Episode 6. Falling hope and emerging evil
こんばんは
ブックマークしてくれた方々、読んでくれた方々に感謝です。
「くっ、これ以上は」
ベールゼブフォとの戦闘は苦戦を強いられていた。ベールゼブフォ単体だけなら[冒険者]達は連携を取って火力を集中すれば問題はなかった。だが[魔物]はベールゼブフォだけではなく他にも出現していた。その多くが影に紛れるゴーストのようなシャドーという[魔物]。影に潜り込んでいる時は[霊体化]といって物理攻撃が効かず、魔力が付与された攻撃しか効かない。そして攻撃する時は[実体化]して物理攻撃をしてくる。[霊体化]と[実体化]さえ見極めれば対処はそこまで難しくはないものの、それが複数体かつベールゼブフォという危険な[魔物]と相手するとなると厳しい状況になった。
まず狙われたのは魔法使だった。魔法使はシャドーの2つの形態どちらにも有効な攻撃手段を持ち、ベールゼブフォにも遠距離から比較的安全に攻撃が可能。それをわかった上で真っ先にシャドーの集団は魔法使に仕掛けてきた。[冒険者]達の中でも近接戦の得意な剣士などは、ベールゼブフォへの攻撃が難しいがシャドーならば戦闘はできる。また彼らはそれなりの[冒険者]らしく、剣士でもあっても自分の剣に魔力を付与する事でシャドーには有利に戦えていた。
しかしそう簡単にはいかず、ベールゼブフォがシャドーを援護するかのようにシャドーへ妨害する[冒険者]達へ酸性の粘液を飛ばしたり、舌を伸ばして妨害している。そして数体魔法使へ接近したシャドーだったが、魔法使も近接戦はできるので苦も無く対処はできるものの、次から次へとシャドーは湧き切りが無くなっていた。
そして魔力が切れた者が出始めた段階で[冒険者]は撤退を決意する。俺も何体かシャドーを倒しているものの、魔力も無限には保有していないためこのままジリ貧になって消耗戦になるのは防ぎたかったので、彼らと同様に俺も逃げようとする。
「!、新たな[魔物]が」
俺は逃げようとしたが、いつの間にか新たな[魔物]が立ち塞がっていた。見た目はカブトムシだがその大きさは貨物を載せるトラックのサイズであった。音も無く現れたため、カブトムシは俺に向けて角で突き刺そうとしていた。
「避難指示はなかったのか?」
と聞き覚えのある声と共に前方から強烈な冷気を感じ取る。そして一瞬でカブトムシは氷漬けになった。氷の彫像と化したカブトムシの背後には、昼間までお世話になった時雨さんが立っていた。
「時雨さん?どうして」
「救援だ。それよりも状況は芳しくないようだな」
時雨さんは俺や[冒険者]達と[魔物]を確認して状況を把握する。そしてすぐそばまで迫っていたシャドーの集団をカブトムシと同じように一瞬にして氷漬けにさせた。その光景は彼女の異名の通りであった。
「《氷姫》。引退したと聞いたが」
「現役は引退したよ。まだ全盛期ほど回復していないし」
時雨さんの現役の時は氷属性の魔法やスキルで相手を凍り付くす。その可憐な見た目も相まって《氷姫》という二つ名で知られている。俺は彼女の全盛期を知らないが、それでも俺や助けてくれた[冒険者]が苦戦していた状況を一瞬でひっくり返した。それほど彼女は規格外であり、S級以上の[冒険者]や[魔大陸]を攻略している[探索者]のレベルが高い事が窺える。
「後はあのでかいカエルね。ベールゼブフォとは懐かしいわね」
彼女は[探索者]として[魔大陸]を攻略していた。だからベールゼブフォ自体は経験しているらしく、余裕の表情であった。
ベールゼブフォは時雨さんに向けて酸性の粘液を吐き出すが、時雨さんは何の素振りも見せずに粘液がいきなり氷の塊となって地面に落下して砕ける。それを確認したベールゼブフォは直接舌で彼女へ攻撃を仕掛ける。ベールゼブフォの舌の速度は辛うじて認識できるほど素早いのだが、ベールゼブフォは舌先が凍り付きそこから段々舌根まで凍り始め、顔面から身体全体へと凍り付く。そして彼女が大きく手を叩くと、凍り付いたカブトムシやシャドーの集団、ベールゼブフォは凍ったまま細かく砕けてしまった。
