第018粧 兄さまと占星術師の推薦:1
入学式を終えてさあ帰ろう! と言うところで、聞き覚えのない声が私たちを呼び止めた。
「ノワール嬢、少しお時間を頂けますか?」
「はい?」
正確には、呼び止められたのは私ではなく、女装中の兄さま。
声の方向へ振り返ると、真っ黒なローブの裾に金色の刺繍が施された衣装を身に纏う子がいた。
……少年かな?
フードを被っているので顔が良く見えない。
背は私よりちょっと高いくらいで、高くも低くもない。
声も少し高いのか低いのか、判断が出来ない声色だった。
全体的に中性的でどこか神秘的な印象のある子だと思う。
「……どなたでしょう?」
兄さまは、素顔を隠して声をかけた人を警戒している様子。
私は兄さまに手で促されたので、ローブの人から隠れるように兄さまの後ろに立った。
「私は、占星術師です。ノワール嬢にお願いがあって参りました」
「そうでしたか。噂の占星術師さまでしたのね」
なんで占い師が学園にいるんだろう?
と一瞬思ったけど、そう言えばゲームでも占い師は学園で登場するんだった。
そう言えば正体が分からなくて、生徒なのか気になるんだよね。
でも、前にいる兄さまとローブで隠れていて、制服着てるのかは見えない!
そんな風に占い師の様子を見ようと後ろでぴょんぴょん飛び跳ねていたら、兄さまに手で払われた。
「それで。占星術師さまが私にどのようなご用なのでしょうか?」
「近々、神子さまの召喚の儀が行われること、ご存じかと思います」
「ええ」
「その神子さまの案内役に、ノワール嬢を推薦したいのです」
「「え?」」
「承諾していただけますか?」
占い師からの問いかけに、兄さまが後ろにいる私に目配せをする。
え? 知ってるかってこと?
私の予言にあるかって?
いやいやいや? 知らないよ?
確かゲームでは白の神子ちゃんは、召喚される前にいくつか心理テストみたいな質問をされる。
誰に? そういうのは聞いてはいけないよ!
それで、案内役はその質問の回答で変わる……んだけど。
もちろん、選ばれるのは攻略対象の中から。
だから、悪役令嬢が選ばれるようなことなんて、なかったはず。
どういうこと??
「理由を伺っても?」
「はい。神子さまは異世界からいらっしゃいます。きっと、見慣れぬ土地に戸惑い、不安になることも多いでしょう」
「そうでしょうね」
兄さまの声に同意するように、私も後ろで頷いた。
ちなみに乙女ゲームでは、白の神子ちゃんは学生寮住まいで、他の学生と同じように学生としても生活をする。
なので、だいたいのことは学園内で済む。
とは言っても、外に全く出ないと言うわけじゃないと思う。
だから、現実でも白の神子ちゃんが行動しやすいように、案内役を付けようってことなのかな。