Episode 3. Mission fulfillment
こんばんは
ブックマークしてくれた方々、読んでくれた方々に感謝です。
「これでこの階は全てか」
俺は首を絞めていたゴブリンをそのまま頸椎を折る事で絶命させた。愛美はキャンプ用らしき小型ナイフで慣れた手付きで気絶するゴブリンの頸動脈を斬り裂きトドメを刺す。その際に血で濡れないように魔法で服や髪、顔に防水を施していた。
「ここにはもう居ませんね」
唐が独自のスキルでここにいる[魔物]の反応がない事を教えてくれる。普通なら信用するにはまだ信頼が足りないが、今の所[魔物]の数などは一致している。まだ彼女がどういったスキルで割り出しているのか、その制限はどこまでなのかは不明だがあまり探ると相手に迷惑がかかるだろう。
「それにしても2人は鮮やかだね。俺なんて血まみれだよ」
下の階から壊れた机の脚を武器としてゴブリンを撲殺していた嶺は、顔や服にゴブリンの血がべっとりと付着していた。骨を折る俺と血を浴びないように工夫している愛美と違って、嶺はそういった工夫とかは特にしていない上、上手く殺しきれないのか何度もゴブリンを殴りゴブリンも下手に抵抗するので血まみれになる。
「いや、こればかりは経験だ。俺も最初は血まみれだったよ」
だが別に嶺がそこまで才能がないとかそういうのではない。俺も愛美も最初の頃は良く泥遊びのように血に塗れて両親に怒られたし、別に血に塗れても気持ち的にはそこまで問題ないが、戦闘面で血など下手に浴びるのはよろしくないので、両親には余裕があれば戦闘で不利になるリスクを回避するように教えられていた結果だ。
「次の階が外から確認した限り一番多く確認してますので、もしかすると[ダンジョン]があるとすればそこに[ダンジョンコア]があるかと」
唐が外から確認した結果から次の4階に注意するように伝える。全ての[ダンジョン]が当てはまる訳ではないが、[ダンジョン]にはその核である[ダンジョンコア]を守る[番人]が存在する。普通の[魔物]よりも強い事が殆どであり警戒が必要だと最初に良く教えられる事である。
「まあ出てきたとしてもゴブリンリーダーやゴブリンの派生系だろうな」
今のところゴブリン以外の[魔物]は見かけない。そしてゴブリン達は多少不意打ちをしたりするが、それ以外は集団で襲ったりとかもしないため、仮にこのゴブリンの群れのボスがいてもそこまで賢い個体はいないと予想できる。ましてや仮にもインターン生に任せる依頼で、そこまで危険な[魔物]は出ないようにしている筈。
俺達は警戒しながら階段を登っていく。そして4階に辿り着くとビルの内装に変化があった。廊下の床や壁が肉のような細胞で覆われている。
「[ダンジョン]で確定だな。奥に行く前に侵食されてないところの安全確保をしようか」
この肉は[ダンジョンコア]の侵食によるもの。[ダンジョンコア]は周辺の建物の構造を利用して自分の城を築く習性があり、しばらく経てばよりビルを侵食してより強い個体の[魔物]を生み出すだろう。ここの場合はゴブリンの上位種が該当する。
早速侵食する肉を辿って[ダンジョンコア]の破壊を目指す前に、一先ず侵食されてない4階のエリアの安全確認を提案する。そして俺と愛美、嶺と唐と分かれて部屋に潜んでいないか確認する。そしていない事を確認するとようやく[ダンジョンコア]へ向かうことになる。
「嶺と唐は[ダンジョン]攻略は初めて?」
「ああ」
「そうです」
「ならこの肉は可能な限り直接触らないで下さい。触るにしても服とか布とかで触れないようにしないと、仮に肉体を溶かす粘液とかだとそれで命取りになりかねませんから」
「それは恐ろしいな」
これも[ダンジョンコア]によって違いがある。中には罠を仕掛けるものもある。だがここは言ってしまえば[ダンジョンコア]が出来てそこまで時間が経っていないと思われ、そこまで罠はない筈だ。
俺がまず一歩侵食された床を踏む。ミチミチと肉が裂けるような潰れるような音がするが、運動靴が溶けたり変形したりはないので、危険性は皆無に等しいだろう。
しばらく警戒しつつも探索すると唐が廊下の一番奥の部屋を指さした。
「おそらくその部屋にあるかと」
「だな」
