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World Apocalypse  作者: miyafinder
Prologue A shadow that breaks ordinary everyday life
1/37

Episode 1. The daily life of fools

新作です。

前書きや後書きにて補足説明や次回投稿時刻、その他お知らせも書いていきます。


この作品の前日譚も投稿しておりますが、読まなくても本編には支障を来しません。


前日譚

https://ncode.syosetu.com/n6197hj/

「では二学期に本格的に始める《魔導学》。1学期期末テストの復習も兼ねて基礎知識を確認しようか」


夏の季節。俺が通う高校は期末試験を終えて、最後の授業を受けていた。魔導学の界隈ではそこそこ名の知れてるらしい教師は、魔導学が便利だが同時に危険でありそれは車と変わらないとして、少し早めに試験を始め最後の授業で再度纏めるという方針を取っていた。


「ではまず《魔法》と《魔術》 、そして《魔導》について……そうだな、星。説明してくれ」


教師がなぜか俺を名指ししてきた。まあ訊かれている内容は非常に簡単であり、期末テストにも出ていたものだ。


「《魔法》は簡単に言えば空気中に漂う魔素を吸収し、それを身体の臓器が魔力に変換させ、任意の現象を発生させる《スキル》。《魔術》はそのメカニズムを理解し、様々な物体に魔術回路……魔法を使う際に魔力が通る魔力回路を人工的に作り出した回路で、本来なら素養が重要視される魔法と違い、万人でも魔法を使えるようにした技術。《魔導》は《魔法》、《魔術》含めて魔素に関する総称です」


《魔法》は素養が必要。どれだけ目指しても魔法を扱う素質や素養などなないと努力しても得られない。そしてこの素養などは血筋などが大きく関わるため、中世では魔法使とそうでないものの身分差が激しく、そこから「貴族=魔法使」という認識が強くなったと言える。実際に貴族の多くは魔法が使える者が多かった。

しかし次第に遺伝的な問題が発生する上、やはり魔法使の数の確保が難しく、その中で第一次世界大戦により魔法使の多くが失っていった。《魔法》の中には一子相伝や秘匿されたものも多く、第一次世界大戦後には多くの《魔法》が失われた。


そこで台頭してきたのは《魔術》。元々、誰にでも《魔法》を扱える、素質がなくても日常生活程度になら使えるようにする技術は研究されており、《魔術》の開祖であるソロモンによって発見された技術で、《魔法》を発動する時に見える魔力回路と呼ばれるものを、特殊な素材と道具を使用して任意の物体に人工的に描き、後は魔力を送るだけでその回路が疑似的に魔力回路として働き、魔力さえ送れば《魔法》と似た現象を発生させられるようになった。ソロモンはそれを《魔術》として世に広めたのだ。

またソロモンは、そこから《魔法》が個人によって扱える数や属性などが異なるのはこの魔力回路の違いによるものであり、歴史に名を残す魔法使はこの魔力回路が一般的な魔法使と異なっていると提言した。

そこから《魔法》を一律管理する国際機関《魔法協会》の協力の元、その仮説が証明された。ソロモンが提唱する前から、数々の魔法書や偉人達の日記などから魔力回路と思わしき記述が散見されてた事もあったのだとか。更に回路はある程度変えられる事もできるとも判明された。

だがここで倫理的な問題が発生した。この魔力回路は幼少期で簡単に増やせ、そこから自分なりに回路を弄る事で個人の扱う《魔法》が増える。だが成長すると途端に魔力回路や魔素から魔力を生み出す量が増えていかなくなる。また魔力回路を弄れるといっても、その魔力回路を基にして変更する形なので、例えば元から炎属性が扱える者がいたとして、その者は炎の《魔法》スキルを取得できるが、水の《魔法》スキルは覚えにくい。炎と水の属性は魔力回路の形や特徴が異なっているからだ。

それが判明した時、とある国の機関が人工的に魔力を増やせたり、魔力回路を外部から弄れないのかと人体実験を行ったのだ。それがもはや拷問であり、人の尊厳を無視しており倫理観に欠けるとされた。またわざわざ身体に無理をさせなくても、ソロモンが発見した[魔術]があれば炎属性しか扱えなくても擬似的に水属性も扱える事ができる。なのでこの問題は深刻であったが、すぐに行われなくなった。


