Episode 7. Falling is peculiar
こんばんは
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「《テンペスト》!!」
絹田は自身の持つ最大級の風属性の魔法スキルを発動する。もはや建築物を倒壊させずに攻略は無理と判断した彼は《ウンセギラ》の展開する障壁を突破するには仕方なかった。
雷を伴う暴風雨が《ウンセギラ》の展開する障壁に激突する。彼の推測が正しければ、魔力を伴う攻撃を一定以上与えたら障壁は破壊される。だがその一定以上もそれなりの火力が求められるのだが、絹田の放った魔法スキルは障壁に段々とヒビを入れていく。
「!?」
《ウンセギラ》も黙っていない。絹田に向かった無数の魔法陣が展開される。絹田は攻撃に《魔力》に振っており、防御の《魔法》をすぐには展開できない。
「一か八かだ!」
絹田は攻撃を中断するのではなく、このまま攻撃を続行する選択をする。全力で全ての《魔力》を消費する事で《テンペスト》は更に火力を増していく。そして《ウンセギラ》の攻撃が発動する前に障壁が破壊された。それにより《ウンセギラ》の攻撃は中断される。
「斉射しろ!」
障壁を破壊を待っていたかのように後方に待機していた自衛隊の砲兵部隊が榴弾砲を一斉に発射する。高威力の榴弾は《ウンセギラ》と巻きつく東京タワーに直撃する。東京タワーは着弾部分が破壊され、《ウンセギラ》の肉体にも血が滴り落ちる。しかしそれでも致命傷とはいかず、未だに《ウンセギラ》は健在であった。しかしすかさず第二射による砲撃が《ウンセギラ》を襲う。そして第三射が止むと《ウンセギラ》は東京タワーと共に倒れ伏した。
「これで《ダンジョン》攻略に」
魔力がほぼ空っぽなため目眩や空腹感、倦怠感なとが襲いかかっている絹田は一先ず地面に座り込む。そして非常時として携帯しているカロリーバーで栄養を補給して魔力の回復を促そうとした時だった。
「面白い。本来ならもっと後だが少し退屈していたんだ」
《ウンセギラ》の頭部から若い男が現れた。男はまるで柄の悪いチンピラのように首や手首に金のアクセサリーを身に付けており、肉体は筋骨隆々であり着ているシャツはピチピチと、金のアクセサリーを身に付ける熊とも思わせる見た目だった。
都会に1人はいてもおかしくはないだろうが今は《魔人》による襲来。《ウンセギラ》の前にいきなり現れた存在に誰もが警戒する。少なくても先程まではいなかった。
「貴様が1番この場で見込みがありそうだ」
「何者だ?所属は?ランクは?」
絹田はすぐに立ち上がり男の所属を訊く。《ギルド連合》に所属していればすぐに答える筈だが、男は笑いながら何も答えない。代わりに
「?!」
「おお、邪魔するなって」
《ウンセギラ》の周囲から湧く《魔物》の大群は、男の指示に従っているのか彼を襲わなかった。人の見た目だが《魔物》を上に立つ存在。
「貴様、《魔人》か?」
「そうだぜ?俺は《戦車・パルト》。今後は嫌と言うほど顔合わせするかもな?」
「ならば話は早い。何が目的で今まで音沙汰がなかったのに今になって現れた?それも全世界に宣戦布告する形で?」
「何、実が熟してきたからだよ。熟し切った実はその後は腐ってしまうだろ?俺達はその食べ頃の実を回収しに来ただけだ」
「つまりお前達は我々《人類》を食糧と?昔よりも美味しく頂くためだけに数百年もか?」
「そう受け取るのであればそうすれば良い。どちらにせよ《人類》は滅亡する。それが早いか遅いかの違いだ」
話し合いは無駄と絹田は《魔法》を発動しようとする。しかし発動する前に《戦車》が絹田の腹部に掌底を喰らわせた。
「がふっ?!」
絹田の反応しきれない速度からの掌底に絹田は驚きと共に後方へ吹っ飛ばされる。身体強化のバフが発動中だったので、骨折や内臓損傷などには至らなかったが、口から血が出る程のダメージであり生身なら致命傷になりえる威力だった。
「そうだった。現代では常に魔法使はバフをしているんだったな」
目の前の《戦車》が本当にかつて恐れられた《魔人》なら、その戦闘方法は中世のものなのだろうかと絹田は考えたが、彼の服装は現代のものそのもの。つまり《魔人》は密かに《人類》の社会に溶け込んでいる可能性が高く、現代の戦闘スタイルや戦術も理解している可能性もある。
