Episode 2. Talent is a kind of magic
こんにちは
ブックマークしてくれた方々、読んでくれた方々に感謝です。
《ギルド連合》
かつては中世にあった冒険者という職業を取り纏める《冒険者ギルド》を母体する国際機関である。現代のファンタジー作品でよく出てくる職業であり、日夜依頼を受けてアイテム採取やお手伝いから魔物討伐、ダンジョン攻略を達成し、報酬を貰い日銭を稼ぐ日雇い労働者だが、この世界の冒険者は少し異なっていた。
そもそも冒険者が誕生した経緯は、国家や宗教という垣根を越えて《魔物》に対する対策組織として創立された。依頼は殆どは公的機関や国家からの《魔物》の討伐やその被害、復旧などであり、アイテム採取は《冒険者ギルド》が依頼して請け負った《探索者》という別の職業に任せている。
《魔人》が出現し人類が滅亡の窮地に追い込まれた際も、この《冒険者ギルド》とそこに所属する《冒険者》達が活躍した。《英雄》と呼ばれた偉人の半数以上は《冒険者ギルド》に所属していたのもあって、《魔物》の殆どを人類の生存圏から追い出した後は、残っている《魔物》や《魔物》による被害の復旧などに、今まで培ってきた技術やノウハウを生かしてきた。
またその頃には人類同士の戦争が多発し、それに付随してか《傭兵》も増えていき、彼らを纏める為に《冒険者ギルド》は《傭兵ギルド》を作り、《傭兵》同士のトラブルの回避、違法な取引の取り締まりを行っていた。
そして世界大戦以降は、《冒険者ギルド》設立前から存在している《職人ギルド》や《商業ギルド》と、《傭兵ギルド》や《魔物》の生息圏である《魔大陸》の探索を主とする《探索ギルド》などを《冒険者ギルド》が一括して纏め上げ、更に《魔導協会》も傘下にして今日の《ギルド連合》という国際機関として様々な分野を手がける超巨大組織となった。
「で?愛美は《ギルド連合》のどの分野や部門を目指しているんだ?」
俺は愛美が俺の両親と同じ《ギルド連合》の職員を目指している事を告白されたが、特に驚く事なく淡々と蕎麦を作って天麩羅を温めて食卓で愛美に訊く。それにしても両親が買ってくる蕎麦は毎度美味しい。一体どこの蕎麦なのか一向に教えてくれないのが少し不満だ。
「部門というよりはオペレーターかな」
オペレーターというのはよく映画で出てくる軍とか政府の高官の横で端末を操作したり、現地の人間に指示やサポートをする管制官のような人を指す。確かに愛美の語学力なら世界各地で活動する《ギルド連合》のオペレーターという職業に合うかもしれない。
「実は高校になった頃に愛美ちゃんから相談を受けてな。確かに愛美ちゃんの《語学》の《スキル》レベルは高い。現時点でも並の成人した大人よりも高い。《ギルド連合》に年齢は関係ないが、俺としても高校を卒業せずに社会に出すのは違うと思っている」
父さんは愛美を《ギルド連合》の上層部に推薦はするが、高校卒業の学歴だけは持っておけと条件付けする。《ギルド連合》は大戦以降は人材確保と育成に力を入れつつ、未だに多くの《魔物》が支配する巨大大陸《魔大陸》の攻略が現在の目的となっているが、やはり未だに人類の生存圏にいる《魔物》と《魔物》が生息する巣……通称の攻略もあり、未だに冒険を夢見る若者が後を絶えない。そしてそういった身体が資本の職業は若くして引退する事もある。オペレーターならそんなに身体を資本としないものの、最低限の学歴はあって損はないと考えているのだろう。
「だが、俺としても愛美ちゃんが《ギルド連合》に働きたいというなら高校卒業までインターンという形でこの夏から働ける。バイトではないから給料は出ないが少なくても現場の雰囲気を味わいのは良いだろう。ああ、湊も一緒に参加しろよな」
「!?、ゴホッ?!」
いきなり父さんの宣言に俺は丁度蕎麦を啜っていたので、気道に蕎麦と麺汁が入りかけてむせた。その様子に父さんは高らかに笑い、母さんはあらあらとお嬢様のように口元を手で隠して笑い、愛美は俺の様子に無関心かのように南瓜の天麩羅を食べていた。しばらくして落ち着いたところで俺は父さんに反論した。
「何も聞いていないぞ」
「そりゃ今言ったからな。バイトは禁止されてるからお前は学校の課題をさっさと終わらせてゲーム三昧するだろうから丁度良いだろう?」
「くっ」