今いる廊下の一番奥から侵食が始まっていた。なので[ダンジョンコア]があるとすればその部屋だろう。しかし未だに雑魚のゴブリンだけで、全く[番人]らしき姿や気配を感じない。
「社長室か。なんだかボス部屋にはぴったりのような部屋だな」
目的の部屋に行く前に他の部屋を一個ずつ確認するが、どこにも気配はなかった。そして目的の部屋の扉を見ると社長室と手書きで書かれていた。俺は社長室のドアを開けようとした時だった。妙に硬い感触とドアを動かすと同時微かに聞こえる紐の音。
「3人共。多分トラップが仕掛けられてる」
「へー、少し頭回るね」
簡単に気づかれる程度の罠だが、それでも罠を仕掛ける程度の知能を持つ個体が存在する。こういった場合は、警察の場合はドアごと爆発させたりブリーチングショットガンでドアの破壊。ドアを少し開けてトラップの解除などが考えられるが、そういった道具は持っていない。なので
「荒っぽいけどドアを爆発させて罠を安全な位置から起動させる。ドアから離れて」
俺達は壁際によりつつ、俺は[エクスプロージョン]の発動座標と威力を調整する。座標はドアの前で威力はドアを破壊する最低限のもの。そう設定して魔力回路に魔力を流し込み[エクスプロージョン]を発動。俺の指定通りにドアの前で爆発し、ドアだけが綺麗に吹っ飛んだ。その拍子でドアに仕掛けられていた紐が外れ、ガラクタの塊が社長室からドアに向かって飛来するが、そこには誰もおらずそのまま廊下を挟んで壁に激突するだけだった。
「ギギギ?」
いきなりの爆発と手応えのない罠に頭を傾げてそうな声を漏らしたのと同時に俺達は突撃する。社長室には中学生ぐらいの体格の俺よりも少し小さいゴブリン一体とゴブリン三体。そして奥に赤く輝く宝石のようなものがあった。
俺はいち早く反応した大きなゴブリン……ゴブリンリーダーに蹴りを入れる。ゴブリンリーダーは道具を製作する程度の知能もあるようで、椅子や机の脚を槍のように尖らせていた。他の三体のゴブリンは愛美、嶺、唐がそれぞれ相手してくれていた。
「ギッ!!」
ゴブリンリーダーは俺の蹴りに怯んだものの反撃とばかりに改造した槍を振り回す。子供のチャンバラのようなもので簡単に避けられるが、当たればそこそこ痛いぐらいにはなるだろう。ゴブリンリーダーは俺に対して突きをしたので、俺は身体を少しずらして右脇に槍を持ったゴブリンリーダーの腕を挟む。そしてフリーの左手をゴブリンリーダーの右肩を掴むと思いっきり、ゴブリンリーダーの右腕の関節とは逆側に力を入れると、ゴキッ!!っという鈍い音と共にゴブリンリーダーは叫び右手の武器を落とした。
「ギー!!」
ゴブリンリーダーはそれでも左手で俺を殴ろうとしたので、俺はそのまま折れた右腕を起点に背負い投げをする。その拍子でゴブリンリーダーの右腕は肩から脱臼して更に硬い床に背中を打ち付けた。だが硬いといっても[ダンジョンコア]の浸食によって肉のようなもので覆われているので衝撃は多少軽減されていた。
俺はトドメとばかりにゴブリンリーダーの顔面を踏み潰そうとしたが、間一髪で顔を逸らして避けると俺の踏み潰そうとした右脚に絡み付こうとする。なのでそのまま巻き付くゴブリンリーダーを蹴り上げる。
「ギッ?!」
いきなり飛び上がった事に驚くゴブリンリーダーの首を掴むと、俺は背後にあった[ダンジョンコア]に投げつけた。[ダンジョンコア]は少しだけひび割れ、ゴブリンリーダーは瀕死になったとところに俺は助走をつけてライダーキックのようにゴブリンリーダーに攻撃する。衝撃はゴブリンリーダーだけでなく、すぐ後ろの[ダンジョンコア]にも届き粉々に砕け散った。
[ダンジョンコア]が破壊された事で、どんどん浸食していた肉が腐ったように剥がれ落ちていく。ゴブリンリーダーは俺のライダーキックがトドメとなったのか動かなくなった。
「お疲れ」
愛美はすぐにゴブリンを始末したのか暇そうに声を掛けてきた。嶺や唐も難なく始末したらしくおめでとうと言ってくれた。俺は感謝を述べつつゴブリンリーダーを強く踏みつける。反応はないので始末できている。
「後は5階と屋上か」
[ダンジョンコア]が破壊できたからといっても、それでその[ダンジョン]から生まれた[魔物]が消滅するとは限らない。より[ダンジョンコア]との依存性などが高いとより強くなる代わりに[ダンジョンコア]が破壊されると消滅するが、今のようなゴブリンリーダーの強さ程度ではその可能性は低い。
