3.こうして国境まで行きました
キラーン☆
そんな効果音が似合いそうな勢いで、虹の彼方にぶっ飛んでいった騎士さんをボケ―ッと見送りながら考えます。
あれ?
別のゲームの呪文なのに使えましたね……。
試しに別の呪文も唱えてみます。
「surtr」
竜巻の時と同じように、突然目の前に火柱が上がりました。
どんど焼きの火柱を五倍くらい大きくしたような、火力満点のやつです。
「mimir」
今度は森の中で津波が起こりました。
水が火柱に注ぎ込み、水蒸気をモウモウと上げながらどんど焼きを無事消火して行きます。
良かったです。
さっきの津波で消えてくれなければ、私が森と一緒にお焚き上げされるところでした。
危ナイ、危ナイ。
ふと思いついて、御者さんが落としていった剣を拾い振ってみました。
剣なんて生まれて初めて持つのですが、片手でぶれなくブンブン振れます。
試しに、魔法を剣の刃先に乗せるイメージで少し先に立っている大木目掛けて振りました。
「vinder」
剣からおそらくカマイタチが発生して、ズズズっと巨木が地響きを立てながらゆっくり倒れていきました。
……うん、好きだったオンラインRPGの魔法や攻撃スキル全て使えてますね。
いや、助かりましたし魔法とスキルが使えること自体に文句はないのですが……。
ホントあの自称女神様、おっちょこちょいさんなんだから!!
気を取り直し―
「流石に回復アイテムとかはないかなー」
そう思って着ていたワンピースのポケットを探ると、ペタンコだったポケットから綺麗な小瓶に入った、RPGおなじみの回復薬が出てきました。
そういえば、ゲームのキャラクター達って、いつも手ぶらで歩いているのにどこからともなく割と大きめの重要アイテムを取り出して相手に渡したりしてますよね。
そうでしたか、こういう四次元ポケット方式でしたか!
オンラインで愛用していた武器と防具が欲しいなと思ってポケットを探ると驚いたことに剣が抜き身のままポケットからスルッと出てきました。
続けて防具も一式綺麗にまとまって出てきます。
装備するのに鏡が欲しいなと思っていると、大きな姿見まで出てきました。
気分はもはやド〇えもんです!
着替えている途中にひらめいて、ハサミを取り出すと、長かった髪をバッサリ切り落としました。
これもスキルのうちに入るのでしょうか?
適当に切っただけのはずなのに、仕上がりは美容室でカットしてセットしてもらったかのように整っています。
愛用の防具も剣もサイズは小ぶりですが男性向けデザインです。
短い髪に男性用の武器と防具を身に纏うと、身長が女性にしては高かった事が幸いして、まるでスラリとした十六歳くらいの少年に見えました。
今の私の顔は、女性的な服装をしているとその吊り目が強調されてしまい冷たそうな印象になってしまいますが、こうして男性の恰好をしていると猫目の好奇心旺盛そうな美少年といった印象に変わります。
いいじゃないですか!
週刊少年誌の主人公感満載です!!
何だか急に楽しくなってきました。
転生してしまった以上、グズグズ現状を嘆いても仕方ないですもんね。
ずっと憧れていた、フルダイブのオンラインRPGが出来てるのと同じだと割り切って、この世界を思い切って満喫してみたいと思います!
とりあえず―
特に行く当てもなかったので、馬鹿正直に国境の街に来てみました。
移動手段は馬車からお馬さんだけお借りしました。
馬に乗るなんて初めてでしたが、好きだったゲームに青いつぶらな瞳が愛くるしい黄色いダチョウみたいな鳥に乗って世界を駆け巡るシーンがあったので、
『もしかしたらいけるのでは?!』
と思ってドキドキしながらもトライしたら何とかなりました☆
人生、何でもやってみるものですね。
でも私、3D酔いする人間なので、黄色いダチョウもどきに乗った時も酔って辛かったのですが、それが災いしてか、やはり長い時間乗っているとお馬さんでも思いっきり酔ってしまいました。
街道の端で盛大にえづいていたところ、通りかかった栗毛のかわいらしいお姉さんが不憫に思って背中をさすってくれた上、水筒に入ったお水までくれました。
乙女ゲームの世界だからでしょうか。
この世界の方、めっちゃ優しい。
落ち着いた後、優しいお姉さんに汚いものを見せてしまったお詫びに、何かお礼に渡せるものはないかとポケットを探ります。
『何かいいもの』
そう思って探るのが悪いのか、無駄に伝説の武器だとか、不死鳥の卵だとか、そんなんばっかりが出てきて焦ります。
そんなん渡されてもお姉さんが困るでしょうに。
思案に暮れていたとき、ふとさっきまで身に着けていたアクセサリーやドレスの事を思い出しました。
「私が持ってても仕方ないので、よかったらこれもらってください」
そう言ってポケットから出した一式を取り出し申し出ます。
お古で申し訳ないのですが、仮にも公爵令嬢が身に着けていたものですから、売れば多少の値はつくのではないでしょうか?
特に、この紫色の宝石が付いた首飾りなどとってもかわいらしくて素敵ですし。
遠慮するお姉さんに、お礼だからぜひ受け取って欲しいとお願いすること七、八回。
ついにお姉さんが折れ
「ありがとう」
と嬉しそうに笑って受け取ってくれました。
ついでに国境までの道を尋ねると、何の事はない、この道をまっすぐ行けば歩きでも明日くらいで付くだろうとのことでした。
馬であれば夜までには付くのではないかということです。
お姉さんにお礼を言って別れた後、がんばって再びお馬さんに乗って進みました。
再びぶっ飛ばした騎士さんなりそのお仲間が探しに来ないとも限らないので、そうそうのんびりともしていられませんからね。
結果、散々迷った末、四日後に何とか目指していたのとは異なる国境の街にたどり着きました。
とりあえず踏切を通るくらいの感覚で、大勢の人に紛れシレッと国境を越えようとしたところ、許可証を見せろと警備のおっちゃんに止められました。
……まぁ、そうなりますよねぇ。
「(国外追放された身=)許可はもらっている!」
と言い張ってみましたが、やはり許可証がないとダメだと言われました。
「シッシッ!」
もう持っていないのにせんべいを求めてグイグイ来るシカを追い払うかのように、手を振って冷たく追い払われます。
出てけって言ったり、出さないって言ったり。
ホント、みんな勝手なんだからぁ!! (ノД`)・゜・。
街の噴水の傍で一人やさぐれていた時でした。
「そこの家出少年、オレが助けてやろうか?」
突然、背後で若い男の人の声がしました。