確かに俺は明日から高校の夏期休暇中の課題に取りかかり、一週間ぐらいには全て終わらせてずっと部屋に籠もって色んなゲームをして過ごそうとしていた。高校はバイトが禁止と決まっており、見つかれば即刻退学とかなり厳しい。一応金銭的な問題などで学校に申請して許可を貰えばやれなくないが、かなり厳しい条件を課せられる。
これは両親には秘密だが、同級生の中に無断でバイトをしている者はいる。そいつは両親共に自衛隊で働いており、その紹介で自衛隊基地内のコンビニでバイトをしている。流石の教師も自衛隊基地の中においそれと入れないのだ。
「明日からか?」
「そうだな。前にも行ったあの場所だ。といっても明日は昼までだからそんなに大変ではないだろうな」
「ちなみに時間は?」
「ん?午前6時だ」
父さんの言葉に俺は頭を抱える。俺は何度か両親の職場に来たことはあり、明日の集合場所であるが自宅からそこまで約1時間程掛かる。そこから逆算すると午前4時ぐらいには起きないとならない。愛美は事前に知っていたので驚く事はないが、俺からしたら非常に困るのだ。何より脳内スケジュールが滅茶苦茶になる事が非常に不快だ。
「持ち物は指定はないが、とにかく動きやすい格好で来るようにとの事だ。まあ絹田が担当だから大丈夫だろ」
「え!?」
明日の俺と愛美達を面倒を見るのが両親の部下という事で非常に嫌な予感がしていたのだ。父さんは教官の中でも屈指の鬼。その父さんの部下も数々の《冒険者》志望の若者を恐怖のどん底に突き落としたとして有名。俺も愛美もその片鱗を経験している身なので、明日が非常に心配であった。
「はぁー、真面目に面倒くさいな」
夕食の後は風呂に入って一通りゲームをしたり、明日の準備をしていたらあっという間に就寝時間になった。俺は携帯端末でSNSを覗きながら眠ろうとした時、ふと俺の部屋の窓に気配を感じ取った。携帯端末から眼を離すと、タンクトップにホットパンツという寝間着姿の愛美が隣の自室から覗いていた。
俺は無言で立ち上がり窓を開ける。
「どうした?」
「ん。一緒に寝よ」
愛美は抱き枕の猫のような人形を抱きかかえつつそう呟く。愛美の悪い癖が出ているようだった。ここで断ると数日は不機嫌になり非常に面倒くさいので、俺は溜息を漏らしつつ入れと中に入れる。
「お前な。いい加減それを治してほしいのだが」
「関係ないでしょ。おやすみ」
愛美は慣れたように俺のベッドに入り込み掛け布団を掛けた。彼女の悪い癖というのは一人で眠ると不安になって誰かと一緒に寝たいという可愛らしいものだった。恐らく孤独に対する恐怖から出る行動だと医者は分析しており、時間の経過と共に治っていくと話していた。高校になってからは一度もなかったのだが、久々に不安になったのだろうか。
俺は再び溜息をしつつ背中合わせに俺もベッドに入り同じ掛け布団に潜る。何故か掛け布団の中は花のような香りが漂っており、それは愛美の髪からも強く匂っていた。だが不思議とドキドキとはしなかった。彼女を幼馴染として認識して、一人の女性として認識していないからだろうか。
「愛美?」
俺は彼女を呼びかける。だが返事はない。背中から伝わる呼吸と寝息から彼女が完全に寝た事がわかる。
「!!、トイレぐらい行かせてくれよ」
何故俺が愛美を呼びかけたのかというと、トイレに行きたかったからだ。だが俺が出て行こうとするといきなり俺の手首を愛美が掴むのだ。それも痕が出る程強い力で掴むのだ。というか毎度寝ているのにどうして俺の手首を的確に掴めるのか知りたい。
「おーい。離してくれ」
俺はそのまま掴む愛美の腕を揺らして起こそうとするが、愛美は不機嫌な表情になると今度は抱き枕ごと寝返る。そのまま俺を下にして抱き枕を間に挟んで俺と愛美は抱きついた形になった。そして愛美は空いた腕を俺の背中に巻き付けて完全に俺を逃がさないようにしている。お前は獲物を捕らえて巻き付く蛇か。
「ん?」
愛美は俺が携帯端末に設定したアラームで眼を覚ます。そして目覚めた時に映った光景に
「!!!?」
いきなり赤面して飛び上がる。なぜなら愛美が俺をベッドに押し倒していたからだ。目覚めた瞬間俺の顔が映ったのだからビックリするし、左手は俺の右手首を掴み右腕は俺の背中に回している。普段はクールで通している彼女でも恥ずかしいだろう。
「わ、わ……わた、し?」