誰でも《魔法》を擬似的に扱えるようになり、また銃器の開発など技術発展もあったが、《魔法》自体が時代遅れになることはなかった。《魔術》は魔力さえあれば扱えるが、《魔術回路》は様々な要因から《魔力回路》よりも複雑に描く事が難しく、《魔法》と比べると《魔術》は威力や汎用性、拡張性などが劣り、鎧を着た騎士がクロスボウや銃器の登場により鎧が消滅したのとは違って、魔法使は魔法使の利点や強さ、必要性があったからだ。


そこから第二次世界大戦を経て、《魔法協会》は《魔術》と共に管理するとして新たに《魔導》という定義を決め、《魔法協会》と《魔術協会》は併合して《魔導協会》が誕生した。これが今日まで続いている。これが大まかな魔導学の歴史の流れだ。


「よし、では藤。《魔術》にとっても《魔法》にとっても《魔力》というのは重要だ。《魔術》の発展と共に生み出された《魔力》を保有できる入れ物を何という?」


次に教師が指名したのはこの高校でも一年の美少女と言われる人気の女子だった。そして俺の幼馴染でもある。


「《魔石》ですね。しかし魔石は最初に魔力を保有できたのを発見したのが石であって、現在では様々な形状をしておりあくまで魔石というのはそれらの総称でございます」


「完璧ですね。魔石の際に皆様の前にお見せしましたが、液状から個体にもできます。ですがそれぞれ名称を決めるとややこしいため、《魔導協会》は一律してそれらを魔石と定義しました」


追加で言うと、《魔導銃》と呼ばれる銃器は弾丸自体に魔力が付与されてたりもするので、発砲する本人でなくても魔力が込められた弾丸を発射できる。他には高濃度の魔素でないと生息、植生しない動植物において、気体に魔力を保有させる事で、地域や地形、環境によらずに保管し管理ができる。


「この2人は期末テスト満点。といってもこの2問の正答率は高いので出来て当たり前ですけどね。わかってなかった人はしっかりと覚えるように」




「はぁー。終わった終わった」


(みなと)、一緒に帰ろう?」


夏期休暇の課題なども配られ、夏期休暇中の行事も連絡されホームルームが終わりようやく夏休みとなった。俺と幼馴染の(ふじ)愛美(まなみ)はクラスの学級委員だったので、他の帰宅する生徒よりも少し残っており時刻は昼過ぎとなっていた。まだ高校には部活をする生徒もおりまだまだ活気溢れていた。


「昼はどうする?」


「うーん。学食は今日は閉まってるし、どこかに寄る?」


俺と愛美の家は隣同士だが高校からは少し距離がある。自転車で通うにも高校がこの付近では1番標高が高く、周辺には危険な坂道が多いため自転車通勤を禁止されていた。そして悲しいことに俺達の住む付近は田舎にあたり、自転車でも急いで40分近くかかり、徒歩とバスで1時間かかる。なのでどこかに昼食を取ろうと俺は提案した。

愛美も同意して案を提示した。だがどれも気分ではなく、2人で悶々としながら高校の校門を抜けて坂道を下る。


「暑いし冷やし系も良さそうだけど」


「今日の夜は蕎麦だからねって、後で蕎麦用の天麩羅買わないとな」


「確かに」


俺の両親は共働きで普段は家に居ない。愛美の両親は不慮の事故で亡くなっており現在は一人暮らししている。愛美の両親が存命の時は愛美の家でいつも食事していたが、今では互いの自宅で料理を作り合っていた。そして今日は俺の両親が帰ってくる日であり、両親は必ず名物の蕎麦を土産にする。なので俺も自宅近くにある町では有名な天麩羅屋の天麩羅を用意するのが習慣になっていた。


