19.絶対戻ってきますから
今度こそベリル様と共に残ろうと、ベリル様に向かって手を伸ばしたその時でした。
突然、海辺の景色の一角が門の所でスパッとカーテンのように切れて、元の洞窟の景色が姿を見せました。
「ようやく見つけた!!」
そんな声に驚いてそちら向けば、何と景色の切れ間から、大人の背の倍近い大きさの真っ赤な飛竜に騎乗したセスがこちらに向かって勢いよく飛び込んで来たところでした。
飛び込んで来た勢いそのまま、背後から抱きすくめるように抱え上げられセスの腕の中に攫われます。
あと少しでベリル様に触れられる。
そう思ったギリギリのところでした。
私を背後から抱きしめたまま、セスは一刻も早くこの空間から離脱しようと、飛竜の首を瞬時に返し、すぐさま閉じようとしている空間の裂け目に向かって懸命に飛竜を飛ばしました。
ハッとしてベリル様を見れば、ベリル様は安心したような表情で、ガーネットの記憶と同じようにまたもや静かに微笑んでいらっしゃいます。
「セス待って!私ここに居たいの!!」
セスの腕の中で必死に身を捩りますが、セスは飛竜から振り落とされないよう必死な形相をしたまま私を抱きすくめる腕に力を籠めるばかりで、私の言葉に応えてはくれません。
「セス、離して! ベリル様が!! ベリル様!!!」
届かないと分かっていながら精一杯セスの腕の中からベリル様に向かって手を伸ばします。
しかし、ベリル様がその手を伸ばして下さることは、ガーネットの時の記憶と同様やはりありませんでした。
ベリル様の姿がどんどん小さく遠ざかっていきます。
共に残ろうと思っていたため、ゆっくりお別れを言うことも出来ませんでした。
久遠の苦しみの中に再び一人戻るベリル様に、私はこの瞬間、いったい何が出来るのでしょう。
そう思った時でした。
「絶対……絶対助けに戻って来ますから!!」
気づけばそう叫んでいました。
そして、私はこんな自己満足にしかならない言葉を口走ってしまった自分を、強く恥じました。
『だから私の事は忘れろと言っているだろう』
またそんな悲しくも苦しいセリフを、ベリル様に言わせてしまうのか……。
そう思った時でした。
「あぁ。気長に待っている」
そう言ってベリル様がニカッと白い歯を見せて笑ってくださいました。
ガーネットの記憶にあるのと同じ、彼女が心から愛した笑顔でした。
飛竜が空間の裂け目を越えた瞬間、発動した時と同じく魔方陣から光が爆発し、地面が激しく揺れ、辺りを地響きが包みました。
光が消えて目を開くと、魔方陣は崩れた洞窟の土砂に埋もれてすっかり見えなくなってしまっていました。
ガーネットの記憶で見た、城が焼け落ちた時の光景と目の前の光景が重なって、胸が苦しくて苦しくて……。
私は一人、長い事涙を止める事が出来ませんでした。
私が泣き止むのを辛抱強く待ってくれた後、セスが口を開きました。
「どーーーやったら、子どもでもこなせるお使いで三か月も迷子になれるんだよ!この大馬鹿野郎!!」
怒鳴られて完全に涙が引っ込みます。
そうでした(゜∀゜;)
既に忘れかけてましたけれど、私お使いクエストの途中でした。
しかも外の世界では三か月も経ってたんですねぇ。
びっくりです。
はっ!
楽しみにしていた、シチューの時期はもう終わってしまったでしょうか?!
季節限定メニューとかではなく、定番料理であることを祈るばかりです。
うん?
「そう言えば、何でセスがここにいるの? セスもハーブを摘みに来たの?」
また思ったままを口にすれば、再び額に青筋立てたセスにビッヨ~ンと頬を引っ張られました。
「お前がハーブ取りに行ったまま戻らないって食堂の女将が心配して連絡くれたから、ずーっとずうぅぅっと探してたんだよ!!」
おぉう、そうでしたか。
それはご心配おかけしました。
「大体何で歩いて一時間かからないくらいの野原に行ったはずのお前が、街から何時間も離れた洞窟の地下にいるんだよ!!」
「ふえっ? ほっひの一時間って三、四時間の事を指すんひゃないの?」
頬を引っ張られたまましゃべれば
「一時間は一時間だ。何訳の分からない事を言っているんだ、この大馬鹿野郎!」
セスに更に強い力で頬を引っ張られました。
「ほめんなふぁい」
とりあえず素直に謝ってみますが、セスの怒りは収まらず、頬がみょーん・みょーんと引っ張り伸ばされます。
いい加減ほっぺが伸びて戻らなくなるからと解放してもらいましたが、セスは相変わらずプリプリ怒っていました。
「そういえば、セスは何で私がいる場所が分かったの?」
もしや、子どもに持たせるGPS的な何かを付けられていたのかと思い尋ねると、
「お前がコイツを呼んだだろう?」
セスがそう言って飛竜に向かって手を伸ばしました。
セスに撫でてもらえると思った飛竜が『ギュワアァァ』と甘えた声を出して小さく首を伸ばしセスの指に鼻先を擦り付けます。
「呼んだ?」
はて??
全く覚えがありませんが?
「笛の音を聞いた途端、コイツが行き成り俺を乗せて、物凄い勢いで飛びだしたんだよ」