「いつもの癖だ。覚えはあるか?」
「な、な、なな…………なぃ」
必死に記憶を蘇らせるが悪い癖が出ている時に愛美にはいつも記憶がない。彼女にも治そうにも治せないようなのだ。だが流石にそろそろ克服してほしいところなのだが。
「とりあえず顔を洗え」
「………………うん」
自分の無意識の行動に固まっているが、今日は《ギルド連合》に赴く日なので一先ず眼を覚まして欲しかったので、俺は愛美を帰して自分も顔を洗って歯を磨く事にした。
「よし。集まったな」
刈り上げた白髪の若い男の合図で集合場所の会議室の扉が独りでに閉められた。
集合場所は《ギルド連合》の支部であり、近代的な建物が特徴なのだが、俺や愛美がいるのは《ギルド連合》が所有する古いビル。恐らく戦後の日本の高度経済成長期辺りに建てられたもので、買い取ったまま何もしてないので、あちこちの設備が古かったりする。だがいくら古くても風でも地震でもなく、全開にしてた扉が独りに閉まるのは、若い男が《スキル》で閉めたのだと俺や愛美、そして他の参加者も把握していた。
「まずはインターンとして《ギルド連合》へ志望した君達に感謝する。私は今回のインターンを担当する絹田と言う。短い付き合いかもしれないがよろしく」
変哲もないスーツを着た、髪色以外はまるで若い役人のような雰囲気を出している。それに対して俺達インターン生の格好は動きやすい格好という指定があったので人それぞれ。一瞬来る場所を間違えたかのように思えた。俺と愛美は絹田さんを知っているので不安にならないが、一部は少し不安になっているようだ。
「ではまず君達に今回のカリキュラムを渡しておこう」
絹田は冊子の束を持つと近くのインターン生に配るように渡す。そこから順々に回っていき、俺は受け取ると軽く表紙や目次を確認する。
「服装指定してる時点でわかっている者もいると思うが、初日から実地研修という形で君達には今から現場へ向かってもらう。具体的に何をするかは移動中にでも話そうか」
絹田さんはそう言うとそのまま会議室を出る。その行動を以前知る俺と愛美はすぐさま彼の後を追う。他にも何人かもすぐに荷物を持って追いかける。多くの者が絹田さんが戻ってくると思っているが、冊子を見ると徒歩で現場へ行くと記載されている。つまり交通手段は使わないので、車を待つとかもなくかといって目的地は絹田さんしか知らないので、彼に付いていくしかないのだ。まるでどこかの漫画の試験のようだが、このインターンはある意味これくらいの理不尽は乗り越えろというメッセージでもある。
「君達、冊子を読みもしないで良く気付けたね」
絹田さんの真後ろにいた俺と愛美に声をかけたのは、俺達以外ですぐに絹田さんを追ったいかにも陽キャといった同じ年代の男だった。そして学校では絶対優等生なのだろう雰囲気もあり、慕われるタイプなのだともなんとなく感じさせる。
「こういうのは何度か経験があったからな」
「そうか。あっ、俺は嶺という。君達は?」
「俺は湊、あっちは愛美だ。よろしく」
「こちらこそよろしく」
見た目的にもそして行動の速さからもそれなりに優秀そうなので、知っていて損はないだろうと一応互いに名前を言い合う。愛美は無関心なので代わりに俺が嶺に教える。
「それにしても一体どこに?」
「あの人の格好から判断なんて意味ないからな。スーツだからという固定観念で都会なんてありえない」
絹田さんの格好はスーツで靴も革靴。アウトドアするような格好ではないが、それは見た目だけの話であって実は絹田さんの着るスーツは、ある程度の環境でも快適にそして実用的に動けるものである。
「随分と知ったような口ぶりだけど、インターンって1回しかできないんじゃ?」
「まあ俺達は親の付き添いでな。お喋りはいいが体力を消費したくないからここまででいいか?」
嶺は話したいようだが、どこまで付いていくのかわからないので、お喋りで体力を消耗したくないので、俺は嶺に止めるように言う。
「そうだね。まあ時間的に最低2時間はありそうだね」
集合が午前6時。そのまますぐに出発。今日のインターンは正午までなので、現地で何をするかはわからないが2時間は歩く事になると嶺は予想していた。それをわかってても話しかけるのだから、余程体力に自信があるのだろう。