「おや?少し知恵を回して最新の戦術を見せてくれるかと思ったが、少々君を甘く見ていたみたいだな」
そして絹田の懸念は正しく、《戦車》はあえてあの発言をして《人類》の戦略を知ろうとしていた。つまり広く知られているようなものは知っているが、基本的に公開されない《冒険者》や《探索者》のスタイルや戦術までは知らない可能性が高い。ならばそこを突ければ良いが、絹田はここは応援が来るまで持ち堪える選択をする。
「まあお前達の小手先の策は後でいくらでもわかる。お前の本気を見せろ」
《戦車》が動き出す。今度は絹田は《戦車》の動きに反応でき、再び目の前に出てきた《戦車》に左ストレートを放つが、《戦車》はすぐに右腕で防ぐ。その時、絹田は《戦車》の右腕がまるで鋼鉄でできた金庫のドアを連想させる程の硬さが左腕に伝わる。
《戦車》は絹田の左ストレートをガードしつつ、左膝を再び絹田の腹部に打ち付ける。それも先程殴られた所と同じ箇所だった。悶絶するような痛みに耐えながら、絹田は左手から《魔法》を発動。《エアスラッシュ》は空気を鎌鼬のように刃として相手を切り刻む。
絹田の放つ《エアスラッシュ》は石や鉄に大きな傷跡を残す威力があり、防刃ベストの防刃繊維が薄ければ容易に切断は可能なもの。
それを《戦車》の右腕にほぼゼロ距離で発動すればノーダメージまではいかない。
「おおっ!!」
《戦車》は右腕が切り刻まれる。右腕にあちこちが切られ、肉や一部骨が見える程のダメージを絹田は確認した。一旦距離を取った《戦車》だが、右腕の出血は凄まじい。絹田の今度の狙いは止血する隙。
「甘いな小僧?」
「?!」
絹田は背後から現れた《戦車》と同じ姿の半透明の存在に蹴り飛ばされた。おそらく何らかのスキルによる《分身》だが、その蹴りの強さは絹田が《戦車》のすぐそばまでに飛ばされる程。そして吹き飛ばされた絹田に《戦車》は思いっきり踏み込んで左ストレートを絹田の胸部へと叩き込む。絹田は口から血と唾などを吐き出しながら、10メートル後方の瓦礫の山へとノックバックした。
「直前で突風を発生させて威力を軽減したか」
《戦車》は左ストレートが絹田に命中する直前、絹田が少しでも左ストレートの威力を相殺させる為に《エアインパクト》という風の衝撃波を発動させていたのに気づいた。それにより絹田は大ダメージを負うが死ぬまでには至らなかった。しかし骨が砕け内蔵を破壊した感触はあった。
「ん?」
《戦車》は四方から《魔法》の弾幕が自分に向かっているのに気づく。そして複数の《魔法》が《戦車》を襲うが、《戦車》は《ウンセギラ》のように障壁を展開する事で《魔法》の弾幕は防がれた。
「ほう?」
《魔法》は障壁に激突すると《戦車》を中心に煙幕が発生する。しかもこの煙幕は探知系や感知系、検知系の《魔法》やスキルを妨害する効果があり、《戦車》が始めての攻撃で対応が遅れている隙に応援部隊の《冒険者》達が絹田を救出して送り出していた。
「翔の容態は?」
「背骨と肋骨が折れて胃や肺その他内臓系も損傷があるようで重体です」
時雨さんが珍しく困惑した表情で無線に話しかける。あの絹田さんが重体。彼は時雨さんと共に《魔大陸》への探索を経験している強者。そんな人でも《魔人》に適わなかったのか。俺は自分達はどういった存在へ挑戦するのか非常に不安に思っていた。
「絹田の坊主が?」
時雨さんの様子から時雨さんの父親は険しい顔つきに変わる。そんな状況で時雨さんと赤坂を仲裁した女性は動き出す。
「貴方達。このまま突っ立ているつもり?」
「そういうお前は何者だ?」
「今はそれが重要じゃない。東京の《ダンジョン》はまだ攻略していないのでしょ?真っ先に東京を安全圏にしないと」
「しないと?」
「日本はチェックメイトよ」
「あの馬鹿が。我々が動き出すのはもっと後だろうに」
《魔人の円卓》の議長は思った以上に《戦車》が動き出すタイミングが早すぎると愚痴をこぼす。しかしすぐに今後の計画の変更を決めた。
「こうなっては仕方ない。《ニュクス》、前倒しで構わないか?」
議長は隣の席の女性に計画の前倒しの許可を求める。元々は彼女が計画したものなのだから、最終的な決定権は彼女が持っている。