「確認できませんが、目視で確認した方が良いですね」
唐のスキルによるとそれらしい反応はないらしい。彼女のスキルを信頼していない訳ではないが、こういった[魔物]は予期せぬところで生き延びている可能性もあるし、直接確認しない事には100%とは言えない。それは唐自身もわかっているようであった。
それから俺達は5階を探索するが、どこにも潜んでいなかったのでそのまま屋上に向かった。そして椅子に座って拍手している絹田さんが待っていた。
「無事に街中のビルにある[ダンジョン]の攻略及び[魔物]の討伐おめでとう。君達は無事依頼を遂行した。本当ならこのビルを中心に他の場所にもいないかの確認をするが、それはこちらが確認している」
「で?これからどうすると?」
時間にして30分も経っていない。今日は12時までの予定なのだが、どうみてもこの依頼だけで済むような時間ではない。他にも何かあるのだろうと俺は推測していた。
「簡単だよ。取り壊すとはいえ[ダンジョン]の残骸をそのまま残していくのは問題だ。その後始末や[魔物]の素材回収と死骸処理。だがそれは君達にやるよりはヘタレの残りのインターン生にさせようと思っている。かといってそのまま帰らすのは朝早くから来て貰った君達に申し訳ないだろうな」
いや、ないならここで帰らせてほしい。早く課題を終わらせてゲーム三昧したいのだが、他の3人は何故か興味津々に聞いている。
「だから今から少しだけ俺達の職場……といっても支部の出先機関のような場所だが、最初は殆どがそこで働くのだから丁度良いだろうな」
確かにインターンに参加するのだからその職場に興味があっても不思議ではない。いや、俺は別に興味ないのだが、他の3人は是非と肯定してるのだから俺に拒否権があるのだろうか。俺は一応自分の意見を述べようとすると、
「では4人共ついてきてくれ。ここの現場処理は他の職員に任せてある」
「この依頼受けてくれるかい?」
「市長。改めて確認しますがこれは行政としてですか?それとも個人としてですか?」
「そんなもの行政に決まっているでしょう」
「そうですか。しかし指定された場所は市長の妹婿殿の会社と深い関係がありますよね?仮に市長が個人的な依頼を行政と偽装して申請してきたとなれば、これは不正ではありませんか?」
湊達が向かう出先機関。そこは[ギルド連合]が日夜依頼の申請を対応する事務所のような場所であった。そして現在応接室の一つには依頼を出す市長とその依頼に不自然な点がないか精査し、依頼として受理する専門職員[テンパランス]が依頼に関する確認事項の話し合いをしていた。
市長が出す依頼はこうだった。
都市計画によって市道を建設しようと計画し、その前段階として現地の地盤調査をしたところ[魔物]の痕跡が発見された。痕跡から少なくてもオーガもしくはサイクロプスのような一般人には対応できないレベルの[魔物]と判明。迂回するルートで建設するにせよ[魔物]が市道に出て襲ってこない共限らない上、殆ど人の手が加わっていないエリアなので[ダンジョン]がある可能性も考えられる。市民への危険や以降の都市計画を鑑みて[魔物]の生態調査や[ダンジョン]の有無の確認、そして[魔物]の殲滅という依頼だった。
ここで[ギルド連合]は依頼内容が正しいのか、そして依頼の報酬などが適正かどうかを審査する必要がある。これは中世の頃から変わらないのだが、[冒険者ギルド]から[ギルド連合]になってから曖昧だった依頼関連のルールを厳格化した。色々と制約や制限などがあるなか、今回の市長から出された依頼に関しての問題は報酬の出所であった。
依頼主が組織の場合は報酬の殆どは経費として出され、個人の場合はその個人から出される。今回の場合、市長個人ではなく行政の長として出しておりそれすなわち組織が依頼主となっており、行政から出すという事は行政の財政から支出される。つまり市民の税金から依頼の報酬を出す形になる。