「さてと。ここからは個人で自由に《魔法》や《スキル》を使ってくれ。魔力を節約して自力でも構わないが、自分の力量を見誤ると命取りだからな」
絹田さんは集合場所のビルの屋上で一度止まる。そして追いかけるインターン生に向けてそう言うと、一回の跳躍で隣のビルの屋上に着地する。彼の身体能力や詠唱もない《スキル》の使用。インターン生各々が彼の行動に驚く。そして彼のように自分達もパルクールするようにビルや建物へと移動する必要があるようだ。
先程の絹田さんの忠告は自分の力量を理解して適宜《魔法》や《スキル》を使用しないとビルの屋上から地上へ転落するというもの。
「ほら早くしないと。時間は有限だ」
絹田さんはインターン生を急かす。中々行動に移さないため、愛美が一番手として前に出る。
愛美は《魔法》を使う素振りもなく、助走をつけて走り幅跳びのようにフェンスとビルとビルの間を飛び越え、隣のビルの屋上のフェンスに捕まる。そのままフェンスを起点に鉄棒のように前回転して絹田さんの前に着地した。
「凄い凄い。体操の審査員なら高得点だ」
「あら、満点じゃないのね」
絹田さんは愛美を褒めるが、愛美は本気で褒めてない事に少し不満なのか言い返す。俺もそろそろ行かないと愛美に馬鹿にされる。
俺はフェンスをよじ登り、フェンスの大きく蹴り飛ばし跳躍する。だが飛距離が足りずビルとビルの中間までしか届かない。他のインターン生が悲鳴のような声をあげるが、俺はすかさず《スキル》を発動させる。
俺はゲームのように空中で再び跳躍し、そのまま隣のビルのフェンスを軽々と飛び越えて着地する。今使った《スキル》は移動系の《スキル・虚空跳躍》。何もない空気だけの空間に擬似的な物体を作り出しそれを足場として跳躍する。この擬似的な物体というのは、単なる足場ではなくトランポリンのように通常よりも高く跳躍できるもの。また適宜任意にその跳ね返りの強さを調整できるが、俺は指定しない限りはトランポリンぐらいの跳ね返りレベルにしている。
この《スキル》の欠点として、魔素と空気がある空間でないと使用できない点と、着地などには補正がないので他の《スキル》を併用するか、身体能力でカバーしないといけない。
「湊はこう楽をしてるな。やろうと思えば愛美のように《スキル》使わずにいけるだろ?」
「これが一番効率的ですからね」
絹田さんは俺が楽な選択をしたと変わらない俺にそう呟く。そう、俺は愛美のように《スキル》を使わなくても一応飛べる。だがそれによる肉体の負荷と《スキル・虚空跳躍》の使用による魔力消費を比べ、後者の方が効率的と判断したまでだ。愛美の選択も魔力を節約したやり方であり間違ってはいない。別に絹田さんは各々自由に追いかけろとしか言っていない。なので必ずビルの屋上に飛び移らないといけない訳ではなく、絹田さんを追えていれば地上を歩いても問題はない。それをわかってか2人程、そそくさと屋上から地上へと降っていった。
「おいおい。これくらい平然とやってもらわないと困るなぁ。この後の仕事に差し支えるんだけど?」
絹田さんは残りのインターン生が中々行動に移さないので、今後の評価などに響くと伝える。というか下に降りてった人の1人はさっき話してた嶺か。彼はどこにもいない。
「湊。お前、何の志望か決まっているのか?」
俺と愛美は絹田さんの真後ろを付いていくようにしてビル群の屋上をパルクールしていた。絹田さんは自身の身体能力を向上させる《スキル》を発動し、愛美は最低限の魔力の消費で《魔法》と《スキル》で移動し、俺は最低限の消耗で移動していた。他のインターン生は少し遅れているが付いて来れているようだ。そんな時に絹田さんから俺の将来の志望を訊いてきた。
「まだ何も。だから強制的に参加された」
「だよな。愛美ちゃんは最低限の手続き踏んでるのに、湊は無理矢理ねじ込んで来たからな。インターン制度も人数制限があるって言うのに大変だったよ」
やっぱり父さんは俺のインターン参加は無理矢理だったらしい。そもそもインターンは参加者の意思表示を示す志望動機などの書類を提出しないといけないのだが、どうやら父さんの権力で何とかなったらしい。
「定員越えてる筈だけど良く空いたような」
「まあ毎年こういった事も想定してインターンの人数は何人程度しか決まってないからな。わかっていると思うが選考に落ちた奴は大勢いる。そいつらの為にもインターンだからといって舐め腐ってるとただじゃおかないからな?」
