Episode 8. Power to be left to others
こんばんは
ブックマークしてくれた方々、読んでくれた方々に感謝です。
突如として覚醒した穆成によって防衛拠点の周辺にいた《魔物》の半数が穆成の方へ分散していた。そんな状況でも穆成はまるで埃を払うかのように《魔物》を払いのけている。
「穆成、大丈夫なのか?」
「問題ない」
穆成は雷属性の《魔法》で前方に展開していたオークの部隊を壊滅させた。穆成の放った《魔法》は《チェイン・ボルテックス》。最初の一撃で相手にヒットするとヒットした相手の付近にいる存在にも感電していくものであり、密集した敵や雷属性ということから電気を通しやすい相手に有効な《魔法》である。
しかし穆成は《チェイン・ボルテックス》を覚えていない。それどころか雷属性を利用した身体強化の《魔法》しか使えなかったはず。それが突然使えるようになり更に連発しても特に《魔力》消費には問題ないという。頼もしいが湊からすれば恐ろしく感じた。
「何があった?」
「何かが力を与えてくれた。今は仮初だがあの《塔》へと行けば永久に授けると」
「何かが?」
「湊。まずは《魔物》の排除だ」
湊は不自然な覚醒を問い詰めようとするも穆成はまずは殲滅を優先し、《魔物》が密集する地帯へと飛び込んでいく。あまりの変わりようではあるが、元の穆成を知らない兵士たちからしたら頼りになるだろう。
「湊君。彼は」
ここで異変に気付いた防衛拠点の兵士が駆け付けた。彼らはすぐに負傷している兵士を運びつつ周辺の警戒をし、まだ生き残って隙を伺っていた《魔物》達を処理していく。駆け付けた部隊の隊長は湊に穆成の状態について尋ねる。隊長は湊の父の部下であり、湊のことは当然知っており、愛美や穆成についても過去に何度か会っている。だからこそ嬉々として戦場へと向かう穆成の変貌に戸惑いを隠せなかったのだ。
「わからないが、俺が思うにいつか代償を払うと思います」
「実は本部からとある情報が流れていてね。もしかすると彼は本部からの通達にあった《適正者》かもしれない」
「何のことですか?」
そして彼からの情報で湊は穆成の身に起こった覚醒の違和感が悪い方向へと流れているように感じ取った。
世界的にみても現在の《人類》側の戦況は悪い。近代化された兵器と共に数の暴力で蹂躙する《魔物》の軍勢。そして圧倒的な実力で《人類》の希望を砕く《魔人》。そんな中、世界各地で謎の存在からどこからともなく声が脳内に直接語りかけてくる現象があいつでいた。
聴こえた者は全員謎の存在は力を授けると語りかけてきたと言っており、何人かは《人類》を救う救世主であり神であるという根拠のない思想になっているとのことだった。実際に謎の存在の言動は全て統一されており、ほぼ同一個体とみているようであった。
これらの情報を整理している中、アメリカにいる《冒険者》の1人が穆成のように覚醒したという情報が出た。《ギルド連合》は謎の存在から力を授かった者を《適正者》と呼称し、どうにかしてその《適正者》を増やせないかと思案しているとのことだった。
だがこの謎の存在に湊は覚えがあった。時折湊に話しかけてくる謎のマスクであり、多少の言動の違いがあれど謎のマスクもしきりに湊に力を授けようとする素振りがあった。今のところ湊は拒否を貫くことで授かっていないが、おそらくだがアメリカの《冒険者》も、そして穆成もあの謎のマスクから力を授かったのだろう。
穆成のさっきの言ったことを加味すると、謎のマスクは一時的に自分の声が聞こえる者のうち力を欲する者に力を授ける。そしてその力を利用して《塔》を攻略することで、一時的ではなく永久的に授けた力を使えるようになる。
謎のマスクが自分達の次元の存在ではないことは湊はわかるが、ではあのマスクが《人類》を救う神のような救世主であるかというと、湊の考えではそうとは思えなかった。これは確固たる確証があるわけではないが、なんとなくあのマスクは実験的に力を授けている、もしくは自分の力を授かった者……自分の配下となる者を集めている。その配下を集めて何かを企ててたとしてもおかしくない。
「そんな正体不明の存在に今後の方針を固めるのは大丈夫なのですか」
「それは現場の私たちにも同様だ。あの火力とはいえ戦場では信用や信頼も命を左右する。しかし上はあの火力がなければ解決できないとなっている」
「日本を中心に世界各国で《器》と《器》候補を主戦力として投入しようとしている」
《恋人》は《魔術師》に《人類》側の戦力の変化を報告する。だが《魔術師》にとってみれば《人類》側が《器》を中心として《塔》への攻略を行いことは想定できていた。そして《器》が《塔》を攻略し《果実》を授かることも想定している。それは《恋人》も同様ではあるが、彼女のとっての誤算が《器》に選ばれたのが湊だけでなく穆成もだった点。
「わかっていたことではないのかい?場合によっては知人全員が《器》になると」
「わかっていたけど」
「お前や他の連中の考え方までは否定しない。可能性は頭の中に入っていたとはいえ親しい者が選ばれてしまったことに戸惑うのもわかる。だがそれらを犠牲にしてまでも俺たちの計画を進める」
《魔術師》は《恋人》に迷うなと言い聞かせると拠点から出ようとしている。
「予定通り?」
「ああ。後は4人。そして《器》となった者達の状況を考えるに余程の窮地でなければ覚醒はしないとみた。ならば少しキツイかもしれないが《人類》には更に窮地に追い込むように仕立てるだけだ」
「貴方は平気なの?全人類の悪役へと回ることに対して」
「何度も言っているだろう?今更だ。ではな」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は5/27→6/10です
ではまた次回




