第013粧 兄さまと入学式に向かうよ
そんなわけで、順調に準備を進めてようやく迎えた今日が入学式!
ノワールに扮した兄さまと、キュリテに扮した私が、登校の準備を終えて家の前に揃って並ぶ。
女装した兄さまは相変わらず綺麗だねー!
「女装しても最初の頃より騒がなくなったな。さすがに見慣れたか?」
「ぜんっぜん見慣れていません! まだ見る気はガッツリありますとも! それこそ毎日!」
「女装すると喜ぶくらいだからな。お前は、俺が女の方が良かったのか?」
美少女の顔でそんなに悲しそうな表情をされると、そんなことないよ! って思いを伝えたくてしょうがなくなる。
「ノワール?」
なので、兄さまをぎゅって抱きしめる。
うーん、兄さまの体温に安心する……って私が落ち着いてどうする!
「私は兄さまを女装させるのが良いので! それと、兄さま以外を女装させても、楽しくもなんともないと言うか」
「俺はお前の着せ替え人形か何かか」
兄さまと騒いでいると、屋敷のみんなが集まってきた。
「キュリテさま、ノワールさま、準備整いましてございます」
「ああ。ありがとう」
執事に声をかけられて、兄さまは真剣な表情で私に向き直る。
そうだった、もう私たちの入れ替わりは始まっているんだ!
「さて、初日だ。……くれぐれも、俺の格好でみっともないことをしないでくださいませね、キュリテ」
「ぐっ。兄さまこそ! 私の格好して変なことしないで、あ、いや、するなよ! にょわーる!」
初っ端から噛んだ!!
自分で言っといてなんだけど、私の方がやらかしそうー!
自分から言い出しておいてなんだけど、慣れない男装に緊張するし。
なのに、兄さまは本当は姉さまだったのでは!? と思うくらい、似合っていて堂々としてる!
しかも、きっちりかっちりと衣装を着こなしていて、優等生っぽい。
これが「悪役令嬢ノワール参上」って落書きしたお間抜けさんって言っても、誰も信じないんじゃない?
いやまあ、実際にやらかしたのは私なので、本当に別人なんだけどね!
それにしても、これって大丈夫?
兄さまがしっかりしすぎてて、逆にちょっと不安になってきたよ?
と言うか、あれ?
お試し女装した日の、儚い令嬢風はどこ行っちゃったの?
あれって全部侍女の指示の成果?
いまの兄さまはビシッとし過ぎなので、あのまんまで良かったのよ?
「お嬢さま、似合っておりますよ。少々間の抜けた爽やかな少年に見えます。初見でしたら違和感ありませんので、堂々となさってください」
緊張してる私のそばに来て身だしなみの最終チェックをしつつ余計な一言を呟くエス。
それって一応は励まそうとしてるんだよね!?
「それ、褒められてる気がしないから!」
「流れ弾として、俺がぼうっとしていると間抜けに見えると聞こえてきたんだが」
仕事中でも彼女の普段と変わらない辛辣な発言に、思わず兄さまと一緒に突っ込んだ。
「こういうのもたまには良いかもしれないわねえ。私たちも一年に数回は変装のお披露目をしようかしら。ねえ、あなた?」
「そんな目で見ても、俺はやらないからな。絶対にやらないからな!」
なんか前に聞いたことのあるようなやり取りが、こっちに向かってくる両親から聞こえてくる。
私たちの初登校日なので、父さまと母さまが見送り来てくれた様子。
「では行ってきます」
「ええ、キュリテ。ノワールのことしっかり見てあげなさい」
「もちろんです」
「え? 私に一言は??」
「あなたはキュリテの格好をしているのだから、慌てず落ち着いて行動しなさい」
「あ、はい」
どこか心配そうにこっちを見てくる両親。
私、そんなにやらかしそうですか!
「では行きましょう。さあキュリテ。エスコートしてくださいませ?」
そう言って薄く微笑む兄さまに、私は手を差し伸べた。
「ああ、わかった」
いつもとは違う一日の始まりに、自分でも顔が緩んでいるのが分かる。
それを見た兄さまが苦笑していた。
「えへへー。兄さまと通学かー!」
「ほら、シャキッとする」
「はーい」
さあ、破滅を回避するための第一歩は、ここからだ!
頑張るよ!
俺たちの戦いはこれからだ!
ノワール先生の次回作にご期待ください。
…冗談です、まだまだ続きます。
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