「わかっているよ。実際やっているだろう?」
それもそうだ。インターンの選考に落ちた者も少なからず居るはずだ。そんな人達からすれば俺はコネで入れた卑怯者。そんな人達を怒らせない為にも、人としてちゃんとしっかりするところはしろ。絹田さんの言っている事は最もだ。
午前8時30分
あれから二時間も都会のビル群を移動していた。といっても途中で森林公園なども挟んでいるので、着いたところは都会とは少し離れた街。元々は宿場町として街が形成されたその場所は、今では古き良き慣習を残しつつ近代化の影響を受けていた。だがそれも鉄道駅周辺だけに限った話。駅から離れればビルが少ない山や畑が見える田舎の風景も映る。
「よし。ここが目的地だな。ふむふむ、何とか全員いるようだな」
絹田さんが訪れたのはそんな街の駅にほど近いビルだった。入口に到着し追いついたインターン生の数を確認して誰も脱落していない事を確認した。俺と愛美、そして常に地上で移動をしていた嶺など何人かは身体が温まった程度だが、その他は肩で息をしたり体力がもうなかったり、《魔力》をほぼ使い切ったりなど疲弊している。
「さてと。集合していたビルのようにこのビルや周辺の土地は《ギルド連合》の所有となっている。そもそも何故こういった古くなったりした土地や建物を《ギルド連合》が所有しているかわかっているかい?」
「土地の有効活用や《ギルド連合》の日本での資産を土地という形で残す。拡張工事とか様々な支部や事務所予定地とか?」
嶺が絹田さんの質問にそう答えた。確かにそういう側面もなくもない。だがわざわざ資産を土地に変えるなら、都内の一等地にもするだろう。しかし少なくてもここは曰く付きの土地であり、そこをわざわざ自分達の土地にする必要性はない。
なぜ曰く付きなのか。それは目的のビルの周辺と他のビルの周辺を見れば明白である。ここは駅近なのもあってビルが建ち並び、マンションや大型ショッピングモールがある。しかしこのビルは古臭く改修工事などは行われていないようにボロボロ。しかも《ギルド連合》所有の土地はどこも古民家で空き家。雑草すらも生えない空地も乱立している。《ギルド連合》の土地以外はそんな事はない。まるでここだけ別の空間かのようになっている。
《ギルド連合》が日本に限らず様々な国のこういった曰く付きの土地を購入して所有しているのは、その曰く付きの理由が少なからず《魔物》の影響が関係しているのだ。そういった影響から人類への被害を防ぐのが《ギルド連合》の役割である。
「数人気づいているようだが、ここは《魔物》による被害で周辺が都市計画で発展していくなか放置された場所だ。影響下にあるここには[封印]を施しているが、鳥瞰的に見ればここだけ忘れ去られた土地として映ってしまう。土地の所有権は《ギルド連合》にあるが、その土地を開発したり何したりするには行政の許可がいるし、その土地代以外の費用は全て行政が持つという契約になっている。今回の依頼は都市の景観の改善や都市開発して活性化させたい行政からだ。内容はこのビルに生息している《魔物》の討伐」
絹田さんは今日の仕事内容を告げるとインターン生1人1人に立方体の粘土を渡された。
「これは君達を守る御守であり、君達の制限時間を告げる時計でもある。もし死ぬような事があればそれが身代わりになって強制的に俺が待機するこのビルの屋上に[転移]する。その他にも12時なっても強制的に[転移]するようになっている。決して試験ではないが、この程度の依頼をこなして欲しいから制限時間を設けてもらった。だが勘違いしないでほしくないのは、この御守が発動したからといって職員になれない事はない。あくまでインターン中の君達の評価の参考にするつもりだ。だから思う存分依頼を遂行してほしい。質問は?」
絹田さんの質問に1人のインターン生が手を挙げた。
「何だ?」
「《魔法》や[魔術]の制限は?後は仮に戦闘になった場合、どこまで建物への被害を許容されるのかを訊きたい」
「どちらにせよこの土地の建物は全て壊すから多少壊れても問題はない。ただしビルには君達がいるからまさかビルごと破壊して依頼完了とは考えない事だ。だからこそ制限はビルの倒壊。それ以外は自由だな。いいか?自由だ」
