ、ずれていたんだけどね。
「よろしいんですの? 私、あまりにも退屈で解答用紙に『悪役令嬢ノワール参上!』と書いたほど、問題児でしてよ?」
アーッ!
ダメ! 兄さま、めっ!!
その話は蒸し返してはいけない!
私の傷をえぐるしなによりも、今変装中の兄さまもろとも自爆してしまう……!
今死ぬ気なのかー! 兄さまー!!
「お話は伺っています。ですが、かつては才女と名高かったあなたのことです。有名になりすぎたあなたは、世間の目を欺くためにわざと教師を混乱させたのではありませんか?」
「え? 有名? 才女?」
誰の話? 兄さまの話?
いやでも女って言ってるし、ノワールの話してるし。
……じゃあ私?
確かに一問ずつ間違えてなければ良い成績だったらしいけど……。
それにしても、謎の高評価じゃございませんこと?
なんか私の話してるはずなのに、別人の話してるみたいでぞっとするなあ……。
唖然としていると、兄さまから「お前黙ってろ」みたいな空気を感じた。
はい、黙ってます……。
「私のこと、持ち上げすぎですわ」
「それに」
「それに?」
「ノワール嬢を案内役にすることで良い流れが出来ると、星が告げていました」
「良い流れ?」
兄さまに言われて黙っていたけど思わず後ろから呟くと、占い師さんがこっちをちらっとを見た。
「それは誰にとっての流れなのです?」
「わかりません。けれど、きっとノワール嬢にとっても悪いことではないかと思います」
ヒロインと悪役令嬢が一緒に行動するのに、私にとっても悪くない?
あ、でも今の悪役令嬢は兄さまだから、変なフラグは立たないかな。
これは兄さまと入れ替わっておいて大正解の流れかも?
「それに、あなたがた兄妹もこの運命の環の中にいる。そのように出ています」
「……」
運命の環の中にいると言われたそれが黒の神子のことのように感じて、ドキッとした。
けど、私たち兄妹……って言ってるから、黒の神子のことじゃないよね。
じゃあ何だろう?
私が死ぬとき、兄さまを巻き込んで死ぬ件かな……。
ぎゅっと兄さまの服をつかむと、兄さまが息を飲んだような気がした。
「……依頼の内容については理解いたしましたわ。けれども承諾するかは別。持ち帰りますわ」
「はい。よいお返事をお待ちしております」
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(あとがき挨拶!)