「凄い」
「俺達もまだまだだな」
時雨さんは周辺に[魔物]がいないのを確認すると、[冒険者]達に警官と合同で市民の避難活動をするように指示を出す。各地で少数だが[魔物]が確認できる以上、一刻も早く非戦闘員の避難を完了しなければならない。そして[冒険者]達が去ってった後に時雨さんは俺に質問をした。
「愛美はどうした?」
絹田翔は現場にいる[冒険者]と共に東京タワーに出現した[ダンジョン]とそれを守るように現れた巨大な[魔物]と戦闘していた。その巨大な[魔物]というのは大蛇であり、東京タワーに巻き付いていた。その大蛇によって東京タワーの地下に出現した[ダンジョン]の攻略を妨害されていた。今なお[ダンジョン]から多数の[魔物]が出現しているため、早急に大蛇を討伐する必要がある。
「絹田さん!各地の[魔物]と避難作業でこれ以上の人員は割けないようです」
「無茶を言うな。くそ!!」
現状、[ギルド連合]は東京タワーを中心に半径100メートルの空間を包囲している。そして[東京タワー]の地下から這い出る[魔物]は、[冒険者]と警察、そして自衛隊の合同で何とか包囲を突破されないように迎撃している。しかし地上だけではなく上空から……大蛇からの攻撃によって包囲網の突破は時間の問題であった。
魔法使や自衛隊の迫撃砲など高火力の攻撃を繰り返し行っているが、大蛇は自身の周辺にシールドのような障壁を展開しており一切攻撃が通じていない。そして大蛇が一度に発動する魔法やスキルは一般的な魔法使の数十人分。もはや爆撃と呼べるようなものであり、大蛇の攻撃を喰らった箇所は半壊状態となっていた。[魔物]はその箇所を的確に突くように動いている。まるで軍隊と戦闘していると絹田は思いつつ、目の前の[魔物]を討伐していく。
「!、高密度の魔力反応。《ウンセギラ》が仕掛けてきます!!」
そして大蛇……《ウンセギラ》が今度は絹田のいる包囲網に向けて攻撃を仕掛けようとしていた。《ウンセギラ》の顔の周囲から無数の魔法陣が展開されると、出てきたのは枝に蛇が巻きついたようなもの。しかし見た目からは想像できない程の威力があり、一本で軽自動車サイズのクレーターができる。
「総員防御態勢を取れ!!」
絹田は他の者達に防御スキルを使用するように促しつつ、自分の前方に[暴風障壁]を展開する。《ウンセギラ》は無数の枝を発射すると、次々と地面に着弾していき爆発していく。そして攻撃が止むと一面が瓦礫の山となりつつも、防御スキルによるドームやシールドだけは無事であり、中にいる者達も軽傷で済んでいた。絹田の至っては自分の周囲には着弾していなかった。彼の展開した[暴風障壁]は枝が着弾する前に吹き飛ばしたからだ。そして吹き飛んだ枝は[魔物]の群れの方向に向かっていき多数を葬った。これで絹田の方向は多少楽になり、《ウンセギラ》への攻撃に専念できる。
「戦力を分散しろ。とにかく地上部隊は[魔物]を通すな」
絹田はそう指示を飛ばしつつ《ウンセギラ》に向かっていく。上空では自衛隊の戦闘ヘリが必死に迎撃しているが、《ウンセギラ》の展開するシールドにより全て弾かれている。
「邪魔だ!」
[魔人]達の言う通り出現した[魔物]は通常と比べると知能が高く個ではなく集団として連携してくる。絹田の前に立ち塞がったコボルド3体に対しまずは出会い頭に1体の身体に触れる。次に跳躍する時に2体目にも触れ、跳躍の着地の際に3体目に触れる。そのまま絹田は3体のコボルドを無視して《ウンセギラ》に迫っていく。コボルド3体は絹田を追いかけるが、絹田に触れられた部位がいきなり痛みを感じると、その部位を中心に無数の見えない刃によって細切れになった。
「絹田さん!」
