第014粧 兄さまと攻略対象:赤
勝手にQ&A。
A:貴族物なのに、家名は出てこないんですか?
Q:家名は出てきません。
ない訳ではありませんが、意図して出していません。
「おはよう。お二人さん」
学園に着いてクラスを確認していると、後ろから声をかけられた。
ちなみに私と兄さまは同じクラスだった!
離れるのがちょっと不安だったので嬉しい。ありがたやー。
「おはようございます、ハウザーさま」
「お、おはよう、ハウザー」
さて。
私たちに声をかけてきたのはハウザーと言う名前の男の子。
彼は兄さまの友人。
そして、乙女ゲームにおける火の使者で、攻略者の一人なのだ!
ちなみに、現実ではまだ使者が誰かは明かされていないので、本人は自分が使者だってことを知らないはず。
「うんうん、なるほど」
火属性の名が指す通りなのか、燃えるような紅い髪。
でも瞳は澄んだ藍色をしている。
そんな瞳が私たち二人を見比べながら観察している。
「これはこれは。パッと見は区別つかないね」
ちなみにハウザーには私たちが入れ替わることを事前に伝えていた。
ハウザーは、調子が良くて人のことを良くからかうので、軟派な性格に思われがち。
でも意外に人付き合いが良く世話焼きで義理堅いので、困ったときに助けてくれるだろう。
と、苦々しい表情で兄さまが言っていたのを思い出した。
「ねえ、ノワール嬢?」
「そ……」
「なんのことかは存じませんけど」
おーっといけない!
今の私はキュリテ兄さま!!
声をかけられて危うく返事をするところだったー!
割り込んできてくれた兄さま、ぐっじょぶ!
「あまり女をからかうものではありませんわよ、ハウザーさま」
涼しい顔をして扇子で口を隠して忠告する兄さま。
え、ちょっとなに。
兄さまったら、本物の令嬢っぽくありませんこと?
本物の令嬢の私より、レベル高くありません?
あと、兄さま!
私ハウザーのこと「さま」付けして呼ばないよ!
本当のノワールとキャラ違うよ!!
「なに、いまのはただのテストだよ、テスト。こんなんで引っ掛かってたらまずいんじゃないかな?」
冗談交じりに言うハウザーだけど、確かに人前で引っ掛かってたらシャレにならない。
そう思うと途端に緊張してきたー!
「言ってるそばから、キュリテはそんなんで大丈夫なのかい? かなりガッチガチだけど」
「だ、ダイジョウブ」
「ま、困ったら俺が助けてあげるさ。手取り足取り」
私に向かって手を差し伸べてくるハウザーの手を、兄さまが扇子でバシッと叩いた。
「いてっ!」
「キュリテのフォローは、双子の私がすること、で・す・の・で。結構ですわ」
「そんなこと言っちゃって、頭下げて「面倒見てくれ! 頼む!」って言ってきたのはどこの誰だったっけなー?」
兄さまそんなことしてたんだ……!
私のために……!
でも兄さま、そんな頼みごとをした相手をすごく睨んでいるんだけど……。
「……!」
「いやあ、お前のこと言い負かすことが出来るなんて、楽しいね。あっはっは、これからもよろしく頼むよ」
「……よろしくお願いしますわ」
あんまり見ない悔しそうな兄さま……!
ぐぬぬ顔の美少女令嬢……!
可愛いかも……!
悔しがる兄さまを励ますため、背を伸ばして頭に手を伸ばそうと……したところ、つまづいて兄さまに衝突した。
ちょ、なんでこのタイミングでつまずくかなー!?
「何やっているんだ?」
「抱きつこうとしているように見えるよ?」
「なでなでしようとしたの!」
兄さまとハウザーに揃って首を傾げられる。
「なんでまた?」
「兄さま。ハウザーにお願いしてくれて、ありがとう」
仕方ないので頬を膨らませて言うと、兄さまは扇子で顔を隠して呟いた。
「そのくらい、当然ですわ」
おや? 照れてるのかな?
兄さまの顔を覗き込もうとすると、ハウザーから俺も俺もと言われる。
「俺にもお礼はないのかな?」
「もちろん、これからよろしく頼むよ、ハウザー」
「ああ。ちゃんとフォローするから、頼って良いよ」