「じゃあさ、私達テストほぼ満点で学年二位三位だからそのお祝いであそこの天麩羅屋にしない?」


「確かにあそこの天丼は良いかもな。そうしようか」


「ええ」


俺と愛美は今回の期末試験で互いに高得点を出し俺が学年二位、愛美が三位を取った。ちまみに一位は高校の理事長の孫娘で、高校入学前に面識があった人である。


普段はスーパーで食材を買って料理し互いに弁当を作るために外食はあまりない。だが今日は試験の結果が良いし、たまには食べてみたい事もあり互いに天麩羅を持ち帰るついでにそこで昼食を取る事にした。




高校から歩いて5分。バス停で待っていると、道路を挟んだ反対側の電光掲示板が昼のニュースの知らせる。


「最近活発化してるな」


「蚊のようなものよ。彼等も生きているから仕方ないわよ」


そこには最近になって《魔物》の目撃情報が相次いでいるとのものだった。


かつて《人類》に恐怖を与えた生命体《魔物》。そして彼等を率いていた《魔人》。実は第一次世界大戦とはこの《魔人》率いる《魔物》の軍勢を世界規模の連合で追い払ったものである。その結果として彼等はこの大陸とは別の通称《魔大陸》と呼ばれる、人類が住むこの大陸の数倍以上の面積を持つ大陸へと追い返した。だが完全に追い返した訳ではなく、山や森林、海に下水道など日陰に隠れている。山から猪が降りてきたのと同様に、《魔物》も稀に人里に目撃される事もある。だがその頻度がここ最近多いのを俺が不思議に思っていた。


それに対して愛美は野生の動物と同じと答えた。未だに《魔物》に関しては詳細な生態なとが判明していないが、わかっているのは《人類》に敵対する以外はしっかりとした生態系を形成していることだけだ。


「やっと来た」


バスが予定時刻よりも遅れて到着した。渋滞にでも巻き込まれたのだろうが、暑い夏で日差しを避けられるバス停とはいえ、少しの遅延でも非常に身体に堪える。俺と愛美は駆け込むように冷房の効くバスの中に入る。


「すまないね。急患で出てきてて遅れたんだ」


「それは仕方ないですね」


いつも朝の通学時にいる馴染みの運転手から遅延の原因が語られた。いかに冷房が効いてても水分不足から来る脱水症状なのか、体調を崩した乗客の対応をしていたらしい。


「では発車します」


運転手は俺と愛美以外に乗る者がいないとわかるとバスを発車させる。慣れた運転で街中を走り回る中、俺と愛美は自分の携帯端末を弄っていた。俺と愛美はソシャゲなどはやらないので俺はSNSを、愛美は外国語のアプリで単語の確認をしていた。


バスの窓に映る風景が街中から田舎の田んぼ、山に変わり、次第にバスの乗客が減るなか、ようやく最寄りのバス停に到着した。


「彼女さんに厄介虫がつかないようにな」


「彼女じゃないですよ」


運転手は俺が運賃を払う途中、そう冗談のように揶揄ってきた。確かに愛美は才色兼備で人気もある。そして妙に俺との距離感が近く、互いの家庭を良く知り自宅を行き来して食事を共にする事もある。だがどちらかというと互いの両親の親交が深かったからこそであり、お互いに幼馴染という感覚だ。邪な感情はなくそれは愛美も同じだった。


そんな事もありつつ俺達は目的の天麩羅屋に到着した。


「おう湊君、愛美ちゃん。いらっしゃい」


「いつものお持ち帰りもだけど、その前に注文したいんだ。席は……」


「この時間なら空いてるぞ。好きな席に座ってろ」


何度も利用してるので店主と接客する店主の娘さんとはもはや知り合い。自慢になるが俺の両親はこの町では有名であり、ここの天麩羅がお気に入りというのも周知の事実。そして今は亡き愛美の両親も良く通っていたらしく、4人の出会いもここなのだとか。


