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【第一部完】断罪されたりもしたけれど、私は元気です! ー深淵の魔王様とミルクティー色の髪の冒険者ー  作者: tea


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5.こうして国境を越えました

まずセスに連れられ向かった先は古着屋さんでした。


「とりあえずお前、今からオレの女になれ」

そう言いながら街の女の子達が着ているような質素なワンピースを投げ渡されます。


はっ!

この人もしや、少年に女装させて、あんなことやこんなことさせるのが趣味の人!?


腐った妹からの日々の啓蒙教育の甲斐あって同性愛に偏見はありませんが、いたいけな少年を喰い物にする悪い輩は、青少年健全育成のため今ここで成敗したいと思います!



そう思って身も心もザッと彼から距離を取れば

「バーカ!! お前は既に一回警備兵に顔見られてるから、女装させておれと夫婦だってことにして国を出るんだよ」

そう言われ頭を小突かれました。



小突かれたことに少しムッとしましたが……

まあアイディアとしては無難そうなので、大人しく店の奥の個室で着替えることにします。


女の子なのに女装させられる羽目になろうとは……。

少し複雑な気分です。



「かわいいじゃん」

着替えた私を見て、セスがニヤッと笑って言いました。


恐らく、彼としては意地悪を言って思春期の少年をからかっているつもりなのでしょうが。私、正真正銘の女の子なので『かわいい』と言われて別に悪い気はしません。


「どーも」

気の無い返事を返すと、つまらないなぁとでも言うかのようにセスが肩を竦めました。





着替えた後、セスが魔法で私の瞳と髪の色を平凡なこげ茶に変えてくれました。

ほほう!

この世界にはこんな便利な魔法もあるのですね!!


そう思って剣と魔法の世界に改めてワクワクしていた時でした。

セスが突然、まるで本当の夫婦のように私の肩を躊躇いも無く抱き寄せました。



セスの、思っていたよりも広い胸の中に抱き込まれた瞬間、

『ドキッ!!』

と心臓が思いっきり強く跳ねました。


セスは、色素薄目で顔も大変綺麗だったので、何となくヒョロッとしているのかと思っていたのですが……。

その成人男性だけあって、やっぱり女の子とは体つきが違いますよね。

私の肩を優しく抱く腕の何気ない力強さに、抱き込まれた胸の堅さに、纏っているどこか甘いムスクの香りに……

突然のキャパオーバーを迎えた私の頭の中がてんやわんやになります!!



そしてセスさん、意外と背が高かったんですね?!

私、悪役令嬢として威圧感醸せるよう、この世界の女の子の中でも割合背は高めなのですが、セスは更に頭一つ高いです。

なのでこんなに密着されると、セスの形のいい唇が、ふと横を向いた弾みに私の耳に触れてしまいそうな……そんないたたまれない錯覚を覚えます。



セスはそんないっぱいいっぱいの私に構うことなく、そのまま悠々歩いて進み、慣れた仕草で偽造した許可証を警備兵に見せ、あっさり国境を越える許可を得ました。


「どうした?」

狼狽する私が面白いのか、警備兵の前でセスがまるで初心な新妻を気遣う様に、私の顎をその綺麗な指でクイっと上げさせ、その綺麗な空色の瞳を優し気に細めながら甘い甘い声を出しました。



……腰、抜けるかと思いました。

この人、無駄に声までいい!!

誰だ?!

こんな胡散臭い男にこんなオプションまで付けたのは?!

あの自称女神様ですか???

あのおっちょこちょいさんですか?!!!



恐らく新婚さんだと思われたのでしょう。

さっき、私を野良鹿のように追っ払った警備兵さんが微笑まし気に見送ってくれます。


偽造された書類を見抜けない残念な警備兵さんに、

『コイツのこの慣れ具合、恐らく常習犯です!!』

そう告げ口したくて溜まりませんでしたが、そうすると私も捕まってしまうので涙をグッと呑んで耐えました。





国境を過ぎ少し歩いた後―

「助かった、ありがとう」

そう言って肩に乗せられたセスの手を思い切り払い除け、少し距離を保ったまま残りの報酬を支払いました。



誰にも見えないところで、また元の少年の恰好に着替えます。

瞳の色と髪の色を変えた魔法は、日没までには切れるだろうということで、そのままにしておくことにしました。


着ていたワンピースなどをセスに返そうとしたところで

「似合ってたからやるよ」

とセスがまたニヤッと笑って言いました。

彼としては引き続き少年をからかって怒らせたいのでしょう。

でも、セスは結局最後まで気づきませんでしたが、私、正真正銘女の子なので!!


「じゃあもらっておく」

脱ぎたての服をセスに渡すのも嫌は嫌だったので、さっとポケットに仕舞えば

「さっきまで可愛かったのに。ホント、つまんないヤツだな」

と、またしても頭を軽く小突かれました。



国境を越えたため契約は終了しましたが、次の街まで一本道なので結局セスと次の街まで連れ立って歩きます。

「そう言えば、セスって普段は何をやってるの? やっぱり詐欺師?? それとも結婚詐欺師?」

何気なく思ったままを口にすれば、セスがヒクッと頬を引きつらせました。

「『やっぱり』って何だよ?! しかも詐欺師と結婚詐欺師の二択って……それ実質オレの事詐欺師って前提で決めつけてるよな!? まったく、人の気も知らないで……」


セス、何やら不満そうにブツブツ言っています。


「じゃあセスって何者?」

そう聞けば、セスが僅かに目を泳がせました。

どうやら人には言えないお仕事の方のようです。

やっぱり、さっき告げ口するべきでしたでしょうか?


ジト目を向けたまま、再度セスから距離を取れば

「さっき書類を偽造したのはお前の為だろう?! いいか、おれは犯罪者じゃないからな! 変なところにタレ込むなよ。言ったらお前の事も言うからな!!」

セスが慌ててそんな弁明を始めました。

こちらを脅してくるなんて益々怪しいですね!


そんな私の心境に気づいたセスが、溜息をついて言いました。

「……信じてないな。分かった。今夜少し付き合え、オレの普段の仕事を見せてやる」

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