絹田さんは妙に「自由」を強調している。それが何を意味するのか。俺と愛美は過去に彼と関わっているからこそわかっている。
「では午前9時に始めよう。それまで休憩と自由に作戦を練ってもらって構わない。俺は一足先に屋上で君達を見張っている」
「どう思う?」
愛美がそう尋ねた。何を訊いているのかは言わなくてもわかる。《魔物》の被害と共にこのビルに生息する《魔物》の討伐という依頼。恐らくだがこのビル全体が《ダンジョン》……つまり《魔物》の巣なのだろう。街中に平然と《ダンジョン》があるというのは驚きだが、《魔物》というのは虫や雑草のように本来はどこにでもいる自然であり、それは近代化しても変わらないだろう。
「俺達だけで真っ先に《ダンジョンコア》を破壊しても良いが、さてどこにあるのだろうかな」
《ダンジョン》は《ダンジョンコア》と呼ばれる核を中心に形成され、その《ダンジョンコア》が周辺の地形や植物、物体を使って自分の城を形成し、自分を守る為の騎士である《魔物》を生み出す。この《ダンジョンコア》の形状や性質は様々であり、「コア」の名前通り何らかの形をした物質であったり、女王蜂のような生き物であったりと、《ダンジョンコア》というのはあくまで《ダンジョン》を形成するモノの総称である。なので移動している可能性もあるし、自分の危機なら手下で足止めして自分は《ダンジョン》から切り離して逃走する可能性もある。
「君達は2人でいくのかい?」
そんな俺達に話しかけてきたのは嶺と彼の横に可愛らしい女の子がいた。身長が175cm前後の俺と嶺、170cmの愛美とは違って小柄だが、その顔や落ち着き方などは俺達と同年代なのだとわかる。
「場合によっては何人か役立ちそうな奴を誘ってだな」
「それなら俺達とかどう?」
「嶺!?」
俺が他に何人かとチームを組もうと言った瞬間、嶺は自分と小柄の女の子をチームに誘ってくれと言った。その行動に女の子は驚いた。可愛らしくオドオドするかと思われたが意外と意思が強そうだ。
「ああ、この子は唐。俺の幼馴染というか婚約者かな?」
「腐れ縁よ!」
なるほど。まあ何となく嶺が良家の坊ちゃんのような印象を思っていたので、既に婚約者がいても何ら不思議ではない。嶺と唐が親戚というか家族ぐるみで仲が良いのだろうか。それとも今時珍しい政略結婚か。どちらにせよ唐の嶺への反応を見るからに嫌ではなさそうだ。ただ恥ずかしいし嶺への恋心を認識していないかのように……って俺別にそこまで恋愛経験ないから語れないや。
「で?俺や愛美は別に構わないと思う。多分地上で追ってたのは君達だよね」
「そうだよ。あの職員の位置さえ把握してれば無理して忍者のようにしなくて良いからね」
といっても地上から屋上に飛び移る絹田さんを見つけるのは難しい。嶺と唐の2人のうちどちらかが《魔法》や《スキル》で絹田さんを監視追っているのだろう。別に絹田さんはそれらを制限しろとは言っていないかったので問題はない。
「じゃあこの時点でどこに《ダンジョンコア》があるかってわかる?」
俺は2人にこう訊いた。もしそういった能力があるならこの時点で《ダンジョンコア》の位置を把握できるのではないかと思ったからだ。そしてその質問に嶺は自然に唐へ目線を向ける。恐らく唐がそういった能力を持っているのだろう。
「現状では何も。ただいくつか《魔物》らしき影が見えるだけですね」
「地下とかはある?」
「わかりません」
唐の発言から俺は思わず目線を上空に向ける。地下やビル内部が見えないが、外側のガラス張りからだけは見えている。そして屋上を伝っていた絹田を追えているので、俺は唐が上空から鳥のように見る事ができる能力だと推測した。だがそれらしい虫や鳥は見当たらない。
「ああ、湊。あんまり探らないでくれるかい?」
そんな俺の行動に嶺は釘を刺した。まあ人によっては《魔法》や《スキル》は切り札。ばれるとそれだけで命取りになる恐れがある。多分だが2人は俺や愛美のように少なからず戦闘を経験していそうだ。
「ああすまないね。で、他にも誘えそうな人はいるかい?」
ぶっちゃけると嶺と唐以外は期待していない。なぜなら俺達4人以外は絹田さんを追うだけで疲弊仕切っており、休憩から5分経ってもチームを組もうとせずに休息していたからだ。ここからある意味攻略をしようとしているのに、その体力のなさは不安しか残らない。そもそもビルが《ダンジョン》だとも気づいていないように感じられる。
