4.ミルクティー色の髪のちょっと胡散臭いお兄さんが助けてくれるようです
声がした方を振り返ると、ミルクティー色の髪に、晴れ渡った空の様な綺麗な青い目をした全体的に色素薄目の、いかにもチャラそうな外見の男の人がニヤニヤしながらこちらを見ています。
「お前のことだよ、少年」
私に声を掛けられたのか分からずキョロキョロしていたら、今度は指をさされました。
あ、この人間違いなく私に話しかけていたみたいです。
年は二十歳ちょっと過ぎといったところでしょうか?
外套を羽織り旅装束に身を包んだ彼は、乙女ゲームの世界の住人だけあって、メインキャラにそう引けを取らないくらい綺麗な顔立ちをしています。
でも……。
その表情や立ち振る舞い、そしてシャツの胸元をルーズに開いている様がなんとも胡散臭いです。
その人は、訝し気に眉を顰める私に構わず話続けました。
「見たところ貴族のボンボンだろ? おれが国境を越えさせてやるよ。……金貨三十枚だ」
そう言って、彼はニッと笑うと親指と人差し指、そして中指を立てた決めポーズを見せてきました。
イケメン好きの妹なら
「かっこいい!! ぜひ、ぜひ私に払わせてください~。推しのリアルATMになれるなんて僥倖!!」
って身もだえながら言われた倍額を勝手に支払おうとしかねないですが……
はい、私からしたら胡散臭さ三割増しただけですぅ。
……どうしましょう?
これが前世なら、見えてない、聞こえてない振りを貫いてスルーする一択なのですが。
他に『違法に国境を越えさせてくれ』と頼める知り合いもここにはいませんし、渡りに船と言えばそうなのです……。
あ!ちなみに私、妹からは
「お姉って、全く人を見る目がないよねぇ」
と言われておりました。
という事はですよ?
私が
『コイツは信用ならないな~』
と思っている彼は逆に信用しても大丈夫という事でしょうか??
よし!
女は度胸と昔からいいますしね!
ここはひとつ、騙されたと思って彼に任せてみましょう。
他に手もありませんし。
いざとなったら私、騎士様よりも強いようですしおすし。
「わかった」
私が短くそう言うと、彼が先払いだとさっそく支払いの催促をしてきました。
『お金お金』
と思いながらポケットを探ると、年末にTVで見た商店街の現金つかみ取りのような感触がありました。
とりあえず掴めるだけ掴んで渡せば
「馬鹿野郎! 人前で大金貨なんて出す奴があるか!!」
と小声で叱られます。
どうやら彼の話によると、日本円にして金貨一枚が一万円、銀貨一枚が千円、そして大金貨1枚で百万円くらいの価値があるようです。
「王都の近くの街に家でも買うつもりか?! これだから金持ちのボンボンは。気を付けないと身包みがされて埋められるぞ?」
彼はそう言いながら、大金貨を他の人に見えないように注意しながら突っ返してきます。
反省した後、金貨三十枚を渡したら
「こういう時はまず半分。成功の暁にもう半分払うんだよ。じゃないと金だけだまし取られるぞ?」
そうまた叱られてしまいました。
素知らぬ振りをして大金貨三十枚を受け取り逃げる事も出来たはずなのに……。
やはり彼は悪い人ではないようです。
なんか胡散臭いけど。
「セレスタイトだ。セスと呼んでくれ」
支払いを終えた後、セスがまた恰好付けるように少し斜に構えながら握手の手を指し伸ばしてきました。
『セスが仲間になった!』
って感じでしょうか?!
こういうロールプレイ大好きです!
初めての仲間がやや胡散臭いことは残念ですが、そこは見ないことにして男の子のようにガシッと彼の手を握り返します。
テンション上がってきました!
「お前のことは何て呼べばいい?」
ニマニマする私にセスがそう尋ねてきました。
そうでした、名前。
どうしましょう。
本名を名乗るのはまずいでしょうが、でも本名とあまりかけ離れていても反応出来る気がしません。
「……アルト……そう! アルトと呼んでくれ!」
アイオライトの名前を適当に男の子っぽく縮めてそう名乗ると、
「アルトな、分かった」
恐らくこちらが彼の素の表情なのでしょう、セスが白い歯を見せてニカッと人好きのする笑顔を見せました。