だが[テンパランス]はこの依頼は行政が会議して決まったのではなく、市長が独断で周囲の同意や確認を取らずにやっていた事を把握していた。そもそも市道を作る事が確定したように市長は話していたが、行政としてはそこに市道を敷く事自体まだ決まっていない。だが仮に市道が建設され、そこから利益が出るところ調査すると市長の関係者が浮かび上がった。そこから色々と探ると、依頼を出す前にその関係者と市長の会合がわかり便宜を図っていた事が判明した。よってこの依頼は行政ではなく市長個人としての依頼に分類される。なので報酬は市長のポケットマネーから出されるべきなのだが、あろうことか市長は市民の税金によって賄おうとしていたのだ。
顛末はこうだ。
市長の妹婿が会社の拡大をしようと調査したら偶然[魔物]の痕跡を発見。それも[ギルド連合]に依頼を出さないといけないようにレベルだった。だが事業拡大の資金を削ぎたくなかったので、市長に賄賂を送る事で便宜を図った貰おうとした。市長も丁度市道を敷けばより妹婿の会社の利益になるとして依頼してきた。
これは普通にというか当然不正であり犯罪である。昔はこういった問題が露見しても100%依頼主の責任となったのだが、時代の経過と[冒険者ギルド]の職員自身も加担した事例があった事で変わり、当然こういった不正を[ギルド連合]職員が隠蔽すればその者も同等であり、更に組織の管理不足として責任は取らされる。そうではなく依頼主個人が上手く騙せたとしても、露見すれば依頼主の責任と共に[ギルド連合]の審査不足として多少なりとも責任を取らされる。
[テンパランス]の指摘に市長は内心焦っていた。絶対にばれないように工作を重ねていたが、[ギルド連合]の依頼審査機関の情報収集能力の前には無力だった。だがまだ確証となる証拠は提示されていない。なので市長はこう反論した。
「ではその証拠を」
「証拠ならこれですよ」
妹婿との密会自体がどこから漏れたとすれば密会に使用した店の従業員の口からだろうが、従業員には口止め料を出している。店側も不正に荷担したとなれば全力で隠蔽するし証拠も隠滅する筈であり、物的証拠などは存在しない。市長の中ではどこにも漏れる要素はないのだが、[テンパランス]は市長に分厚いA4サイズの封筒を渡す。
「これは?」
「どうぞ。中を確認してください」
市長は恐る恐る封筒の中を確認すると、[ギルド連合]の依頼審査機関[知恵の実]による調査結果となっている。[知恵の実]は[ギルド連合]とは独立した機関であり、世界各国でその信用は高く日本でも同様である。そんな調査機関の結果は市長の不正を示すものであった。市長は思わずその調査結果を破り捨てようとした。
「ここの音声と映像は録画しております。それに市長、貴方に渡したのはコピーに過ぎない。既に然るべき所に出している。そして貴方は明確に自分の不正の証拠となるものを隠滅した。罪はかなり重いと覚悟するべきですよ」
「一体どうやって?」
「犯罪者に手の内を教える訳ないじゃないですか。それよりも今から警察へ自首すれば多少罪は軽くなりますよ?」
既に決定的な証拠があり、その隠滅も既に取られている。もし市長がこのまま逃亡すれば、隠滅の音声と映像を[テンパランス]が提出すれば、市長は不正及びその証拠隠滅として重い罪に問われる。だが[テンパランス]が隠滅の証拠を提出する前に自首すれば、少なくてもこの応接室内の証拠隠滅の罪は問われない。どちらの選択を取るかと言えば当然、
「自首をする。だから今の映像と音声を消去したまえ」
「はぁ。潔くすればいいのにどうして余計な事を」
罪を軽くしようとこの応接室内の証拠隠滅の映像の消去をお願いしたが、それ自体が更に罪であった。ただ自首をすると言って立ち去れば、[テンパランス]は提出しない選択肢もあったが、根が腐っていた市長にせめてもの恩情は無駄と判断した。
そんな時に応接室のドアからノックが聞こえた。[テンパランス]は許可すると入ってきたのは警察官であった。
「市長。何かわかっているな?」
「後でこの応接室内の映像を提出します。では後はよろしくお願いします」
警察官は[テンパランス]に協力感謝するとお礼を言うと令状を見せて市長を逮捕した。市長は公務員の信頼を落としたとしてかなり重い罪が下されるだろう。
このように[ギルド連合]はしっかりと法律に遵守して日々仕事をしている。そしてその場面を偶然湊達は見る事ができたのだった。
「あのように俺のような現場職員でなくても、責任を持って仕事をしている。内勤外勤関係なく使命を持つのはここに限らず社会人としては当然だ」