「構いませんよ。皆さんも御協力お願いします。では《剪定》を」
アメリカ合衆国
そこに出現した《ダンジョン》は日本同様に大都市に多くあり、その中でもホワイトハウスがあるワシントンD.C.にも《ダンジョン》が出現していた。しかも場所はホワイトハウスの真上。ホワイトハウスに根を張っていき巨大な大樹型の《ダンジョン》から《魔物》の軍勢が都市に向けてどんどん進軍をしていた。
非常事態によって大統領はホワイトハウス地下にある避難シェルターへ避難はしており、現状は無事を確認しているがいつまでシェルターが無事なのかは不明。なのでアメリカ合衆国はいち早い大統領の救出、及びホワイトハウスに巣くう《ダンジョン》の攻略が迫られていた。
「隊長。抑えきれません!!」
「ゆっくりと下がっていけ。1つでも突破されたら崩壊するぞ」
アメリカ軍の物量や火力はホワイトハウスとその地下にいる大統領への危険性もあって兵器による蹂躙ができない。よって地上部隊を中心に《ダンジョン》へと進軍していたが、《ダンジョン》から無数に出現する《魔物》の物量に段々と押し込まれていた。
辛うじて現代兵器でも出現する《魔物》自体は討伐できるが、問題は《魔物》の物量がアメリカ陸軍の火力を上回る程のものであったのだ。彼らが張っている最終防衛ラインを突破されると後はワシントンからシェルターへ避難中の市民へと雪崩れ込まれてしまう。何としてでもここで食い止めなければならない。
「くそっ。中に行った奴らは何をしている」
「奴らを信じるしかない。今は目の前のモンスターを一匹もここを通さない事に集中しろ」
既に《ダンジョン》には《ギルド連合》のアメリカ本部の戦闘員が攻略をしている。しかし突入から1時間は経つが何も応答がない。《ダンジョン》内の通信が難しいのか状況確認が出来なかった。
「!?、《ダンジョン》の真上に人が浮いてます!」
陸軍の兵士の1人が《ダンジョン》の上部の空中で佇む人影を発見する。だがその人影の詳細を確認する前に、突然人影の背後に強烈な光による逆光により人影の輪郭しか確認できなかった。そして強烈な光の正体は右手に天秤を持ち左手に本を持つ、羽の生えたまるで天使そのものを体現した存在だった。
「《ドミニオン》。私は地下を掃除するから、貴方はそこの軍と《ダンジョン》に入り込んだ虫をお願い。虫が《実》になる素養があれば残しといて」
「かしこまりました主様」
人影はそういってゆっくりと《ダンジョン》から降りると、そのままホワイトハウスの内部へと進んでいく。直後天使の持つ天秤が高々と掲げられた。天秤の中心の支柱には眼の装飾がされており、その眼から高出力の光線が市民の避難の時間を稼ぐ防衛線を薙ぎ払う。
「人は愚かですが、そんな人を理由があったとはいえ虐殺する我々も愚かなのかもしれませんね」
天使はそう呟くと《ダンジョン》の内部へと入っていった。
「大統領!シェルターの入口の人影が」
「何?何者だ?救出チームか?」
避難用シェルターに閉じ込められた大統領と護衛やオペレーター達は、シェルターの入口に1人の女性を確認する。しかしその女性は眼に布が巻かれており視覚があるのか不明であった。
「何者だ?《ギルド連合》のか?」
「わかりません。こちらから話しかけましょうか?」
「その必要はないよ」
「「!!??」」
シェルター内からは一切通話していない筈なのに、女はまるで聴こえているかのように返事をする。そして彼女はシェルターの入口に手を置くと次の瞬間、入口がまるで豆腐のようにレーザーで切断されている。シェルターの外殻などは核ミサイルなどにも耐える設計がされており、切断する特殊な機材でもそう簡単には突破されない。それを女はものの数秒で1人は入れる程のサイズの穴を開けた。
「敵だ。撃ち殺せ」
大統領は女がこちらに敵対する勢力と判断し、シェルター内にいるシークレットサービスに女の始末を頼む。すぐにシークレットサービスは武器を装備して、女が大統領の元にまで来させないようにする。
「素手に女に複数人で銃を突き付ける悪人には正義の鉄槌を」