地元でも雑誌に載る有名店であり、昼時には平日でも店内は人でごった返すのだが、既に昼時を少し過ぎており丁度他の客がで払っていたため、客は俺と愛美だけだった。


「俺は天丼だけど、愛美は?」


「私も同じので」


「天丼二つね」


店主の娘さんに注文をして、冷え冷えになっているお冷を互いに喉を潤す。程よい冷たさが火照った身体によく染みる。


「おいおい。ビール飲んだサラリーマンな反応してるんじゃないよ」


「外の気温、30°超えてますよ?」


「こっちは常に30°超えてるから変わらないよ」


俺達の反応に店主はツッコミを入れた。まあ日頃からその温度の厨房で働く店主にとって、この気温に暑いの感情は抱かないらしい。ならなぜ注文したのに厨房から出てきているのだろうか。まあ店内は冷房効いてるから涼んでいるのだろう。それに今は客は他にいない。涼む程度なら文句はないだろうし、俺達は店主の仕事は抜かりない事もわかっている。


「ねぇ。湊君は高校ではどんな感じ?」


店主の娘さんが愛美にそう尋ねた。それに対して愛美は彼女にだけ聴こえるようにして耳元で囁いた。なぜ彼女は俺の事を訊いてきたのか、またなぜ愛美も俺に聞こえないように答えているのか。


「なるほど。相変わらずみたいね」


「なんて答えたんだよ」


「フフ、秘密」


愛美は可愛らしく口に指を置き誤魔化した。高校の愛美が好きなファンクラブからしたら写真に撮って永久保存したい表情と仕草だろう。しかし愛美はこう見えて人見知りが激しく、他に見知らぬ人がいればこんな事はしなかっただろう。逆に言えばここの店主や店主の娘さんには気を許してる事になる。


「おい天丼出来たぞ。それと持ち帰りの天麩羅はどうする?もう作っても?」


「そうですね。お願いします」


天丼とセットの漬物と味噌汁が互いに届く。胡麻油を使用しているため、既に漂うその匂いにお腹の空腹が満たされる。







「美味しかった」


「そうだね」


十分天丼を堪能し、お持ち帰りの天麩羅を受け取りお会計を済ました俺と愛美は帰路に着く。まだ時刻は昼過ぎであるが、既に近くの小学生は下校して川や公園などで遊んでいた。


「おっ、湊と愛美じゃん」


そんな公園で遊ぶ子供達を見守るのは1人の青年だった。そしてその青年は俺達の幼馴染であった。


穆成(かずしげ)。お前のところも今日からか?」


「そうだな。それよりも相変わらず愛美と2人でデートか?」


「お前も相変わらずだな」


穆成は高身長でかつガタイの良く金髪でその上目つきが悪いため見た目だけ見れば不良と間違われる。それに彼の通う学校はこれまた不良が通ってそうというイメージがある工業高校。しかし俺達は穆成が不良ではないことはわかっている。


まず彼の容姿だがこれは彼の父親が関わっている。彼の父親は日本に来日してきた建築家。そのため父親の遺伝により地毛が金髪となっている。


次にガタイが良いのは彼のアルバイトの関係である。穆成には5歳になる弟がいるのだが、色々あって父親と母親は離婚。養育費は払っているものの金銭的な問題もあり、穆成は嫌な噂が目立つスポーツジムでアルバイトしていた。確かにスポーツジムの経営者や職員は元暴力団であり、昔はフロント企業として警察にマークされていたのだが、真っ当な経営をしており穆成はジムの利用者からもスタッフからも可愛がられており、その過程で鍛えさせられ今のような逞しい肉体になっている。


最後に工業高校に進学したのは、いち早く資格を取得でき高収入の仕事にありつけると彼自身が選んだからだ。


見た目は損だが弟や母親を思っての行動で家族想いのとても良い奴。また現在彼女がいるらしく、彼からしたら順風満帆な生活をしている。まあその彼女も訳あり過ぎて余計に穆成の噂は良くないのだが。


「天麩羅って事は今日は親父さん達帰ってくるのか」


穆成は俺が持つ天麩羅屋の袋から俺の両親の帰宅がわかったようだ。まあ俺が自分の為に天麩羅を買う事はまずないのを知っているからだろう。


「そうだよ」


「穆成。この間、マイケルさんに会ったんだっけ?」


「ちょっ、愛美。それは……」


マイケルさんというのは穆成の母親の夫。つまり穆成の実父である。特段、穆成とマイケルさんとの間に変な軋轢とかはなく、普通に親子として接しているが、いかんせんマイケルさんはそこそこ名の知れた建築家であり、世界中を旅する多忙な人。頻繁に会う事が出来ず、半年に一回は穆成と穆成の弟である(たくみ)君の面会をしているのだが、穆成はバイトで忙しくここ数年は会っていない。匠君はまだ物心つくまえにマイケルさんは離婚したので父親というよりも、優しい親戚の叔父さんといった認識でいるため、マイケルさんは少し不満そうにしていた。しかし自分で決めた道なので後悔はしていない様子だ。