部下の叫び声に絹田は地面が隆起している事に気づいたため、空中で跳躍して一旦と距離を取る。アスファルトを貫通して地面から突き出てきたのは頭部に鋭くサイのような角を生やした鬼が現れた。それは中世の時代から現代に至っても有名な[魔物]の種族であった。
「《オーガ》。しかもでかい」
大きさで言えば神社の門の両端にある風神雷神の像と同じで、違うのは木製ではなく立派な肉体を持った[魔物]である。
「あの鬼に一斉掃射!!」
そんな時に絹田の斜め後ろからの号令と共に一斉に自衛隊員による射撃が《オーガ》に向けて発砲する。現代の魔力を伴わない純粋な物理攻撃である射撃は《ウンセギラ》の展開する障壁には効かないが、強靭な肉体は持つものの障壁を展開していない生身の《オーガ》には効くのか、《オーガ》は顔面と胸を腕でガードしつつ怯んでいた。
「我々が足止めする。一刻も早くあの大蛇を頼む」
自衛隊員の援護により絹田とその他[冒険者]達は《ウンセギラ》の討伐に向かう。絹田の予想では障壁さえ突破すれば後は《オーガ》のように強靭な肉体に攻撃を叩き込めば討伐できる。もはや東京タワーを原型を留めたまま討伐する事は諦める。
絹田はスキルで次々と空中を跳躍しながらビルの屋上に辿り着き、午前のインターン研修と同じようにビルの屋上をパルクールとスキルを駆使しながら《ウンセギラ》に迫っていく。
「さてと。おや?東京が面白い事になっているようだね」
[魔人の円卓]で議題を終わらせていると議長が円卓の上部に映像を投影させる。そこにはどこからか撮影された東京タワーにおける戦闘と共に討伐されたベールゼブフォの映像も映されていた。
「今はあの風を得意とする男だけ。でももうすぐ市民の避難を終わらせた実力者が結集するか。まあ東京の[ダンジョン]の攻略も深夜には完了するだろうな」
「[戦車]。何を考えている?」
議長から[戦車]と呼ばれた空席を含めて8番目の席の男は東京の状況を分析していた。そして自分の目の前にモニターが映し出されると色々と操作をしている。そこに議長は彼が何か企んでいるのかと尋ねる。
「企んでいるというか、世界中で見ても今の所日本の対応が早かったからな。1番早く[ダンジョン]の攻略が完了したところにちょっとお邪魔しようと思っているだけだ」
「絶望を与えるのもいいが、本来の目的を忘れるなよ」
議長は[戦車]を引き留めるのは無駄だとわかっているので、あえて彼のお邪魔には関与しない事に決めた。そんな中、議長はふとベールゼブフォの映像の周辺にいる青年を見つける。
「この青年は……エルメス。確か君が」
議長は言い終える前にエルメスからの殺気に気づき言い終えるのを止めた。それほどまで彼を大事に思っているのかと議長は別の話題を振る。
「ディン。《実》はどうだい?」
空席を含めた13番目の席に座る男にそう尋ねるとディンは全くと解答する。
「あの時の方が質も良いはずだが、やはり技術改革や万人にも扱える殺傷武器、[魔法]や[魔導]の発展で数は増えてはいるが質は落ちてる。このままだと本当に」
「まだ決めつけるのは早い」
ディンの主張に対して隣の14番目に座る未亡人が否定する。
「そうだな。そもそもお前が今回の事を仕組んだからな。といってもいつかはこうなるとは思っていたが」
「張り付けになっている貴方は観察しかできませんからね」
ディンに対して未亡人は何もできない奴があれこれ文句を言うなと伝える。ディンは鼻で笑いながら「じゃあ是非とも前回よりも《実》を育ててください」と伝えた。
「愛美が[魔人]?」
「ええ。そう宣言してどこかに[転移]をして消えました。7月31日に会う約束だけして」
俺は時雨さんに愛美に関する事を話す。だが俺も未だに愛美が[魔人]だった事を信じられない。本当ならなぜ人間の社会に溶け込もうとしたのか。何の目的があってあの時に俺の前に現れたのか。
