社員旅行にて
今年の社員旅行は、毎年のことながら、一度に全員では無理なので、3回に分けられるという話だった。
行先は、鹿児島指宿温泉、奈良、富山県氷見市で、私は、最後の氷見市への旅行を希望した。
鹿児島へは既に行ったことがあったし、奈良も中学の修学旅行先。富山だけは行ったことがなかったのだ。
「氷見市って何があるんですか?」
社員旅行の幹事を務める千葉君に訊いたところ、「藤子不二雄A先生の生まれた光禅寺っていうお寺がある。あと温泉。」と返ってきた。
お寺、はともかく、やっぱり温泉なのね。社員旅行といえば温泉。温泉といえば社員旅行。
そんなわけで、行って、温泉入って、食事する。の旅行になるのだと思っていた。
思っていたのだが、なぜか、今、私たちは、ジャージ姿にぬいぐるみを抱えて、体育館にいる。
「せっかくだから、何かリクリエーション的なこともやろうかと思って。そしたら、ちょうどいいのがあったんだ。」とは、千葉君の弁。
ここ氷見市には、漫画家の生家と温泉以外にも名物があったのだ。
それが、ブリ。寒ブリだ。
そして、ハンドボールが盛んなのだという。
で、何を思ったのか、ブリとハンドボールを混ぜちゃったらしい。
発想が、漫画家のようだ。と言ったら、怒られるだろうか?
しかし、これ、結構、難しいのだ。
だって、魚のぬいぐるみを脇に挟んで、さらに挟んだ方の手でボールを投げるとか、結構、無茶なことをするのだ。
ぬいぐるみは、なかなかカワイイのだが、脇に挟んでいるため潰れてしまっている。すまん。
そして、脇からぬいぐるみが落っこちてしまうと反則を取られる。
「スレ」というらしい。
これ、傷物っていう意味なんだそうだ。
「あぁ、まだ婿入り前なのに、傷物に……。」
……、誰かが言うと思った。“傷物”になったのは、柏木君。彼はそのまま「冷蔵庫」送りとなった。
「冷蔵庫」というのは、退場者席のことである。反則を犯すと、相手チームが得点するまで退場扱いなのだ。
それにしても「冷蔵庫」とは……。
っと、こっちにボールが飛んできた。わっ、ちょ、ちょっと……。
何とかボールはキャッチできたが、あっという間に、周りを囲まれる。
あ、同じチームの木下さんが見えた。私はすかさず、パス……。あ、やってしまった。
「だらぶつ~。」
審判から宣告を受けた。
ちなみにこの審判、魚市場の競り人の扱いなんだそうだ。そして競りの時に使う帽子を被っている。
何をやってしまったかというと、ぬいぐるみを脇に挟んだ方の手と反対の手でボールを投げちゃったのだ。
「「「「「「だらぶつ~。」」」」」」
相手チームのメンバーたちに指差し付きで、「だらぶつ」コールをされてしまった。
これ、氷見弁で“ばかもの”って意味なんだって。ひどくない?
私は、魚のぬいぐるみを脇に挟んだまま、「冷蔵庫」へ移動した。
「お、いらっしゃ~い。」
先に「冷蔵庫」送りとなっていた“傷物”柏木君に出迎えられた。
「はぁ、結構、ハードだわ。息が上がる……。」
「かえって「冷蔵庫」、休憩になっていいかもね。」
私たち2人は、「冷蔵庫」ベンチに並んで座って、試合の様子を眺めていた。
相手チームの若手、近藤君がゴールを決めた。
「「「「「「出世ぇ~。」」」」」」
相手チームがすかさず、「出世」コール。
「出世」すると、脇に挟むぬいぐるみを大きいものに交換するのだ。
近藤君は、脇に2番目の大きさのぬいぐるみ「フクラギ」を挟んだ。
「フクラギ」というのは、ブリの幼魚のことらしい。成長すると名前が変わる出世魚にちなんでいるのだ。
私と柏木君もフィールド内に戻る。
試合再開だ。
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結局、私はゴールを決めることはできなかった。
脇に挟まれていた魚のぬいぐるみは、最初の大きさのままの「コズクラ」。
柏木君は健闘し、2度の「出世」を果たした。脇に挟まれたぬいぐるみは「ガンド」。75センチと、かなりでっかい。
しかし、相手チームの近藤君は、なんと3度の「出世」で「ブリ」となった。1メートルのぬいぐるみ。なぜか太眉毛と髭が付いている。
最後に、審判が、競りの時に使う棒を持ってきた。
プレーヤーのぬいぐるみを体育館の床に並べたところで、審判は中央を棒を持って通り、集計をするのだ。
「コズクラ」は1点、「フクラギ」が4点、「ガンド」は6点、「ブリ」は7点。
私たちのチームは14点、相手チームは15点だった。
疲れた。疲れたけど、何か面白かった。
ただ、明日は、絶対、筋肉痛に悩まされると思う。
ただ、今晩は、美味しいブリを食べるのだ!