絹田はそう湊達4人に伝えた。
俺もまさか依頼の受理に関する不正の告発に関わるのは初めてだった。話には聞くが早々お目に掛かるものではないので、強制的に連れてこられた身ではあるが貴重な体験をした。
「愛美は[知恵の実]ではないよな。どっちかっていうと[テンパランス]?」
「そうね。でも[テンパランス]は目指してないわ。法学部の分野でしょ?」
「だな」
別に[ギルド連合]自体は学歴は問わず完全な個人の能力を重視するが、勿論[テンパランス]のような専門知識を必要とする組織に所属するにはそういった専門を勉強するしかなく、自然とその組織に必須な分野の学歴となる。本当に特別ではない限り専門外の組織などには配属されない。それはどこの企業も大体同じである。
「じゃあ依頼を無事受理したり、それに関わる業務とかを覗いてみようか」
絹田さんは通常の依頼の審査などの業務を見学させてくれた。といっても絹田さんは現場職の人間。外と中で働く者達同士は仲が悪かったりと聞くのだが、いきなり業務を見学させてくれるのだろうか。しかし今回業務を見せてくれるのは俺も見知った人物だった。
「おい!そこの2人、私の体型を馬鹿にしたな?」
[テンパランス]は個人個人に個室が与えられており、絹田さんはその内の一つに入る。そして個室の主を初めて見た嶺と唐は驚きの表情を見せた。何故なら個室の主は見た目小学生と疑う背丈なのだ。
[ギルド連合]の女性用の制服を着こなし、制服から浮かぶ身体のラインはしっかりと女性としての部分を主張しているものの、その背丈は140センチとかなり低く、個室の主のデスクに置かれたファイルの山よりも低い。日本人らしい黒髪を腰までストレートに伸ばし、大きな眼は体型を見て反応する嶺と唐を見定めるかのように睨んでいた。
「時雨、彼らは今日から始まったインターンの中でも期待の者達だ。今日の内容が終わってしまって早く帰らすのも悪いから君の業務を見学させてくれないか?」
どう答えて良いか迷ってる2人をフォローするように絹田さんは個室の主であり、絹田さんの彼女である時雨さんに俺達を紹介する。だが彼女は絹田さんよりも気が強く、そして
「あのコネで何とか箔を持たせようとするボンボン達のか。まあいい、それよりも私の体型を見て何か思った事があるならしっかりと言ってくれたまえ」
少し執念深いのか、時雨さんはまだ嶺と唐に根を持っており、自分の体型について述べるように圧を掛けている。彼女は昔は絹田さんと共に現場で動いていた武闘派で、怪我を理由に[テンパランス]に異動していたのだ。一線を退いたとはいえ未だに彼女の圧は凄まじいが嶺はこう答えた。
「確かに身長は低いのですが、体型に関して言えばしっかりと女性らしく素敵だと思いますよ」
「ほう?私の身体をジロジロと見たな?」
身長は小学生並みな時雨さんだが、体型は女性としてはっきりとしている。だが時雨さんは今度は女性の身体を凝視してた事を指摘した。前々から思ったが時雨さんってかなり面倒だよね。
「時雨、揶揄うのは辞めな。愛美がもう欠伸を耐えているところだぞ」
絹田さんは愛美が欠伸を我慢している事を指摘する。愛美は自分とは関係ない事にはとことん無関心なので、朝早く起床したのもあってか若干眠いらしい。
「はぁ。私は立花時雨だ。そこの翔とは同期で、怪我をして5年ほど前から[テンパランス]として働いている」
時雨さんはそう自己紹介すると、デスクの上に置いてあるファイルを俺に投げつけた。俺はファイルを受け取るとそれは昨日受け付けた依頼の内容が書かれた書類だった。
「今からそいつがどのようにして調査し、依頼を受理してどういった[冒険者]に適切なのか、またその報酬などを設定するのか。それでいいな、翔?」
「ああ。4人共見てるだけじゃなく、時に彼女から指示があるかもしれないから、その事も念頭において見学してくれ。俺は置いてきた連中を確認する。お前達は適宜時雨に質問しつつ、彼女のその業務が終われば帰ってくれて構わない」
「おい、翔。後で覚えておけ」
時雨さんにそう睨まれながら絹田さんは出て行った。というよりも仮にも俺達はインターンで入ろうとするのに、態度をより良く見せようとは思わないのだろうか?