「何にしてもいくら貴方が快二さんの息子だったとしても貴方は民間人。今は避難所に避」
「お嬢様!!」
時雨さんの言葉を遮るようにして現れたのは執事服を身に纏う老人であった。そして時雨さんの事をお嬢様と呼んでいる事から彼は時雨さんの実家の使用人なのだとわかる。
「赤坂!?貴方がどうして?」
「本日は御当主様がこちらの工場へ視察の予定だったのですよ。お嬢様こそどうしてこんな所に?」
時雨さんは実家との仲があまり良くなく疎遠となっている。俺は詳しい事情を知らないが、父さんが言うには彼女の怪我を彼女の父親が気にして現場から無理矢理退けたからだとか。時雨さん自身は最前線まではいかないものの、今の絹田さんのような教導する立場のある人間になりたいと思っていたが、今の[テンパランス]に異動されたのも彼女の父親が希望した事らしい。それによって一層実家とは疎遠になっているのだとか。
「私は[ギルド連合]の職員です。民間人の避難をするためですよ」
「それにしてはそこの残骸……お嬢様と似たような[魔法]の形跡ですが?」
赤坂と呼ばれた使用人は先ほどの戦闘の跡が時雨さんのものだと推測する。時雨さんは否定しようとするが、良い言い訳が思いつかなかった。なので沈黙していると新たな使用人に連れられた中年の紳士が現れた。その紳士を見た時雨さんは昼間とは違う本当に不機嫌な表情に変わった。
「沈黙は肯定と受け取るぞ時雨」
「御当主様。時雨お嬢様が殲滅したとはいえ、未だに危険で御座いますぞ」
「よい。それよりも時雨。私はお前が今後一切戦闘に参加しない事を条件に今のまま黙認していたのだが?絹田の坊主とも一向に結婚せぬのも親への反抗か?」
「貴方を親とは思った事はないわ。民間人は早く避難しなさい」
時雨さんの父親は財閥の血筋が流れる由緒ある家系。今も複数の会社を経営しており、いくつかは[ギルド連合]と取引しており、時雨さんの配属先を戦闘がない[テンパランス]に異動させられるだけの力はある。
「素直じゃない娘でさぞ絹田の坊主は苦労するな。まあいい時雨、帰るぞ」
「私は……」
「簡単な約束すら守れない組織に娘を預けられない。いくら大人になろうと私は娘を危険に晒したくないのでね。嫌ならここで無意味に赤坂と争うのか?この事態でか?」
今は各地で[魔物]が出現する中、ここで人間同士争うのは確かに無意味。だが時雨さんはこの地域の切り札として[ギルド連合]が投入していたに違いないので、ここで彼女が抜けるとなると困ってしまう。だが彼の言い分では彼女を戦場に出さないのを条件として何か契約している恐れがある。だからこそ堂々と時雨さんを連れ変えようとしているのだろう。
「お嬢様。後々この地域には御当主様の私兵が代わりに来ますので、どうか拳や[魔法]で交える事はないようにしていただきたい」
それでも時雨さんは[魔法]を発動するための魔方陣を展開する。それはつまり彼らとは敵対して縁を切る事に等しいが、彼女にとっては立花家とは既に縁を切っていると思っているからだ。それに対して赤坂と呼ばれた使用人も構えをすると闘気が溢れ始めた。赤坂も相当な実力者なのだろう。そんな両者を間を邪魔するようにいきなり現れたのは一人の女性だった。
「この状況で何考えてるの?」
女性は異国風の……東南アジア系統の民族衣装に一本の刀を提げている。そんな彼女が展開する障壁により時雨さんと赤坂は戦闘態勢を解除する。
「貴方は?」
「喧嘩はこの状況が落ち着いたらにするべきよ」
「貴様には」
「関係ない?これから[魔人]が現れるのに?」
その女性の意味深な発言と共に時雨の無線に連絡が入る。
「絹田さんが《ウンセギラ》を討伐した途端、謎の男が現れて絹田さんが意識不明の重体に」
「!!?」
それは恋人の危機的な状況を知らせるものだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は3/26です。
ではまた次回