「いないね。何というか、本当に彼らって俺達と同じ推薦されるレベルなのかな」
俺もそう思っていた。いや、恐らくこのインターン。コネで入ろうとする坊ちゃんお嬢様の集まりの可能性が高い。本当に推薦される実力があって選考されているなら、そもそもこんなとこで疲弊しない。そして格好やオーラから何かしらの権力者の子供っぽい印象を抱く。それは嶺と唐にも当てはまるが、2人は実戦経験者っぽいのだ。家の教えが厳しいのだろうか。
「始めるか」
9時になったので俺、愛美、嶺、唐のパーティーでビルの入口に入る。エントランス入ってすぐ警備管理室が見えるが中の機材は既に撤収されており、事務机や事務椅子などのものが散乱していた。
「《魔物》の痕跡はなさそうだな」
「まずは地下ね。地下は1階だけ」
愛美は壁にあるビルの案内図を確認し、このビルは5階建て地下1階の構造とわかった。まずは地下の安全確保を優先する。嶺も唐も反論はないため俺を戦闘に前に出る。
「暗いな。非常灯もついてないか」
もはや電気が通っていないのか、地下は一切の灯りが灯っていなかった。俺は携帯端末のライト機能を使おうかとも思ったが、充電が勿体ないのでここは初歩的な《魔法》を使うとしよう。
「《ライト》」
俺は一言詠唱すると俺の手元に光りの球体が浮遊を始め、俺の周辺を漂っていた。これにより俺の周辺の視界は確保できるだろう。
「愛美はいらないか」
「貴方の灯りで十分」
嶺や唐も同様に《ライト》を発動させて視界を確保をするが、愛美は俺の灯りで十分だとして俺の真後ろに張り付いていた。本当に極力魔力を消耗しない方針なのだろうか。
地下は倉庫になっており、運びきれなかった機材や家具などが乱立していた。ここにも《魔物》の痕跡らしきものはなく、ただただ埃臭くて虫がいそうな場所だけだった。
「ぎゃああああああああぁああああああああ」
「!!」
俺達は1階に戻ろうとした時、他のインターン生の叫び声に気づいた。駆け上がると、俺達の後に入ってきたインターン生が同様に叫び声に警戒していた。俺はまず一番冷静そうな眼鏡男に状況を尋ねた。
「今のは?」
「3人ほど先に2階に登っていってすぐに叫び声がした」
「はぁ。唐さん、貴方が発見した《魔物》はどの階でしたか?」
「4階です」
「降りてきたよりも2階に既にいたって事か。で、お前らは何をしている?俺らは《ギルド連合》のインターンとしてこの依頼を受けているんだぞ。さっさと助け出さないのか?」
「ぶ、武器が」
「武器がなければ素手でいけばいいし、《スキル》や《魔法》に持ってれば[魔術]も使用していいだろう?全く」
嶺の言う通りで、俺達以外のインターン生は実戦もろくに経験していない連中だった。俺のように大体が親のコネを利用しているのだろう。こういった《魔物》の被害は迅速さが重要であり、襲われた3人を救うのは一刻を争う。動かない連中の尻を叩くよりも自分達が動く方が早いので、俺は階段を使って2階へと上がる。2階に辿り着くと廊下の奥の部屋から叫び声が聞こえすぐさま向かう。
「!、《ゴブリン》か」
奥では頭から血を出している者とそれを看病する女性、そして怪我をさせた元兇らしき《魔物》に対抗する男の3人がいた。《魔物》は《ゴブリン》という小学校低学年ぐらいの背丈の緑色の肌をした鬼で、知能は低いが道具を扱う程度の知能はあり、抵抗している男に何とか事務椅子で攻撃しようとしている。事務椅子の脚には血が付着しているので、恐らくだが《ゴブリン》が不意打ちで1人の頭部を殴ったのだろう。
「これくらい難なく倒せるだろ」
俺はすかさず男の助けに入る。《ゴブリン》は個体差によるが基本そこまで力や身体が強い訳はなく、俺が無防備な脇腹を思いっきり蹴り上げると、《ゴブリン》は汚い唾液を吐きながら蹲る。そこに俺が背後から顎と頭頂部を掴むと思いっきり捻る。《ゴブリン》の顔が180度回転するとそのまま絶命した。《魔物》の証である[魔核]を壊さなくても、弱い《魔物》なら普通の生物と同じように殺せる。
「た、助かった」
男は俺に感謝をしつつすぐに倒れた1人に駆け寄る。看病していた女性に変わって愛美が傷の状態を見ていた。
「血は出てるけど傷は深くない。軽い脳震盪で気絶しているだけね。清潔な布で抑えて病院にいけば大丈夫ね」