愛美はそんな状況でいきなり数年振りの面会をした穆成の心境を尋ねたのだ。俺も気にはしていたが、いくら幼馴染でも他人の家庭においそれと口に出せない。逆に愛美はこういったデリカシーとかはなく直球に訊いてくる。


「まあね。暫く会ってなかったから少し老けてたとしか思ってないな」


穆成は少し気まずそうに答える。まあ彼なりにマイケルさんとは思うことがあったのだろう。とにかく久々にバイトもなかったので会えたのだ。実はバイト先の経営者が穆成の為に時間を空けさせたのだが、これは穆成には教えないようなと念押しされていた。


「まっ、忙しそうにしてたな。それと資格とかに関していくつか聞きたかった事があったからな」


確か穆成は建物の設計とかに興味があるらしく、父親ではなく建築家としてのマイケルさんと面会したのだろう。


「あれ?湊兄さん、愛美姉さん。こんちには」


「匠君、こんにちは」


「こんにちは」


友達と遊んでいた匠君は俺達がいたことに気づいて礼儀良く挨拶をする。なので俺も愛美も挨拶を返す。


「あれ?この匂い」


「今日は俺の父さんと母さんが帰ってくるからね」


「えっ!月影(つきかげ)さんと(ひかり)さんが?やったぁー」


匠君は俺の両親が帰ってくるのを知ると大喜びしていた。まあ俺の両親は共に子供達が憧れる職業であり、その業界では名の知れたレベルだ。久々に両親の話を聞きたかったらしく、匠君は騒ぎそれを「匠、静かに」と穆成が注意した。


「残念だが今日はお袋と久々の外食でね。明日以降にお邪魔するよ」


「そうか。じゃあね匠君」


「ばいばい匠君」


「ばいばーい」


穆成の母親は元々通訳だったときの語学力を活かし、国内外の企業と企業の橋渡しをする仲介企業の正社員として働いているので、夏のボーナスで久々の外食をするのだろう。それは俺と愛美が俺の両親が帰ってくる時に天麩羅と蕎麦を食べる時と同じ習慣だ。







「じゃあ私は一度シャワー浴びて着替えてくる」


俺と愛美と自宅は隣同士。何なら俺の自室と愛美の自室は窓を挟んだ隣同士。小学生の頃はよく窓から伝って互いの部屋を行き来していたのは懐かしい。

両親が亡くなり愛美は以降は1人暮らしになっていた。愛美の両親はどちらも駆け落ちで実家から勘当されており、愛美を引き取る親戚がいなかったのもあり、愛美の後見人は俺の両親となっている。そのためわざわざ1人暮らしじゃなくても、俺の家の空き部屋を使えば良いのだが、愛美は何故か亡き両親の家に執着していた。それはひとえに愛美と彼女の両親との思い出がこの家なのだからだろうか。


実は愛美と亡き愛美の両親に血縁関係はない。愛美はある時に俺が自宅の前で倒れていたところを保護したのだ。保護直後の愛美は自分の名前以外はわからず、警察などに捜索届けや行方不明者の確認をしたが、愛美の情報は何もなく孤児として養護施設に引き渡されるところに、当時実の子を亡くし、俺の両親と仲が良かった藤夫妻が愛美を引き取ったのだ。


そこから愛美は俺と共に成長して今に至っている。愛美にとって義理とはいえ藤夫妻を本当の家族として思っているからこそ、1人暮らしを続けているのだろう。


俺は天麩羅を冷蔵庫にしまい、高校の鞄を自室に置きシャワーを浴びて部屋着に着替えていると


「お邪魔するわよ」


そこには高校の制服から着替えた私服の愛美が脱衣所に顔を出してきた。蒼色のノースリーブにオレンジ色のフレアスカートの愛美は俺が上半身裸の姿を見ても特に恥ずかしがる事もなかった。逆に、