「では今から始めるが、何か気になる事があればどんどん質問してくれ」
「珍しい来客だ。どなただい?」
とある国の片田舎。その中でも端っこにある古い教会は、採光のために広くした開口部が崩れないように支えるアーチ状のつっかえ棒のようなものであるフライング・バットレス、開口部を広げるためにアーチの弧の頂点を上に伸ばした尖塔アーチ、柱の頂上から天井に沿って対角線上にアーチの筋をつけ、それが2本交差している天井の模様のリブ・ウォールトの3つの特徴を持つため、中世のゴシック建築であった。採光するために考えられた建築なので、教会内部は光に満ちた空間になっていた。
ゴシック建築は採光のため、大広間の天井は同じ時代の他の建築様式よりも高くなっており、この教会のその例に漏れず大広間はお昼時もあって非常に明るく、光が差すように女神像やステンドグラス、窓を配置しているので、大広間と奥にある祭壇は神秘的な空間になっていた。そこに祈りを捧げていた教会の主は、弟子が来客を案内してきたのに気づく。
殆どの人々から忘れられた知る人ぞ知る教会であり訪れる者は殆どいない。居るとすれば昔から通う敬虔な信者だが、数少ない信者は今日は訪れない。
教会の主は祈りを捧げ終え、来客の方に振り向くと主とは旧知の仲の人物だった。
「久しぶり、レオ」
「久しぶりだねノス。君から訪ねるなんてね」
訪ねてきたのは若い女性……ノスは教会の主レオと然程変わらない年齢の美女だった。シンプルだが上品さと女性らしさのある白シャツとデニムパンツ。耳には懐中時計を模した耳飾りをしていた。
「何の用だい?」
レオは用件を訊く。何となく近くにいたからという理由で訪ねる事をノスはしないので、何かしら伝えたい内容なのだろう。しかしそれならば携帯端末のメッセージアプリからすれば良い筈。直接訪ねる必要性にレオは覚えがなかった。
「そろそろ動く時だと思ってね。だけど本当にこれでいいの?」
「仕方ないだろう。このままでは全てが終わる。全て終わるならば、今から動いた方が良いだろう?悪者の言い方だが、全てを救う事はできないなら、最小限の被害に抑えるようにした方が良い。多少の犠牲は仕方ない。まあ多少で済むのかはわからないがな」
「だからジプーは私達から消えたのよ?」
「わざわざこの為に来たのか?」
「時間を進んだり停滞したり停止はできるかもしれない。でも逆行はできない。過去を変える事はできない。文章で出すのは簡単だけど、貴方は本当にそれで後悔はない?時間を知る私だからこそ、過ぎ去る時間の尊さや過去の行動の後悔を知っているわ」
「ならば断言しよう。俺は元からそのつもりだ。だからこそ随分前から準備していた。そのために俺達は準備したんじゃないのか?時間を停めてもいつかは動く。覚悟の上だ」
「貴方の覚悟。わかったわ。後はエルメスだけね」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
・ゴシック建築と今回登場の教会についての補足
ゴシック建築の教会は、大広間で高さを追求するために天への架け橋のイメージから塔の建築には力を入れていたそうで、同時期か少し前のロマネスク様式では1本の塔でしたが、より上昇性を強調するために双塔となっています。また開口部は縦長でてっぺんが鋭く尖っているそうです。
また各地では塔の高さを競うように争っていたので、高さを追求しすぎて崩れた塔もあるとかないとか。
ゴシック建築はフランスで広まったので、フランスではゴシックの典型的な特徴を持つ教会が多く、パリのノートルダム大聖堂もゴシック建築だそうです。逆にイタリアではゴシック建築は発達せず、天井を高くして垂直性を追求するよりも横に広げて水平性を追求したそうです。
今回登場した教会は当時から片田舎である地域で建築されたので、ゴシック建築の特徴はあるものの大きさはそこまで大きくありません。
次回は2/12です。次回から物語は進むよ
ではまた次回