「愛美。傷口ぐらいは治してやれ」
「ええ、まあいいわ」
俺が治療を提案するが愛美は面倒くさそうに返事しつつも彼女は覚えている治癒系の魔法[ヒール]で止血と共に切れた頭の皮膚が治っていく。
「はい。でもかなりのスタミナを消費しているから起きたら空腹でしょうね」
愛美が使ったのは彼女が覚えている中で一番簡単なもの。魔力を消費して対象のエネルギーを利用して自然治癒力を高めている。なので起きればその分のエネルギーを消耗するしスタミナも消費されて空腹状態になるかもしれない。だが警戒せずに《ゴブリン》一匹程度で気絶するのは油断しすぎだ。
「《ゴブリン》の《ダンジョン》か。群れだとしてもこの広さだと数十体ってとこか」
「上から複数の足音。裸足のような音だから恐らく《ゴブリン》だと思う」
俺がこの《ダンジョン》の《ゴブリン》の総数を予想していると、唐がすぐ上の階の廊下や部屋から足音を確認した。そして足音の数と大きさなどから《ゴブリン》が移動していると伝えてくれた。
「お前達はビルから出てろ。特にそいつは軽傷とはいえ怪我人だ。しっかりと運び出しておけ」
「早速1人怪我が出たようね」
湊達がいるビルの屋上。そこでどこからか持ってきた椅子に座り本を読む絹田の前に、《ギルド連合》職員の女性用の制服を着た黒髪長身の女性がいきなり現れた。《ギルド連合》の制服は機能性に重視しつつも、公の場でも恥じない洗練されたデザインをしており、女性用はブラウスにジャケット、下は膝下辺りまであるスカートだが、動きやすいように膝上までスリットが入っている。黒髪長身の女性は下にはこの夏でも厚手のストッキングのようなものを履いており顔以外殆ど露出がない。
「そうだな。あの中ではまあまあな実力で、行動力もあったがいかんせん実戦経験がないからな。俺やお前ならもはや《ゴブリン》程度では寝てても対応できるだろ?」
「そうね。だけど流石にお偉い様の御子息御令嬢達でもレベル低くないかしら?まともなの宗家の……」
「雅。それよりも周辺に異常はなかったか?」
黒髪長身の女性……雅の話を遮るように本を音を出して閉じ、絹田は雅に現状の報告を訊く。
「そうね。このビル以外には《ダンジョン》の類いは存在してません。このビルも昨日の時点で地下への侵食はなく、《ダンジョンコア》の移動もありません。それにしても少し過保護では?これくらいの規模の《ダンジョン》なら、イレギュラーが発生しても平気そうですけど。あの子達もいるし」
「そうもいかない。参加してる殆どの奴等は最近勢い乗ってる家だ。ここでイレギュラーで不幸にもお子さんには実力がなかったから死にましたなんて言ったら、今時即刻マスコミが週刊誌やらメディアにやら叩かれて世論が動くぞ」
「というよりもなぜそんな人達を引き受けたのか。今でも質の低下が酷いのに、これ以上質を下げると《ギルド連合》の信用がなくなりますよ」
「だからこそ何も問題がないこの時で殆どの奴を帰らせる」
絹田の言う通り既に《ゴブリン》に会う事なくビルから出て行く者がいた。勇敢に探索した3人はいいとして、何故何もしてない人がビルから出て行くのか。そもそも何故湊達の後を行かないのか。その時点で失格だ。
「雅。敷地から出ようとした奴がいたら、ここに連れてきてくれ。一応口頭で理由とか聞かないと親御さんは納得しないだろうからな」
「わかりました。で?湊と愛美はどうですか?」
「相変わらず湊は効率的、愛美は魔力節約を心掛けているよ。それに湊は体術に磨きがかかっているようだ」
「星さんが教えているのかしら?」
「最近だと湊はゲームから我流で覚えているらしいな。最近のゲームは侮れんからな。さっさと《ギルド連合》もそういった万人受けするゲームとか作って、最低限の行動ぐらいを学ばせてほしいよ」
絹田と雅の上司は湊の父であり、2人とも彼の教えを受けて今では若手のトップ軍団の一員になっている。
「さてさて。以前よりも成長したか見させてもらうと……雅、悪いが連れてきてくれ」
「かしこまりました」
雅はすぐに姿を消すと、遠方で敷地から出ようとしたインターン生の驚きの声が響いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は1/29です。
ではまた次回