「更に鍛えた?」


「まあな」


俺の腹筋を積極的に触っていた。俺は父親の影響から日頃から鍛えているので筋肉は程々ついている。そして愛美はたまに俺と一緒に鍛えている。


俺はシャツを着て脱衣所を出るとリビングに移る。俺は冷蔵庫から麦茶を愛美の分と共にコップに注ぎ彼女に渡す。


「ありがと」


「で?父さんと母さんが帰ってくるまで何してる?課題でもするか?」


「今日は久々に湊に勝ちたいのよ」


確かに課題をする気なら既に課題を出している筈だが、愛美はそれらしいものを持っていない。俺の問いかけに愛美は俺に対してリベンジすると宣言した。


「全く、愛美は俺に勝てる訳ないだろう?」


俺はゲームが好きであり勉強は最低限で後は全てゲームに没頭しているゲーマーだ。それに影響してか愛美もゲームは好きであり、彼女が隣同士になった以降は事あることにゲームで勝負をしていた。


つい最近やったのは昔からある落ちてくる特定の形状のしたブロックを積み上げていき、一列になったらブロックが消えるパズルゲームだった。俺はゲーム全般はそこそこ強いのだが、愛美はこういったパズルゲームが少し苦手なので、俺との勝負には殆ど勝った事はない。


「何を言っているの?私はこれをやるのよ」


愛美はそう言って立ち上がりリビングのテレビ台に置かれている多数のゲームソフトの中から取りだしたのは近未来型のゾンビゲームであった。完全な新作であり、斬新な独自システムと既存のゾンビゲームの要素を上手い具合に融合させたものであり、日本国内外でもそこそこなユーザーがいるものだった。


「私は試験前にソロ部門で日本ランキング1位を取ったわ!」


「やりこみすぎだろ」


このゲームにはプレイヤー同士の対戦型……PvP要素はないのだが、ソロや二人組のデュオ、三人組のトリオと四人組のクアッドそれぞれにランク制度が設けられ、同じ条件の下でどれだけ多くのポイントを獲得したのかで競い合う。ゲームのシステムを理解しつつ、毎回異なる敵の出現パターンに対応して効率的なポイント稼ぎをしないといけない。そこでソロ部門で日本トップスコアとなると愛美はかなりやりこんでいたのだろう。自身満々に勝負を突きつけたのはそれが理由だろう。


「いいだろう。だが少し操作を思い出させてくれ」


俺もそのゲームは発売当初にプレイしていた。だがすぐに好きなタイトルの続編が発売された事で、ストーリーなどは全クリしたが、ランク制度には最初期しか参加したことがなかったのだ。そしてそこから殆どプレイしていないので操作を忘れていた。


「いいわよ」




「で?」


結果としては俺の全戦全勝。愛美には忘れては困るが俺は愛美が突きつけたゲームをやっていないだけで、他の様々なゲームをプレイしているし彼女のプレイスタイルとかは全て俺から学んだ戦法。つまり俺と彼女が同じプレイスタイルで挑むと、より経験が多い俺の方が有利になる。


だが経験が多いだけで後はゲームをどこまで知り尽くしているか。何回かは愛美の方に有利な状況が続いて危ないところもあったのだから愛美もかなり練習していたのだろう。


「むー!!」


だからだろう。愛美は可愛らしく頬を膨らませて足をバタバタとしていた。学校では中性的で無口で無感情だが、しっかりと感情の起伏のある可愛らしい女の子だ。だがだからといって足をばたつかせていると下着が見えてしまうのでやめてほしい。俺は慣れたが年頃の女性としてははしたない。


それにしても今日はスタンダードの黄色に出来た向日葵の花に象られたレースの模様か。前に買い物に行った時や把握している種類ではないので、定期試験前に女友達と買い物に行った時に買ったものだろうか。


