第016粧 兄さまと攻略対象:青
「おはよう、ノワール! 僕、ノワールと同じクラスになれて嬉しいな! ようやくいっぱい話せるね!」
にぱーっと微笑んだ途端、周りには何もないのにガイアスの背後から花が咲いたエフェクトが見えたー!
でも残念!
いまガイアスが話しかけてるノワールの中の人は、兄さまなんだね、これが。
「あらそう。でも私にはあなたと話すことなんて何もありませんわ」
対する兄さまの背後にはブリザードが見えるうううー!
「ノワールったら、ちょっと見ないうちに身長が伸びたんだね! それに雰囲気も違う気がするよ」
それなのに、めげないで必死に兄さまに話しかけるガイアスは、会話相手の態度を気にしていないように見える!
兄さま、ガイアスは強敵だ!
怖気づいたらひとたまりもありません!
グイグイ攻められる前に逃げ切るのだー!
それとガイアス!
身長が伸びたように見えるのは、兄さまと入れ替わっているからだよ!
口調も違うのよ、お分かりで!?
ちょっとどころじゃないと思うよ!!
ツッコミ入れたら入れ替わってることがバレるから、言わないけど!
ところどころで違和感があるみたいで、ちょっと首を傾げる素振りを見ているとバレるんじゃないかと思って、ひやっとする。
と言うか、逆に何でバレないのかとも思いもするんだけど。
そんな風に手に汗握る様子で二人を眺めていたら、後ろから新たな人物に声をかけられた。
「いつも逃げられているのに、何故ガイアスはめげないのだろうか」
「ウォルター、おはよう」
「おはよう、ハウザー。それと……」
ハウザーに向けた視線を私に向けてぼーっと見てくるこのウォルターも、兄さまの友人。
彼はこのように、年中ぼーっとした顔をしているのが特徴。
何か考えてそうで、何も考えていなさそうで、でもやっぱりちゃんと物事を見ていそうな感じの、掴めなさ具合がある。
そんなどことなく不思議くん感の漂うのが、ウォルター。
エスがいたら、お嬢さまが言えた台詞ではありません。って言われたかもしれない。
ぐすん。
私は不思議系ではないんだけど?
ちなみに、ウォルターは水の使者で攻略対象。
青色の髪は女子かと思うくらいにサラサラ。
並んでるところを見ると、君たち攻略対象ってば信号機カラーじゃないの? って思う。
よくよく考えると、兄さまの友人は攻略対象しかいない。
みんなのエピローグで兄さまの死が暴露されるだけはあるね……。
なんて考えていたら、ウォルターから衝撃的な一言が聞こえてきた。
「……やっぱり。ノワールだ」
「えっ!?」
なんでわかったの!?
こっちをぼーっと見ていたと思ったら、まさか観察されていた?
はっ、そうだ!
そう言えばゲームでも、ウォルターはぼーっとしているように見えて、意外に勘が鋭かった!
「その反応、当たりか」
「うぐっ」
「何故入れ替わったんだ?」
「しっ、それ以上はいけない。って言っても、知り合いは気付くものだよね」
「ガイアスはあっちのノワールもどきに夢中だ。もしかして、気付いていないのだろうか?」
「あいつ鈍感なんだよね。言葉の端々から少し気づいている感じがするんだけどさ、結局のところ違和感がないようだし……」
「それにしても、ウォルター。なんで入れ替わってるって分かったの?」
少し考えた素振りを見せたウォルターは、首を横に倒して答えた。
「……におい?」
「女子を匂いで判別するとか、一流の変態じゃないか」
私、臭いの!?
衝撃的な発言に、思わずくんくん自分の匂いを嗅いでしまう。
「違う違う。空気感が、ノワールだと感じた」
「まあ外見似せてても、ノワール嬢のほわっとした雰囲気は隠せてないからね」
「ほわっつ!?」
そんな雰囲気醸し出してる?
そう言えばエスからも、間の抜けた少年に見えるって言われていた!
「その上、あそこのノワール嬢は少しピリピリしているからいつもと様子が違うだろう? 君たちを知っている人なら、違和感は感じるだろうね」
「そういうこと」
「まあ安心しなよ。知らない人間なら、こんなもんだって納得するだろう。その程度の違和感さ」
なんということでしょう。
ハウザーとウォルターが私たちの入れ替わりに気づいたのに、婚約者は気づいていないと……。
まあ今まで私がガイアスから逃げまくっていたせいもあるかもしれないんだけど。
それにしても、私の婚約者、鈍感すぎ……?
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