シークレットサービスが女の近くまで展開して隙を見せずに銃口を向けていた。それに対して女は一言呟いた時には、シークレットサービス同士で発砲を始めた。自分達の意思とは関係なく勝手に身体が仲間に向けて持っていた銃で発砲しており、シークレットサービス達は何がなんだか理解しきる前には勝手に自滅していた。
「せっかく尋ねたのに待たせる時間泥棒にはちょっとした罰を与えよう」
女はそう独り言を言った時、最初に女と対応をしていたオペレーターの男がいきなり苦しみ出す。一気に身体に老化現象が起こっていき、髪や歯が抜け落ちていき顔や肉体も衰えていく。そしてあっという間に中年から老人へと変わってしまった。
「ふーん?そのつもりならそれ相応のもてなしをしなくちゃね」
今度はシェルター内の隔壁を利用して女を閉じ込める作戦に出た。そして上手いこと閉鎖空間へと閉じ込めに成功したが、女は何もする事無くシャッターが破壊される。
「か弱い女性に対する数々の罪。罰を持って償っていただきましょう」
イギリス王室が保有するバッキンガム宮殿にて、日本やアメリカと同様に《ダンジョン》と《魔物》の対策、一般人の避難などの対応に追われていた。そんな中でイギリスの現在の女王であるエリザベート3世のいる執務室に突然現れた老人に、執務室にいた護衛や秘書官が警戒する。それに対してエリザベート3世と老人は驚く事もなく平然としていた。
「貴方とは以前どこかでお会いしたわね?」
「そうですな女王陛下。60年以上前でしょうか?いやはや、あの時の少女が今や女王として長年在位している。何が起こるかなどわかりませんな」
エリザベートは目の前の老人がまだ自分が幼少期の頃に屋敷や宮殿の庭の手入れをしていた庭師と同じ顔であり、その事に対して老人も否定していなかった。庭師はエリザベートが女王としての立場を理解して決意した頃になって突然消えていた。エリザベートはよく王室の教育にうんざりしていた頃によく庭師にお世話になっていた。そして彼の助言にいつも助けてもらっていた。そのおかげで自分の立場を理解したのだが、そのお礼を言う前に消えてしまった。
「貴方のおかげで私は今ここで女王として国民を導く指導者になってます。といっても多くの人々に支えられてですがね」
「ですが貴方がいて彼らもいる。陰ながら貴方の働きは理解しております。立派な女王様になられましたな」
「それで?貴方は何者なのかしら?今の私は貴方に頼っていた子供ではなく、長年この国を治めた女王。何もアポもなしに訪ねるのは非常識じゃないかしら?」
老人との再会に懐かしみつつもエリザベートは一瞬にして女王として老人に要件を問う。エリザベートも含めて誰もが老人が普通ではないのは明白している。何よりこの状況下においていきなり女王に訪問するなど、国家転覆を狙うテロリストと認識されてもおかしくない。
「非常識なのは誠に申し訳ない。ですが正式に話すのは不可能なので、このような形になってしまった」
老人はカンテラを提げる杖を前に出し姿勢を正す。
「私は《魔人・ハミト》。エリザベート女王陛下。残念ながら貴方には表舞台から立ち去っていただきたい」
「あらいきなりそんな要求を呑めるとでも?」
「貴方という存在を消すしかなくなりますな。私としても知人を自らの手で消す事は避けたい。だからこそ私は貴方に提案するのですよ。7/31を持ってエリザベート女王陛下は女王の座を退位していただきたい」
「なぜ私の退位を?この場で私を殺したくないからなのはわかったけど、それだと貴方は誰かを国王、もしくは女王に推したいのかしら?」
「ええ。ですが私も我々も現時点で誰が次の王に相応しいかはわかりません。ただエリザベート、貴方のままでは駄目なのは確かなのだ」
「残念ね」
《魔人・ハミト》を囲うように護衛が展開する。見たところ《魔人・ハミト》はカンテラを提げる杖以外には武器らしきものは見当たらない。ローブで隠された所に武器を隠し持ってる可能性もあるが、少なくてもいきなり女王の目の前に移動する術はあるのはわかっている。
「今回は私なりの慈悲だ。本来ならバッキンガム宮殿ごと消滅させるのもありなのだよ。期限は7/31だ。それまでは自国の《ダンジョン》の攻略に専念するべきと忠告しておこう」
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