「そろそろ帰ってくるか」


まだ時刻は午後7時前。ようやく夕暮れ時なのだが、既に母さんから日本に戻っていると連絡を受けているので、そこから自宅まで大体の時間を計算するとそろそろ色々と準備した方が良いだろう。


「湊」


俺が立ち上がり夕食の準備に取りかかろうとした時、愛美が声を掛けてきた。


「何だ?」


「湊は将来についてどれくらい考えてる?」


「将来?とりあえず大学は出たいからな。父さんも母さんも無理して同じ職業にしなくていいって言われているからな。その先はまだ考えていない」


以前は両親の後を継ぐように期待されていた。そして俺には両親に後を継げる程の素質は持っている。これは自慢ではなく事実。だが俺には特別両親の職業を継ぐメリットはない。でもどうしてもなりたい職業があるのかと言われれば別。なのでまずはどんな職業にもなれるように大学は卒業する事を考えている。まあここで医学部や薬学部には興味がないので医療関係にはならないだろう。


「そんな愛美は相変わらず通訳とか翻訳家か?」


愛美は英語を始め16歳で既に中国語やドイツ語、ロシア後も出来ている。中学の頃、いつどこで習っているのかと訊いたら、自然と覚えていたらしい。もしかしたら愛美は元々そういった環境で育っていたのかと考えられるが、今になっても愛美がどこの誰なのかは判明していない。


そんな背景で愛美は中学の頃は通訳や翻訳に関する仕事に就きたいと言っていた。ここで将来の仕事を愛美が訊いてくるということは……


「変えようと思っt」


「「ただいま~」」


愛美が言い切る前に、玄関から二人の男女の大声が聞こえた。それによって愛美が何と言ったかは聞き取れなかった。


「おう、湊。愛美ちゃん。ただいま」


まずリビングに来たのは父さんだった。筋骨隆々という言葉が似合うマッチョな肉体。日本人離れした目鼻立ち。顔立ちも良いのだが、その肉体と圧倒的なオーラは獣のように感じる。


「あら?お楽しみのところだった?」


続いて出てきたのは母さんだった。母さんは16歳の俺がいるとは思えない程若く、未だに若い職場の新人に言い寄られていたりする。顔立ちは抜群で母さんの学生時代は漫画の世界のように下駄箱にラブレターの雪崩が起こったなど、数々の伝説を作り上げている。父さんと並ぶと美女と野獣という言葉が似合う。


「母さん。とにかくもうすぐ沸くから蕎麦をお願い」


母さんは事あることに俺と愛美をくっつけようとしている。それは亡き愛美の義母も同じで、まるで俺と愛美は将来付き合って結婚するかのように望んでいた。だが今の所俺と愛美は互いにそんな感情を抱いていない。


「ふん面白くないな」


「そうね。学校の成績も面白くないわね」


父さんはお土産の蕎麦を俺に渡して俺と愛美の進展がない事にがっかりし、母さんもそれに同意しつつ食卓テーブルに置いた、今日返された高校の成績を見てこっちも変化がない事に呆れていた。


いや、成績が良いだけ嬉しく思ってほしいのだが、どうやら両親とも得意科目はすこぶる優秀だが、苦手科目はとことん苦手らしい。


「さてと。湊はそのままでいいから愛美ちゃん。前に送ってくれたメールについて改めて話しておこうか」


「ええ。湊に今その件を話そうとしていました」


俺の両親に相談する。そこで俺は愛美がどんな仕事に就きたいのか何となくわかってしまった。そして父さんは単刀直入に愛美にこう告げた。


「《ギルド連合》の人事に掛け合ったら愛美ちゃんを是非引き受けたいと色濃い返事を貰ったんだ。だが推薦を貰うには他に何人かにも愛美ちゃんの実力を示さないといけない。だからこの夏は忙しくなるよ?」


「ええ。構いませんよ」


ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回は1/15の23時です。あらすじにも書いているように、二週間ごとの土曜日の23時にて投稿します。ですが作者の都合もあるので適宜活動報告やTwitterにてお知らせします。

なお作者のTwitterは日常の呟きもしておりますが、作品に関する質問などはこちらの感想欄などにお願いします。


一応作者のTwitterアカウント名→「@miyafinder」


ではまた次回

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